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近くの彼女は遠い人  作者: へーまる
第1章 僕と高校生
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私が願う未来

お久しぶりの投稿です。就活と重なって合間合間にしか書くことができませんでした。


自分が誰かとの会話の中でよく思うことは、「口から出るのは本心なのか」ということです。自分の口から出た言葉や相手の口から帰ってきた言葉。また、相手が口に出した言葉とそれに返した自分の言葉。心で素直に感じたことや思ったことをそのまま口に出しているのかが分からない時はたくさんあります。相手に嫌われたくないという思いで相手の「言葉」に合わせてみたりもします。


今回のお話はそんな「心の本音」の部分を大切にしているお話です。

土曜日の夜、私は自分の部屋の窓から外の景色を眺めていた。特別に綺麗な夜景が見えるわけでも、珍しいものが見られるわけでもないが、この時間が私はとても好きだった。


明日は小林くんと遊園地に行く約束をしている。あまり夜風にあたりすぎて風邪をひいても良くないので、いつもより早めに切り上げてリビングに戻った。


「明日の夜は遅くなるから、お父さんの夜ご飯、今日のカレーの残りでもいいかな?」


「全然構わないよ。お友達と?」


「うん!遊園地に行ってくる!」


「なんだか昔を思い出すよ」


「昔?」


「渚が小さい頃は、よく遊園地に行ったからね。その前日はいつも、そんなふうに笑顔ではしゃいでいたよ」


「別にはしゃいでないってー!」


「そうかそうか。素敵なお友達ができたんだね」


「うん。すごくいいお友達だよ」


「気をつけて行っておいで」


「うん。ありがとう」


久しぶりにお父さんと昔の話ができた。お母さんが出ていってから、私はお父さんと小さな頃の話をすることがなくなって、それが少しタブーのようにもなっていた。本当は、私はこんなふうに昔の話をたくさんしたいと思っている。時間はかかるかもしれないけれど、きっとまた三人で、毎日笑って過ごせる日々が戻ってくると信じている。


それが、私の願う未来だ。そんなきっかけを与えてくれた小林くんにも感謝しないとね。


今日は早く寝ようとベッドに入ったものの、修学旅行の前日みたいに、なかなか寝つけずに何度も寝返りを打っていた。私は目を閉じながら、入学してから今日までに起きたことを思い返していた。入学してすぐの頃は新しい発見だったものが、今では毎日の当たり前になっていて、きっとこれからも、毎日の驚きはだんだん減っていくのだと思う。


だけど、徐々に起伏の少なくなる日々の中にも、昨日にはなかった喜びや幸せを感じる瞬間がある。そして、そのどれもがその一日を彩ってくれている。そして私が経験してきた、その小さな出来事のほとんどに小林くんの存在がある。


そんなことを考えながら、私はゆっくりと長い夜を終えていった。


予定通りの時間にアラームで目を覚ました私は、朝は時間がなくなることを見越して、あらかじめ用意しておいた洋服に着替えた。それでも、着替えたあと鏡に映る自分を見て「本当にこの服でいいのか」と悩み始めてしまう。


そんな自分に呆れながらも、「女の子ってそんなもんだよね」と自分に言い聞かせ、十分すぎるくらい悩んだあと、ようやく鏡の前から離れることができた。


リビングに行くと父はまだ起きておらず、薄暗く静かな部屋が、いつもより少し明るい表情をした私を出迎えてくれた。トーストを一枚だけ、カフェオレで流し込み、身支度を済ませた私は、玄関のドアを開けながら、返事のない我が家に向かって「行ってきます」と声をかけて家を出た。


朝はあまり時間がないと思い、少し駆け足で時計も見ずに家を出たのだが、すぐに腕時計で時間を確認すると、予定していたよりも少し早く出発していたことに気づいた。そこで私は、普段早歩きで進んでしまうこの道をゆっくりと歩くことにした。


いつも学校に行く時は時間ギリギリなので、家の近くをゆっくり見ながら歩くことは少ない。こうやって晴れた空の下で、少し冷える朝の空気を感じながら、ゆっくりと歩くのもたまには悪くないと感じた。


予定よりも少し早く、待ち合わせ場所の駅のホームに到着すると、そこにはすでに小林くんの姿があった。朝からほとんど言葉を発していなかったので、一度咳払いをしてから彼の名前を呼んだ。するとすぐに私の声に反応して、こちらに挨拶をしてくれた。


なんだか今日の小林くんは、いつもと雰囲気が違う。制服じゃないからだろうか。


そのあと、すぐに電車に乗り込んだ私たちは、まっすぐ遊園地へ向かった。


途中、遊園地が見えてテンションが少し上がっていた私を見て、彼は「ほんとに遊園地が好きなんだね」と言った。ついつい昔のことを思い出して、「最近は行けなくなっちゃった」と余計なことを言ってしまった。まだ小林くんに家族のことを話す勇気はまだない。きっと彼なら、私が考えつかないような優しい言葉をかけてくれると思う。だけど、それで変に気を使わせたくない。なぜなら今日は、何も考えずに楽しみたいと思っているから。


