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 先輩がエソライズムエンジンにアクセスすると、瞬く間に僕たちはイ界へとリンクした。

 時刻はまだ十四時をまわった頃合い。僕たちがたどり着いたのは、イ界側のコンビニだ。だから現場検証中の警官どころか、日中なのに人っ子一人見当たらない。


「ヘンなの。こっちの世界には警察の人たちが見当たらないのに、突っ込んでたトラックがちゃんと退かされてる。そもそも人がいないのに『トラック事故』の結果だけがある」


 では一体誰がトラックを動かしたのかを考え始めると、頭がオーバーヒートしそう。


「以前にも説明したけれど、イ界の成り立ちは現実界とは異なるのよ。ここは膨大な量の魔力で満たされた一種の『海』みたいな領域なの。現実界に存在する膨大な記憶や知識、思念なんかをどんどん蓄積してでき上がっている。今わたしたちが見ているこの景観も、そうして現実界から影響を受けて映し出されたものなの」


 なんとなく、わかったような、よくわからないような……。


「そして今回は、イ界のそんな特性を利用するわ」


 そう言ってトラックのひしゃげたドアを開けると、エアバッグが飛び出したままのハンドルに触れる。

 先輩が銀紅の目を閉じると、僕にもはっきりとわかるほどの変化が起きた。触れたハンドルを起点に、トラックがぼんやりと光を放ち始めたんだ。

 続いて先輩はトラックから出ると、握りしめた手を広げる。するとタンポポの綿毛みたいな光が空へと舞い上がった。

 上昇していった光が宙の一か所に引き寄せられ、再び寄り集まっていく。


「不思議な光だ……これ、『残留思念』みたいなものなのかな」


「なるほど、きみの感覚だと残留思念に喩えられるのね。言い得て妙だわ」


「うん。残留思念って漫画なんかでよく使われてるネタだし。事件の痕跡を調べるんなら、まさにピッタリじゃない」


「厳密に言えばこれは思念ではなく、イ界に記録された情報を読み取っているの。このトラックがどのようにして事故を起こしたのかを、視覚的に確かめることができる」


 先輩によって呼び覚まされた残留思念が、徐々に一か所へと集まり始める。それは次第に球体を形づくり、大きさを増すたびに空へとふわふわ浮かび上がっていった。


「でもさ、そんなことが調べられるんなら、協会の二人組に先を越されてたりしないの?」


 遂にはトラックよりも大きく膨張した光球が、太陽みたいに僕たちを照らす。それとどういう因果関係なのか、空が黒い雲で遮られ、あたりは夜みたいに暗くなってきた。


「これは現代の魔術師には伝承されなかった、いにしえの魔術体系のひとつよ。協会ごときに先は越させない」


「あはは……すごい自信。利害関係が一致するなら喧嘩せず協力してあげればいいのに」


 どういう勢力関係になってるのかよくわかってないんだけど、思わず苦笑いしてしまう。


「わたしたちにはこれしか調べる手段がないのだから、しかるべき協力の判断は後回し」


「でもこれで、ジゼルさんの行方がわかるといいな」


 複雑怪奇な魔法円が幾層も浮かび上がったかと思えば、光球が今度は収縮していく。

 やがて僕たちの視界に、輝く思念球が一つの像を結んだ。

 光球が宙に描き上げたのは、ある一人の女性の姿だった。


「彼女がジゼルよ、おそらくね」


 店内で買い物をする外国人留学生――ジゼル・クプランの姿だ。画質が粗いし、そもそも僕たちは彼女の顔を知らないからただの推測だけど、映像は明らかに彼女を捉えている。

 目くるめく映像が突如乱れる。ここで暴走したトラックが店内へと突入したんだ。

 映像の乱れが収まると、崩壊したコンビニ店内の床にジゼルさんが倒れていた。


「ここまでは、ただの事故に見えるわね。救急車まで早送りするわ」


 先輩が言うと、残像を残して早回しになる記憶映像。すぐに赤色灯の明滅が映り、店員から応急処置を受けていたジゼルさんが救急隊員に連れられていくシーンになる。


「よかった。彼女、ちゃんと自分の足で歩けてるね。あれ……ジゼルさんって外国の人なのはわかるけど、随分と珍しい髪の色してるんだな。……銀色?」


 思念球の映像は、ここでジゼルさんの顔をアップで捉えていた。画質が悪くてはっきりとはわからないけど、苦しそうに表情をしかめた彼女の長い髪は、どう見ても銀色だ。


「地毛じゃなくてウィッグ? サングラスまでしてるし……あ、わかった、変装だ! ジゼルさん、自分が襲撃犯のターゲットだって自覚してたんだ。状況とも辻褄が合う」


 先輩も同意見かなって思って振り返ると、


「――――そんな……まさか、どうしてここにあいつが……」


 先輩、押し殺すように口元を覆った。わずかに肩を震わせてすらいる。


「先輩? どうかしたの――」


「っ――――――――――?!」


 突然、先輩の肩がビクンと跳ねたかと思えば、直後に頭を抱えて倒れてしまった。


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