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「ねえ七月先輩。『一連の襲撃事件』って何? 僕にもわかるように教えてもらえないかな?」


 そばにいれば当然知る権利があると思って、勢いで聞いた。そうでなくてもこの人と一緒にいると、未知のキーワードが次々に聞こえてくるから。


「……ねえ、宇佐美くんはさっきの事故現場を見て何か気付いた点はない?」


「えっ、ここで質問返し? ええと……なんだろう」


 思わぬ切り返しに首を捻る。立ち止まった先輩は、いつものぼんやり顔に戻っていた。

 怪我人が出るほどの事故があって、原因究明のため警察と魔術協会が協力して動いている。そこに現れた九凪君やさっきの左内さんは協会側の人間で、そして魔術師だ。


「わかったぞ、さてはあの二人、魔術を使って犯罪捜査する魔術刑事(デカ)だな!」


 はーいセンパイ、ここ笑うとこデス。


「ふむ、きみらしい空想力豊かな推測ね。でもそれはハズレ。確かに彼ら協会は警察に協力することもある。けれども協会には犯罪捜査の権限は与えられていない。協会とは、魔術師だけを対象にした、自治会ないし自警団としての役割しか持たない組織なのだから」


「うーん、じゃあ真面目に推測してみるけど。今回の事故に、魔術が関わっている?」


 そしたら先輩、ちょっとだけ明るい表情を見せてくれる。正解だ。


「そもそも事件は今回が初めてじゃないのよ。きみは新参者だからあえて伝えていなかったけれど、ここ最近、何者かによる女魔術師がらみの襲撃事件が立て続けに起こっていた。誘拐に発展したケースもあるわ。わたしと宇佐美くんが出会った日にも、協会の構成員が一人いなくなってる。さっき名前が出たジゼルという被害者女性もおそらく魔術師よ」


「そのジゼルさんは最初からターゲットだった、ってことか。コンビニで買い物してた彼女を狙って、犯人が魔術を使ってトラックを追突させた……事故に見せかけた誘拐事件」


「わたしもその筋だと疑っている。ただちょっと意図が読めない点があるわね。救急車ごと連れ去られたのだとしたら、やはり誘拐目的だとして……一体何の目的で?」


「うーん、よくある展開だと……身代金目的の人質だろうけれど」


「でも被害者の共通点は『魔術関係者の女性』よ。金銭目的として、一体誰を脅迫するのかしら。協会を()()()ために、何人も誘拐したり性別を限定する必要があるとは思えない」


 あごに手を添えて考え込むポーズのまま、道の先を行く先輩。


「ところでそのジゼルさん、先輩のお友達なの? 心配だよね、怪我してるみたいだし」


「………トモダチ? ううん、彼女とは友人と呼べるほどの関係ではなかったわ」


 意外や、事もなげに言ったのけた。

 僕ってばよっぽど怪訝そうな顔したらしく、先輩がもう少し言葉を補ってくれた。


「心配していないわけじゃないの。ただ彼女とはね、ネット越しのお付き合いだけで、わたしも直接面識がないのよ。わたしとは年齢もかなり離れているし。そう、彼女は『協力者』と表現した方が適切ね。言ったでしょう? 識者に助言を仰ぐつもりだった、って」


「ああ、そっか! そのジゼルさんが例の識者さんだったんだ」


 猫耳を元に戻す切り札がジゼルさんで、助言を仰ぐ前に誘拐されてしまった。


「そんなあ。だったらこっちも緊急事態じゃん。その人が先輩を元通りにする期待の星だったのに……ううん、違うな。僕たち、もうそれどころじゃないよ」


 猫耳のことを心配してる場合じゃない。あの左内さんって人が先輩に言い放ったじゃないか。その迫真性を、さっきのコンビニの惨状が訴えかけてくる。


「さっきの協会の人さ、先輩にも『用心しろ』って。先輩も女魔術師だから狙われる――」


 そしたら先輩、唐突にあらたまって立ち止まる。思いがけず繋がる視線。


「宇佐美くん、きみに伝えておかなければならない大事な話があるの。聞いてほしい」


「あ、うん……いま、ここで? 一体何でしょう……」


「本当はもっと早くに伝えておくべきだったのだけれど、お互い住む世界が違っていたから、段階を踏む必要があったの。だから、話すのが今ごろになって申し訳ないと思ってる」