私の願いが通じたように、彼は私の言葉に特につっこむことはなかった。こういうふうに、一度自分の中で考えを噛み砕いてから判断できる優しさが、小林くんのいいところだと思う。


───もしかしたら、何も考えてないだけかもしれないけどね。


私は心の中でクスッと笑った。


遊園地に到着した私たちは、開園と同時にさっそくアトラクションに向かった。だが、ハプニングは二つ目に乗ったジェットコースターの最中に起きた。


小さい頃の私は絶叫系の乗り物が大好きで、絶叫系が苦手な両親をよく無理やり連れ回していた。今日は久しぶりの遊園地。つまり、私の遊園地の記憶はその頃で止まっているというわけで…。


昔のままの気持ちでジェットコースターに乗ったはいいが、徐々に上昇する乗り物とともに、私の心拍数も上がっていくことに気づいた。どうやら自分の成長とともに、恐怖心も育っていたらしい。


やがて頂上にたどり着いた乗り物は、下りに入ると一気に加速した。私は恐怖がそのまま声になって、叫び声をあげた。乗り物がくだりきったタイミングで、閉じていた目を少し開ける。そこで私は、自分が隣にいる小林くんの手をぎゅっと強く握っていることに気がついた。何かに強くつかまりたいと思い、とっさに彼の手を握ってしまったのだろう。


私はすぐに手を離して、安全バーにつかまった。小林くんに「あざとい女」だと思われたかもしれない。いや、そもそも気づかれていない可能性も?…いや、それは考えにくい。逆だったら絶対気づくと思う。乗り物から降りたら謝っておこう。でも、どうやって謝ればいいのだろう。


「手を握ってしまってすみません?」…いや、変だよね。すごく嫌だったみたいに聞こえてしまうかも。


そんなふうに頭の中がぐるぐるしていて、いつの間にか停止していたジェットコースターに気づかなかった。慌ててシートベルトを外して降りたところで、小林くんが声をかけてくれた。


「大丈夫だった?かなり怖がってたみたいだけど。僕も思ったより怖くてびっくりしたよ」


「だ、大丈夫!思ったよりも怖かったけど…」


私はなにを動揺しているんだろう。きっと私に気を遣わせないように、小林くんはあえて手を握ってしまったことに触れないでいてくれているのに。


うまく話せずに俯いている私に、彼は言葉を付け足した。


「気にしなくて大丈夫だよ」


やっぱり気づいていた。恥ずかしい。でも、やっぱり彼はすごく優しい。私が困っていることを察して、助け舟を出してくれているのだろう。


その後も私たちはアトラクションをまわり、お昼ご飯を軽く済ませたあとは、園内のショーを見ることにした。この間にも、小林くんの優しいところをたくさん見つけることができた。ショーを見るときも、小林くんより背の低い私を、そっと前の列に移動させてくれた。


なんだか不思議な気持ちだった。両親が離れてからは、いつも人に気を使ってばかりで、自分の気持ちなんて考えてこなかった。自分がどうしたいかではなくて、相手が何を望んでいるかを第一に考えていた。けれど、それは良心からくるものではなく、単純に「自分の気持ち」というものが分からなくなっていたからだと思う。


そんな私が今、久しぶりに自分の心に手を当てて、何かを感じようとしている。自分でもうまくわからないけれど、多分私は、今日がすごく楽しいんだと思う。そして今、確かに感じている、とても大切にしたい気持ちがある。


自分の心を読むのが苦手な私にだってわかる。私は…










━━━━━━━━━小林くんのことが好き



読んでいただきありがとうございます。

普段から自分の気持ちに蓋をしている人が自分の本心に気づく瞬間は本当にすごいことです。自分の心に被さっている蓋をひらいてくれるような大きな「存在」や「出来事」がなければなかなか出来ることでは無いと思います。


私自身も自分の本当の気持ちに蓋をしてしまっていた時があります。そしてそれに気づいた瞬間はどうしようもなく幸せで、同時に堪えきれないくらいの辛さがありました。

「気づくべきじゃなかった」と思う瞬間がほとんどになってしまいましたが、そんな経験が今の自分の心の蓋を軽くしてくれていると思って毎日過ごしています。


脱線しましたが、飯田渚というまだ子供らしさも残る1人の女の子が、言葉にはできないほどの悲しみや苦労を乗り越えて初めて誰かを好きということに気づくことができたということを、自分の初恋を思い出しながら温かく見守っていただけると幸いです。

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