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「――――ごめんなさい、到着が遅くなってしまったわ宇佐美くん」


 七月先輩と公園で合流して、何故か謝られてしまった。

 そうして自宅への帰路。先輩と肩を並べ、僕たちは河川沿いの堤防道路を歩いている。

 最初に口を開いたのは先輩の方から。


「……あのあと、イ界で何かあったの?」


 やっぱり来たか、という当然の疑問。


「うーん、あったにはあったんだけど、言葉でどう説明したものか困ってるんだよね……」


 心なしか、緊張で顔が火照ってきている気がした。

 消えたジゼルさん本人を偶然発見できたのに、僕はそれを先輩に話せない呪いを受けてしまった。その元凶はなんとジゼルさん自身で、しかも彼女の正体は魔女・(フォース)だという。

 さて、どうしたものか。先輩に遠まわしのSOSを送るとか。でも(フォース)さんが示唆した「妾を裏切るな」が脳裏をよぎる。それに、隠すようにポケットへと突っ込んだあの黒いハンカチまで、脅迫するかのように熱を帯びてきた気がして。


「僕はあの爆発のあと、近くのビルの屋上に落っこちたんだ。そこでしばらく気絶しちゃっててさ。でも騒ぎを見て駆けつけてくれた知らない女の人に助けられたんだ」


「知らない女の人? 協会魔術師かしら」


「そんな雰囲気だったかも。僕もテンパってたから、詳しくは聞けなかったけど」


 なんだろう、この厭な罪悪感。僕にはあの中学時代があるから、嘘をつくのには普通の人間よりずっと慣れていたつもりなのに。


「なるほど、ありがとう。おおよその経緯は理解できた。ともあれ、宇佐美くんが無事で安心したわ。イ界で見失ったときはどうなるかと、すごく心配してたのよ」


 なのに、すごく心配してたなんて言われちゃったら、罪悪感が揺さぶられる。


「ううん、先輩こそ。怪我とかしてなくてよかったよ」


 でもこれは嘘じゃない、本心だ。


「悪い知らせがあるわ。例のコンビニが量子崩壊に巻き込まれてしまったという情報が入ったの。これで貴重な手がかりが、現実界からも消えてなくなってしまったことになる」


 珍しく深刻そうな声をして、道端に立ち止まってしまう先輩。それにその話題は……。


「僕もさっきネットでそのニュースを知ってびっくりしたよ。ねえ先輩、ファンタズマって量子崩壊と関係があるの? ファンタズマが自爆したのと同じ場所で量子崩壊が起きただなんて、偶然にしてはちょっと出来すぎだよ」


「もし仮にそうだとしたら、宇佐美くんが最初にファンタズマと戦ったあの駅も、今ごろ量子崩壊で壊滅状態に陥っているはずよ。でも実際にはそうなっていない」


「ああ、確かにそうだった……考えすぎだったかな」


「ファンタズマのメカニズムを解明できた魔術師はまだいないわ。ただイ界におけるあらゆる事象が現実界とつながりがあるのも事実。例えば、イ界のあの駅が壊滅状態に陥っても、しばらく経てば現実界にあるオリジナルに影響を受けて元通りになる」


 先輩が始めた小難しい話は、途中から完全に独り言になってるし。


「でも今回はその逆のパターン――つまりオリジナル側がイ界から影響を受けた事例だわ。何らかの法則を知り得た魔術師が、それを利用して罠を張り、わたしたちの追跡から足取りを消す手段に利用したのだとしたら……」


 先輩、顎に手を添え、完全に考え込んでしまった。齢十八にして魔術研究者の顔もあるらしいから、こうなると一歩も動かないぞこの人。


「これはつまり、イ界に投影された現実界の形象――イデアール因子が境界領域を越えて作用しあっていることを証明しているのかしら。でもまだ絶対的なサンプルが足りない。メカニズムを再現するにも、協会の目をかいくぐってどうやって実験すれば……」


「あわわ、そういう難しい考察は帰ってからじっくりとね! とにかく、あれでジゼルさんの痕跡が消えてしまったとなると、先輩の猫耳を直す手を考え直さないとだよね……」


 先輩が頼る予定だった識者ジゼル=魔女(フォース)を追うのもリスクがありすぎるって、僕は身をもって知ってしまった。僕に呪いをかけた理由は、口封じのためだろうから。


「ねえ先輩、協会を頼れないの? 魔術師を守る団体なんでしょ?」


「無理よ」


 取り付く島もない、けんもほろろ、にべもないお返事だった、予想してたとおり。


「だってさ、ジゼルさんの行方もわからなくなったし、それより先輩の、例の大切な友達の件も心配なんだ。その子も同じ敵に狙われてるのだとしたら、やっぱり大人たちに保護してもらうべきだよ。先輩にはそうできない理由があるの?」


「過去に、協会を利用する選択肢を考えたこともあったわ」


「あくまでも『利用』なんだ……」


「協会内部にスパイがいる可能性もあるの。ああいう組織は得てして一枚岩じゃない」


「えっと……つまり敵の襲撃犯とつながりがある、ってこと?」


「わからない。でも協会に匿われれば、見つけてくれと言っているようなものよ」


 そしたら思いがけず、先輩からぎゅっと手を握られちゃった。


「少なくとも、わたしが信頼しているのは宇佐美くん、きみだけ」


 先輩の瞳が、真剣な色を浮かべて僕を捉えている。それに含まれている意味は浮ついた意味じゃないって、さすがに僕でもわかる。


「敵は量子崩壊を人為的に引き起こしてみせた。これはもう魔術師の世界だけの問題じゃないわ。終末世界(アポカリプス)の予兆が現実界側にもその姿を顕し始めたということなの」


「うん……」


「でも大丈夫、わたしたちには空想魔術という強い武器がある。だから事態が取り返しのつかない状態になるのを阻止するために、これからふたりで対策を考えていきましょう」


 そう決意表明する先輩。

 なのにそれを聞いた僕の内には、なんだかとても厭なものが渦巻き始めていた。


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