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【お願い、エイトは生きて。生きてかあさまを……あたしのかあさまを助けてッ――!!】
――彼女が僕に、そう願った。未来は絶対に続くんだって。
――彼があたしに、そう願った。彼の未来をあたしが決めていいんだって。
――――そうしてこの物語は、エイトからエソラ、あらたな語り手へと受け継がれる。
あたし――魔女エソラ・ハイアロゥには、未来に触れる力がある。
もし人の強い想いや願いを汲み取ることが叶えば、あたしは自分の中にある体内魔導器を介して、その想いや願いですぐ目の前の未来を書き換えて〝本当〟にできるの。
これが空想魔術の原理。
だからね、今はあなたそのものが、あたしの空想。そうすることができるほど、貴方への強い想いや願いが、ずっとずっとあたしの中に刻まれていたのだから。
そう、あなたの未来はあたしのもの。
あたしの空想を見て。代わりに未来をあなたにあげる――
どうか今だけは、あなたの観るすべてを、このあたしのわがままにさせてほしい。
さあ、こうしてあなたは立ち上がる。もう一度勇気を振り絞って、力強く前を向く。
迫り来るあの円卓騎士たちは、既にあなたを剣の間合いへと入れている。でも、すぐに切りかかってくるわけじゃなさそう。
彼らは通称〈イデアールの端末〉――つまりファンタズマと同じ概念だから、例え十二体いても、一つの統一意志に従ってるだけ。ブリキのロボットでしかない。
円卓騎士に与えられた命令は、おそらく始原魔導器の守護。それも、ダアトの命令じゃなくて、始原魔導器自身が与えた自己防衛機能に違いないわ。だって、始原魔導器はたとえどんな天変地異に苛まれても、絶対に壊れないようになっているのだから。
なら、あなたが勝利するには、十二体すべてを破壊するだけでいい。たったそれだけのこと。
あなたの名前は宇佐美瑛斗。あたしの思い出という物語のなかにずっといた、あたしだけのヒーロー。だから未来は、終末世界を止めようとした勇敢なあなたを自己犠牲に奪わせたりはしない。
危ない、円卓騎士の一体が、大剣を振りかざしてあなたへと迫ってくる。
祭壇床に打ち下ろされた、鎚のごとき大剣。でも今のあなたなら、そんなの難なくかわすことができる。
跳躍。そしてその刀身に駆け上がり、瞬く間に柄へ、そして鈍重な騎士の頭部へ。
悪趣味な造形をした兜に、あなたの右手が触れた。騎士甲冑がみるみるイデアール因子へと還元崩壊される。始原魔導器に侵蝕され赤く染まったあなたの体は、分解した騎士のイデアール因子を素材にして再生される。
イデアールとは、至近の未来を司るという、イ界の構成因子。あたし固有の体内魔導器が魔力の代わりに統べられる唯一の力。
あたしがそう生まれるよう呪いをかけたフレガに、今は感謝している。だってそのおかげであなたが、至近の未来でなら負けることをあたしが許さないから。
一呼吸ののち、あなたが触れていた円卓騎士が二つに砕ける。がらんどうの中身をさらけ出して、元あるイデアール因子へと還り、大気に霧散してゆく。
ごとり。持ち主を失った大剣が地に転がった音だ。あつらえ向きだと、あなたはそれから自分の剣を再練成する。あなたのための武器だ。
残る円卓騎士は十一体。足場の悪さが追い風になって、彼らの利は大きく削がれている。
地上落下まで残りおよそ十分。万魔殿を支えてきた浮力は弱まっているけど、あなたが命を賭けて始原魔導器を止めてくれたおかげで、二度目の理想郷現出だけは回避できそう。
水球に囚われた魔女たちはみな、とっくに目を覚ましている。かあさまも、他の魔女たちも、みんなあなたの姿に驚きを隠さない。おそれてすらいるよう。
でも、あなたはもう、何もおそれる必要なんてない。
そしてあなたは自分の剣を抜く。
あなたは前へ進む。あなたは勝ち残る。
あたしたちのこの物語の結末は、うんと幸福なものに。
あなたは絶対に、あたしの元へと帰ってくるんだ。




