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亡き者と通じる加護の巫女  作者: あお
リーズ12歳
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04 今日のわたしは寛大です

「ベアトリスはいつジルと結婚したい?いくつで?」

「お姉様こそ。もうエグモント様と婚約だなんてビックリですわ!うふふ。ラオネルの巫女である限り好きな人と結婚なんて絶対無理だと思っていました。」

「本当よね。わたしもそう思っていたわ。ベアトリスがジルと婚約したから、わたしも同等かそれ以上の家格になるのだと思っていたわ。そうなるともうちょうどいいお相手なんて一人しかいなかったから・・・」

「・・・あぁ。そうですわよね。」


 ベアトリスと共に、二人のサロンの方へ戻りながらこそこそとそんな話をしていた。わたしの口からはっきりと明言するのは出来なかったのだけれども、ベアトリスがジョシュと婚約した以上、わたしのお相手はジェラルドしか残っていないと思っていた。正直なところ、巫女の加護の力が無くなってもいいからジェラルドだけは嫌だった。ジェラルドが、人気があるのは分かっている。けれどそれは猫を10匹くらい被っているからだ。ジェラルドが猫アレルギーなんて大嘘よねと思う位ね!あぁ、未だにジェラルドはイマキュリのことが苦手だわね。ジェラルドとは極力関わらない人生を歩みたいから、一生イマキュリのかわいさなんて分かってくれなくてもいいわ!


 ベアトリスの婚約が決まってからずっともやもやしていたこの気持ちも、もう悩まなくてもいいんだわ。わたしはエグモント様と将来一緒になれる。それだけで頭の中がお花畑で一杯になるくらい幸せな気持ちが溢れそうだった。


「誰の話をしてるんだ?」


 ベアトリスと話に夢中になっていると、目の前にジェラルドが佇んでいた。立っているだけで王子オーラが溢れているが、不機嫌極まりないといった様子だった。


「あ、あら。シャル。どうかいたしましたか?」

「廊下をキャッキャキャッキャいって歩くものじゃない。それでも淑女か。バシュラール姉妹ははしたないな。」


 腕を組みながら、こちらを睨みつけてきた。確かに少しテンションが上って騒いでしまったかもしれないけれど、いつももっと大騒ぎしているジェラルドに言われるのは心外だった。


「失礼いたしました。少し嬉しいことがあったもので、はしゃいでしまいましたわ。すぐに自室の方に戻らせていただきますので。ごきげんよう。」


 争いごとにするのは面倒なので、適当にあしらって先に進もうとした。


「おい、まてよ。何があったんだよ?」

「え?何があった・・・とは?」

「エグモントがどうのって言ってただろ?」

「なんでもございませんわ。けれど近いうちにシャルの耳にもはいることだとは思います。」

「近いうちに耳に入るなら今教えろよ。」


 ジェラルドはこちらに近付いてきて、ぐいっとわたしの顔を覗き込んだ。ここ1年ほどでジェラルドに身長を抜かされた。今まで圧倒的にわたしのほうが大きかったのに、ジェラルドの成長がそれを追い抜いた。おかげで上から見下されるような体勢になるが、未だに慣れない。


「シャル様、やめてください。お姉様の婚約者が決まっただけです!」

「はぁ?ベアトリス。なんだって?」

「だ、だから。お姉様の婚約者が・・・」


 ベアトリスがそう言うなり、ジェラルドはわたしの手首を掴んだ。


「婚約者が決まっただ?相手はエグモントなのか?」


 更に顔を近づけてくるので、わたしは顔をそらした。もう、なんなのよ。


「そ、そうですわ。今、お父様がこちらに来られてその話を受けたところです。」


 わたしが答えると、ジェラルドの動きが一瞬止まり、そしてわたしの手首を握る力が強まった。かと思うと、その手を思いっきり振りほどかれた。


「もう。何をするんですか。」


 振りほどかれた手首をさすりながら、ジェラルドをキッと睨みつけた。ジェラルドはジェラルドで、ものすごい目つきでこちらを睨みつけてきた。


「そうか、そうなのか。良かったじゃないか。エグモントはリーズがずっと憧れてきた騎士様だもんなぁ。さすが未来の我が国の命運を握るラオネルの巫女だな。望めば何だって叶うじゃないか。良かったなぁ。」


