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亡き者と通じる加護の巫女  作者: あお
リーズ12歳
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05 現の死者

 エグモントと婚約を結んでからというもの、以前は何かにつけて突っかかってきたジェラルドがわたしのことを避けるようになった。わたしとしても、あまり関わりたくない相手ではあったので、そういったジェラルドの態度はむしろ歓迎だった。


 エグモントとは、なかなか順調ではないかと思う。わたしは王都神殿での巫女教育に加え学校生活もあるし、エグモントはジェラルドの護衛だけでなく通常の近衛の業務もあるのですれ違いが多い生活ではあるものの、お互い王城で生活しているのだから少しの時間を作って会うことは出来た。わたし達は、王城庭園の奥まったところにあるベンチで過ごすことが多いのだが、エグモントはいつもわたしのくだらない話をニコニコ微笑みながら聞いてくれる。もちろんわたしには侍女がついているので完全に二人きりというわけではなかったけれど、それでも幸せな時間だった。


「昨日、王都神殿でそろそろ巫女の加護の力について願うべきことを考えなければならないと言われてしまいました。けれど、我が国は今大きな問題もなく平穏でしょう?何を望めばいいのかはっきり分からなくて。」

「確かに平和ではあるけれど、細かいことをいい出したら色々あるんじゃないかな。あとは予防的なものでもいいと思うよ。」

「予防的なものとは?」

「例えば流行り病が起こった時にその病原を見極めて対処する力とか、農作物を強くして生産効率を上げる力とか、どんな水でもきれいにする力とか・・・僕が巫女だったらどうするかなぁ。」

「言われてみれば色々なことを望めますわね。けれど、力を得るその時、巫女が本心から願ったことが力になるそうなので、わたし自身が本当に必要だと思わないといけないみたいなのです。今エグモント様が提案してくださったことは全て必要だと思うのですが、いまいち実感がわかないのでうまく願えるか分かりません。」

「そう言われると難しいね。実際にその場面に対面してみないと実感湧かないよね。そうだなぁ・・・あぁ。ひとつあるな。僕だったら現の死者(うつつのししゃ)と話がしてみたいな。」

「え?現の死者ですか?」


 現の死者とは、亡くなった人の魂のことだ。死ぬ前の世界に心残りがあると、現の死者として魂が残ってしまうことがある。だからといってその魂が悪さをしたり生きる人達になにかの影響を及ぼしたりする訳ではない。生きていた時に近しかった人には、その存在がなんとなく分かるという程度。そう、ただそこにいるだけだ。けれど、現の死者となってしまうと、次の生を受けられなくなってしまう。現の死者としてそこに残るということは、ただ彷徨って無駄に時間を使ってしまっているというだけで、次のステップに進むことが出来ない。その人にとってとても残念なことだと言われているのだ。


「僕のお祖父様がね。あぁ、先代のキルシュネライト侯爵なんだけれどね。現の死者として領地を彷徨っているんだ。だから早く次の生に向けていってもらえたらと思っているんだ。」

「まぁ、そうだったのですか。」

「何が心残りだったのか。僕が解決できることならばしてあげたい。現の死者にとって、心残りがあり続けてこの世を彷徨い続けることが最も不幸なことだからね。だから話を聞いて、次の生きるべき道に進んで欲しいと思っているんだけれど、存在は感じられても話をすることは出来ないからね。なかなか難しいよね。過去に現の死者と話が出来る人が現れたことがあるという話も聞いたことがあるけれど、本当なのかどうなのかは定かではない位昔のことで俄に信じがたいんだよね。」


 エグモントがさみしげに微笑んだ。

 わたしは現の死者に出会ったことがない。だからよくわからないのだけれど、もしも近しい人が亡くなったとして、その時にその人になんらかの心残りになるような出来事があって、現の死者としてこの世界に残ってしまったとしたら。それはエグモントの言うようになんとかしてあげたいと思うのかもしれない。


