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 口や鼻から体液が漏れでるのも構わず、あらんばかりの力で叫んでいた。呻いていた。


「――チッ、やはり魔女はどこまでも魔女だな。オレに女子供なんか撃たせやがって」


 身体中に力が入らない。奇跡を起こすための魔導器も、空想を食べる魔女も応えない。

 突然よみがえったインディゴが、くずおれた僕の傍らに立つ。

 視界に靴が見えたと思えば、躊躇なく蹴っ飛ばされた。床に体中をぶつけて、口の中が切れて、血の味が滲んできた。


「二度も同じ手を喰うとは、学習能力が足りていないぞ小僧」


 次に胸ぐらを掴まれ、持ち上げられる。


(フィフス)を追っていたオレたちが、その常識外れな魔術を警戒していないはずがないだろう?」


 目の前で、あの金属板をひらひらして見せつけられる。始原魔導器の端末。

 僕は迂闊だった。あれはファンタズマ召喚だけでなく、魔術のキャンセルまでできるのを警戒すべきだったのに。


「貴様、どうして魔女(フィフス)をオレたちの居城に招待してくれなかった? まったく、目先のことしか頭に入らないからガキってのはキライなんだ――」


 インディゴが空いてる手の指先で、僕の喉頸を突っついてきた。


「ぐあッッ――――――?!」


 途端、首筋を襲った途轍もない痛みに悲鳴を上げた。

 目の前が真っ白になって、何か金属質なものが落ちる音が聞こえてきた。奴がすぐ手を離したせいで、僕も床へと放り出される。

 薄れる意識。血が回らない感覚って、こんな……。

 瞼を開けると、地平が真横に傾いていた。すぐ目の前に転がっているあれは、赤い血液のこびり付いた金色の輪っか。それをインディゴが拾い上げ、血を振り払う。


「こういう結末になることくらい予想できただろうに。魔女の魔導器、貰っておくぞ。残酷なストーリーを選択した自分を恨め。何せここは始原魔導器の祭壇だ。この始原魔導器って奴は悪趣味なことに、こういう劇的で胸糞悪いストーリーが大好物らしいからな」


 首筋が、焼け付くように熱い。痛い。エンジンの温もりが――もう感じられない。

 (フィフス)の気配がわからなくなった。あいつにエンジンを強引に引きはがされたって言うのか。


「く…………そ…………」


 呪詛と怨嗟の入り混じった澱だけが、血と一緒にどくどくと溢れ出てくる。

 先輩はどうなったんだ。魔術師って、そんな簡単に死んじゃうものじゃないって言ってたよね。イ界は現実界と違うから、死んでも現実の死は訪れないって……。


「貴様らがアバトラの奴を倒せたのは想定外だった。だが安心しろ、オレはあの小娘は殺したが、小僧は生かしておいてやる。何故だかわかるか?」


 地に頬を付けた僕の傍にわざとしゃがみ込んできて、まるで教えを説くように。

 何様気取りだよ。睨み付けてやりたいのに、首を上げることすらできない。


「答えはシンプルだ。七月絵穹は魔術師で、お前は魔術師じゃないからだ。僥倖だったな小僧。貴様のような弱者こそが、これから到来する新しい未来のチケットを手に入れるべきなんだ」


 そこまで言うとインディゴは関心をなくしたのか、足音が遠ざかって行った。


「魔術結社ダアトは『魔法による新たなる枠組パラダイムの構築』を最終到達点としている。だがな、このオレに言わせればその『新しい世界』に旧い魔術師まで導かれる資格なんてない。理想を掲げた開拓者がどんなに快適な新世界をつくろうが、結局は最初から力のある強者が我先に王座へと居座る。それじゃ今のクソったれな大国支配と何一つ変わりはしない。だから、魔術師も、魔女も、オレたちダアトも、旧いパラダイムの終着点で全員淘汰されるべきなんだよ」


 なんだよそれ。いかにも崇高そうなポーズだけ気取りやがって、ここまでしてお前らが創ろうとしているきれいな世界はただの地獄――それこそアポカリプスじゃないか。

 僕の吐き捨てるようなセリフも、インディゴにはまったく届かない。あいつ、いつの間にか祭壇の中央に鎮座する始原魔導器の前に立っている。


「さて、スルールカディアの魔女。真名は〝ラキエラ〟だったな。アンタを恨んでる小娘が教えてくれたよ。さあこいつを見ろ、アンタの娘の魔導器を糧に、真名をもって呪的支配の契約を! こいつはアンタにとっての最大最悪の呪詛だ、絶対に拒ませはしないぞ」


 と、インディゴが水球の魔女目がけてエソライズムエンジンを投げ込んだ。

 水面に立ちのぼる飛沫。魔法円が無数に浮かび、魔術契約が実行されたのがわかった。


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