 ものすごく横柄で、祝ってくれているとは到底思えないような口ぶりにカチンときた。けれど、ここで争ったらまた面倒なことになるから適当に流すに限る。


「ありがとうございます。それでは失礼します。」


 ベアトリスに目配せして、わたし達はその場をあとにした。ジェラルドは、少しの間その場にいたようだったが、長い廊下を曲がる時にちらりと後ろを見たら既に立ち去ったあとだった。


「お姉様。シャル様はきっと自分とお姉様が結婚するものだと思っていたと思いますわよ。」

「そうかもしれないけれど、そうなるのであればわたしはラオネルの巫女を放棄していたと思うわ。それくらいシャルと結婚なんて嫌。」

「そうですわよねぇ。シャル様、お姉様には特に当たりがきついですものね。学校ではそんな事無いのでしょう?」

「学校で?シャルは他のご令嬢にはとってもとーっても優しいの。おかげで王太子様の人気はものすごいことになっているわよ。信じられないことに。」

「信じられないですわ。ジル様もいつもそう言っています。猫被りすぎだって。」

「幼い頃から知っているわたし達にはこんなにもきつい態度を取ってくるのにね。シャルにも早く将来を約束するお相手ができれば違うのかしら。」


 そうこう言う間に二人のサロンにたどり着いた。ソファの上で丸くなっていたイマキュリがわたしのところへ来てすり寄ってきた。キュッと抱っこして、わたし達はソファに座り一息つく。膝の上にイマキュリを乗せて撫でていると、侍女がお茶を運んでくれたのでそれをいただいた。


「わたし、分からないのですが、シャル様はやっぱりお姉様のことが好きなんじゃないのですか?だからあんなふうにお姉様へのあたりが強いんですわ。」


 突然ベアトリスが訳のわからないことを言ってくる。


「何を言っているのよ。どうして好きな相手にきつく当たるの?普通は好きな相手には優しくするものじゃないの?」

「本で読んだことがあります。好きな相手だからひどい態度を取ってしまうということがあるそうですわよ。」

「そんな態度を取る意味がわからないわ。」

「わたしにも分かりませんわ。けれど本にそう書いてあったんです。」

「何の本?」

「恋愛小説です!今すごく流行っているんですって。先日彼女からお借りしたんですの。」


 ベアトリスが指した方にいたのは、先程お茶をいれてくれた侍女で、話を振られて顔を赤くしながらペコリと頭を下げてこちらを見た。


「どういったお話ですの?男性がどうしてそんな態度になってしまうのかしら?」


 侍女に質問を投げてみた。


「失礼ながらご説明させていただきます。若い男性というものは、照れ隠しにそういった真逆の態度を取ってしまうことがあるのです。特段珍しいことでもなく、よくある話でございます。小説でもそういった若い男性がよく登場いたします。」


 侍女は照れながら説明をしてくれた。

 照れ隠しで真逆の態度を取ってしまう。そんな分かりにくいものがあるのか。


「それは・・・とても分かりにくい感情表現なのですね。」

「けれど、お姉様。そういった男性が急に本心を見せたりなんかするとものすごくキュンっとなりますのよ!」

「そういうものなの?」

「「そういうものなのです!」」


 ベアトリスと侍女の声が被った。どうやらそういうものらしい。

 わたしとしては、最初から普通に好きなら好きな態度を取ってほしいと思うのだけれど、そういうものだけではないのか。小説の中の話だからじゃないのかなとも思うけれど、二人がそんなシチュエーションがあったら逆にすごく意識してしまうなどと話をしているので、そういうこともあるのかなという程度で聞き流していた。


 今日のわたしは、自分の理解に及ばないことだってどんな事を言われても許せてしまう気がした。だって、エグモントと婚約が決まったんですもの!こんな幸せなら、色々なことに寛大にならなくちゃ!


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