 確認か同意でも求めるみたいに、僕の胸に手の甲を当ててきた。


「わたしの目的を宇佐美くんにも伝えておきたいの」


「えっと、アポカリプスをメシアがどうとかいう、例のアレのことかな……」


 僕たちが出会ったあの日の出来事、よっぽど印象に残ってたからさ。


「そうじゃないの、迫り来る終末世界アポカリプスの阻止は、わたしたちが辿り着く未来の結末でしかない。きみに知ってほしいのは、空想魔術が何のために生まれたのか。その真の理由よ」


「空想魔術の、真の理由……」


 そんな言い回しまで、いかにも「七月絵穹」っぽくて。何かとんでもないことを言われるのかと、不安と緊張とで思わず生唾を飲み込んでしまう。


「わたしね、友達を守りたいの」


「……………………………………………………ふぇっ!?」


 本当に、素っ頓狂としか言いようがない声が出てしまった。だって先輩の告白が思いもよらないほど真っ当で、そして純粋なものだったから。


「先輩は――要するに、友達を守るために空想魔術を発明したってこと?」


「そう。そうよ。わたしの大切なお友達のため。おかしいかしら?」


「ううん、ぜんぜん、まったく、これっぽっちも」


 安堵に胸をなで下ろしたね、心の底から。

 だって、あんな奇抜な魔術体系を編み出しておいて、果ては世界征服が目的だとか言い出しかねない人だって勝手に思い込んでたから。


「それ、すごくイイハナシじゃない! ねえどんな子なの、先輩のお友達って?」


 先輩、あまりプライベートを話してくれなかったから、好奇心が突っ走ってしまう。


「これ以上は宇佐美くんにも教えられない。ごめんなさい。迂闊に言葉にしてしまうと、そのひとにも危害が及ぶ可能性があるから」


「あわわっ、しまった! 当然だよね、ごめんなさい。そこまで考えが及ばなかったや」


 きっと魔術師の世界は、僕の想像を超えた高度な駆け引きが行われている。もしそのお友達の居場所を僕が知れば、次の犠牲者は僕や先輩のお友達になっても不思議じゃない。


「そっか。その友達も襲撃事件のターゲットなのか。でもさ、どうして空想魔術である必要性があるの? 警察とか、協会に保護してもらうとか、他の方法じゃだめなの?」


 イ界の時の鮮烈さが抜けた、淡い彼女の瞳が居場所なさげに揺れる。空想魔術の創始者である七月絵穹が、一般人の宇佐美瑛斗を魔術師の世界に引き入れた理由って何だろう。


「お願い宇佐美くん、力を貸して。わたしには、そのひとを守るための強い力が必要なの」


「……力? 先輩だってすごく特別な力を持ってるじゃない。なのに、僕が必要なの?」


「いきなり現れて、巻き込んで、無理なお願いだってわかってる。でも、そのひとを真の意味で守り抜くには、シュヴァルツソーマのような強い空想イマージュ――宇佐美くんの空想力こそが唯一にして絶対の希望なの」


 強い願いのような何かが先輩の言葉に込められている気がして、何も言えなかった。


「わたしの空想魔術は、魔術の心得がない人を一流の魔術師へと変えることだってできる。でもわたし自身には宇佐美くんほどの強い空想力はなかった。わたしひとりでは、きっとそのひとを守れることができないから……」


 そんな必死に、まくし立てるように。


「一連の襲撃事件ははじまりにすぎない。きたる終末世界アポカリプスに繋がる予兆なのかもしれない。だから、わたしたちはもっと強くならなければいけないの」


 そしてそれ以上、先輩は何も言わない。

 どこか思いつめたような表情にも見えて、彼女の胸のうちにはまだ説明できないことがたくさん仕舞ってあるんだろうなってわかる。なるだけ読み取ってあげることしか、今の僕にはできないのかも。


「――――うん。いいよ、七月先輩」


 思い切って口に出してみたら、何かが僕の内に高鳴り、不思議と熱を帯びていった。

 これって、決意、みたいな感情なんだろうか。

 そんな大それたものじゃないかもしれないけれど、今までの自分を形作ってきたあらゆるすべてが、彼女に対して芽生え始めた意志を力強く後押ししてくれた。


「僕に任せてよ。先輩やそのお友達を悪い奴が狙ってるとしても、『神叢木刹刃』ならうまく守れる気がする。腕力には自信ないけど、頭脳戦と小細工なら昔から得意なんだ」


 僕だって拳を振り上げて戦ったことくらいある。あれは恥ずべき過ちだったけれど、戦い方ならわかる。元ネット戦士としてのスキルが有効かどうかは、まあ未知数なんだけど。

 それでも、彼女のこんな不器用な笑顔を見せられちゃ、本気を見せるしかないでしょう。


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