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 七月絵穹と同棲する羽目になった。と言っても黒猫先輩との同棲だ、誤解なきよう。


「あまり他人に話すことじゃないのだけれど、わたしのうちね、片親なの。母親と二人暮らし。その母親も、仕事で家を空けている日の方が多いわ」


 どうやら彼女、想像してたのよりずっと特殊な家庭事情があるらしく、猫のままでは自宅に帰れないって言った。それに頼れる相手が僕しかいないとも。


「あはは……まあ、うちも似たようなものだよ。父さんが離婚してるから、男ばっかの五人所帯。炊事洗濯は交代制。そんなだから一番下の僕にしわ寄せが来ちゃう」


 余談だけど僕の元母親は米国人の英語講師で、大学教授をやってる父と縁があって結婚したのだとか。でも彼女は怪獣の日のあと、両親の暮らす祖国へと戻ってそれっきり。

 そうして今日は同棲が始まって初めての休日で、そろそろお昼時。自宅から歩いて十分のファミレスで、僕は先輩と向かい合わせで座っている。


「こういうお店に入るの、わたし初めてよ」


 先輩、ビニール張りのソファの上でむずむずと、お尻を居心地悪そうにしてる。

 テーブルに並ぶ、トマトパスタと餃子、かき氷に飲み物のチャイ、奇妙な取り合わせの品々。

 彼女はどこか浮世離れしてるっていうか、今どきの女子高生ってイメージじゃないし、ファミレス初体験も別段意外じゃない。何せかの厨二コスプレ先輩の正体は本物の魔術師だもんね。


「……はぁ。先輩。それでですね、僕はいつまで空想魔術を修行すればよいのでしょうか」


 茹だるような声をして、溶けた氷で薄まったアイスコーヒーウォーターのグラスを、ストローでぐるぐる掻き回し続ける。たぶん今の僕、死んだ魚みたいな目になってるはず。


「……はぁ。わたしが元通りになるまで、永久とわによ」


 で、お互いうんざりとした声を上げて、同時にテーブルへと突っ伏した。

 結論から言えば、あれから三日経っても何ひとつ解決しなかった。

 空想魔術の術式――ジュヴナイルズ・ランドスケイプを発動して、何度か神叢木刹刃に変身する実験をやった。

 二回目以降の変身は、実際は失敗続き。自分自身を中二病戦士として頭の中で空想するには、意志の強さとか羞恥心その他諸々が邪魔をしたせいだと思う。

 こんな僕のせいで、七月先輩は夜の間だけ猫に変身する能力を得てしまった。しかも変身は強制的で、猫になっている間は人間としての意識すら保てないらしい。


「ねえ先輩。当然、僕も責任は感じてるけれど、こんな生活にも限度あるよね。僕自身が解決する以外の、第二、第三の手段も考えておいて損はないんじゃないかな?」


「もちろん、奥の手も考えてはいるわ。もっとも、それが宇佐美くんの努力以上に有効な手立てとなるか否かは、正直まだ未知数なのだけれど」


「ええー、だったらその奥の手、さっそく使っちゃおうよぉ……」


「そうね。本当ならふたりだけで解決したかったのだけれど、やむを得ないかしら。プランBは『同業者』よ。魔術に長けた識者に助言を仰ぐの。わたしにひとり当てがある」


 先輩にはすごく失礼だけど、その「プランB」がちょっと意外に聞こえた。

 彼女が僕を頼ったことからもわかるとおり、これまで先輩と交遊関係にある人間を見た覚えがなかったんだ。

 それに三日も自宅に戻っていないのに、どうしてなのか親の存在すら見えてこなかった。彼女の古めかしい携帯は、僕が知る限り鳴った気配がないし。

 唯一接点があるのはあの二挺拳銃君くらいだけど、彼とも現実界で会ったわけじゃない。

 とにかく、七月絵穹って人間がときおり幻みたく感じられて、実はちょっと不安だった。

 だからなのかな、知り合いがいるって聞いて、すごくホッとしてしまったんだ。


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