「もう少し考えてみます。巫女の加護の力。そう言っている間に力が備わるかもしれないし。」

「うん。ラオネルの巫女の加護の力は、巫女本人が望むだけでなく今我が国にとって必要な力であると言われているから、きっとリーズが願うことは国のためになるはずだからあまり気負わず考えればいいと思うよ。」


 エグモントにそう言われ、少し気が楽になった気がした。





「現の死者に出会ったことある?」


 わたしとベアトリスのサロンに、ジョシュが顔を出したので聞いてみた。


「なぁに?突然。わたし達の回りで現の死者になるような人はいなかったわ。」

「そうよね。わたし達の回りにはいないからジルに聞いているの。」

「あぁ、僕に聞いていたのか。現の死者ねぇ・・・いないこともないかな。僕はよくわからないけれど。」


 ジョシュはお茶を飲みながら、長い脚を組んで応えた。出会った頃は同じくらいの背丈だったのに、こちらの幼馴染にもあっという間に追い越されてしまった。気がつけば頭一つ分も背が高いだけでなく手足も長い。ヴィオネ宰相閣下がかなり背の高い人だからジョシュもきっともっと大きくなるのだろう。


「よくわからないってどういう事?」

「僕の家系は分かる?」

「ヴィオネ家のこと?一応分かっているつもりだけれど。」


 ヴィオネ家は筆頭公爵家だ。公爵の中でも特に位の高い位置に当たり、王族に次ぐ存在なのだが、それもジョシュのお祖母様が元王女様に当たる方だからだった。つまり、ジェラルドの父である現国王様の叔母に当たる方がヴィオネ公爵家に降嫁した由緒ある家系で、ジョシュも王族に近しい。つまりジェラルドとジョシュは又従兄弟という関係になる。このジョシュのお祖母様である元王女様と、先代のヴィオネ公爵は恋愛結婚だったらしいのだが、当時のヴィオネ公爵家は財政的にあまり芳しく無く、王女様を降嫁させるのに適さないと周囲から反対を受けていたらしい。その時に先代ヴィオネ公爵の姉が外国の富豪に見初められ、多額の支度金を受けて嫁いだことでヴィオネ公爵家に王女様を迎え入れることが出来たとか。


「お祖父様のお姉様、僕からすると大伯母様に当たる方がね。領地にいるらしいんだよね。僕は面識がなかったから全然分からないのだけれど、外国に嫁いでいったのに亡くなってから現の死者となって領地に戻ってきているらしいんだ。やっぱり外国に嫁ぎたくなかったのかなぁ。それとも嫁いでからやっぱり違うってなったのかなぁ。何が心残りなのかはよく分からないけれど、わざわざ領地に戻ってきてまで現の死者になっているんだから相当何かあったんだと思うよ。それで、このままだとずっとそこに居続けることになってしまうのはね・・・いつか大伯母様のことを感じられる人が誰もいなくなったら、本当にたった一人で心残りを残したまま、次の生を受けるわけでもなくそこに彷徨っているだけになってしまう。ものすごく寂しいことだと思うよ。」


 ジョシュには分からないながらも、そういうふうに意外なところにも現の死者はいるようだった。


「現の死者となってこの世に留まることはやはりあまり良くないのかしら。」

「僕達には影響はないけれど、ずっとそこにいて彷徨い続けているというのは悲しいことなんじゃないかな。僕なら気が狂うよ。やはり早くこの世への心残りは無くしてあげて、次の生に向けていけるほうが幸せだと思う。現の死者とは話が出来ないから本当のところはわからないけれどね。」

「わたしもそう思いますわ。心残りがあるにも関わらず、現の死者ではそれを解決する方法がないですものね。自然に解決するのを待つしか無いのかしら。解決しなかったらずっとそこにいるということでしょう?一人寂しく漂うだけなんて寂しすぎるわ。」


 ベアトリスはジョシュの意見に賛成する。多分彼女はどんな時でもジョシュの味方をするだろう。まぁ、そうだとしても二人の言うことは最もだった。次の生に進むために、現の死者の憂いを無くしてあげることは必要なことなのかなと、なんとなく漠然と感じた。


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