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堅物な婚約者には子どもがいました…人は見かけによらないらしいです。

作者: 大森 樹

「アメリア様、ご無事ですか!」


 身代金目的で誘拐された私を、一番最初に見つけてくれたのが彼だった。


「もう大丈夫です。私があなたを守ります」


 怖くて震えていた時に逞しい身体に抱き寄せられて、私は一気に恋におちてしまった。


 彼の顔は無表情だったが、汗だくで息を切らしているその姿は私を懸命に探してくれたのだとわかった。


 私……アメリア・ヴェイクは公爵家の一人娘だった。大事な愛娘の命を助けた強い騎士を、両親はいたく気に入り婿養子にすると言い出した。


「急にそんなことを言っては、彼にご迷惑ですわ」

「アメリアと結婚できるんだぞ。こんな幸運を手放す男がいるはずがない。それにフィン君は伯爵家の次男だ。ちょうど良いではないか」


 我が国では娘しか生まれなかった場合は、養子か婿養子を取って男性が爵位を継ぐことになっている。なので、公爵令嬢の私と結婚すれば爵位を継ぐのは彼になる。普通ならかなり良い話だと思う。


「申し訳ありません。父が変なことばかり言って。御礼は別の形でしますので、遠慮なくなんでも仰ってください」


 フィン様は私より三歳年下。もしかすると、彼には好きな人や恋人がいるかもしれない。


「……」


 助けに来てくれた時はそれなりに話してくれていた彼だが、本来は無口なようだ。


 ――うう、沈黙が辛い。


 見た目は悪くはない……はず。これでもそれなりに殿方から声はかけられてきた。しかしフィン様からしたらこんな年上で爵位も上の女なんて、話すことすら面倒なのかもしれない。


 そう思うと胸がズキリと痛んだ。恋をしたのは初めてなので、私はどうしていいのかわからなかった。


「……結婚したい」

「え?」

「御礼はあなたと結婚させてください」


 まさかの返事だった。きっと、彼は我が家の爵位目当ての結婚なのだろう。だけど、それでも良かった。だって、私は彼を好きなのだから。


♢♢♢


 人は見かけによらない。


 それはその通りで、陽気そうな人が実は裏では暗かったり、軟派で不真面目そうな人が実はとても賢かったり……世の中はわからないものだ。

 

 しかし、まさか自分の婚約者が『見かけによらない』タイプの人間だとは思わなかった。


 超がつくほどの真面目人間。ギャンブル、酒、女……そのどれも一切やらないという男、それが私の婚約者フィン・サムソンだった。


 基本的には無表情。真っ黒な短髪で、紫の瞳は三白眼で目つきが悪い。背が高いので、かなり威圧感のある騎士だ。


「これ、どうぞ」

「まあ、これは今王都で人気のスイーツじゃないですか。わざわざ私に?」

「……はい」


 だけど、美味しいお菓子を買ってきてくれる優しい人。渡す時は無表情だけどね。


 この怖い顔でどうやってこの可愛いスイーツを購入したのだろうと想像すると、なんだかくすりと笑えてくる。


「フィン様のお召し物、とてもお似合いですね。騎士団の制服以外のお姿も新鮮で格好良いですわ」

「……ありがとうございます」


 舞踏会に行く前に、彼のことを褒めた時も無表情のままだった。


「す……です」

「え? なんですか?」

「あなたも……す……てき……です」


 だけど、いつも頬を染めながら小さな声で私のことも褒めてくれた。


 きっと彼は女性に社交辞令を言うことに慣れていないのだろう。だけど、不器用ながらも毎回頑張ってくれているのがわかったので嬉しかった。


「遠征があるので、しばらく来れません」

「まあ、そうですか。大変ですが、身体お気をつけてくださいね。ご武運を祈っております」

「帰ったら……お話ししたいことがあります」

「話したいこと?」

「……はい」

「わかりました。お待ちしております」

 

 私が刺繍入りのハンカチを渡すと、フィン様はじっと見つめた後「大事にします」と言って胸ポケットにしまった。


「……」


 無言のまま見つめられて、私は首を傾げた。普段から無口な男だが、今日は一段と喋ってくださらない。


「どうされましたか?」


 その時、フィン様の大きな手が私の頬に触れた。いきなりのことで、動揺した私はとっさに身を引いてしまった。


「す、すみません」

「……ゴミがついていました。驚かせてすみません」

「あぁ、そうでしたか。お恥ずかしいです。ありがとうございました」


 私は自分の勘違いに気がついて、恥ずかしくなった。彼に触れてもらえたと思ったのに。真っ赤に染まった頬を両手で隠して、目を伏せた。


「……行ってまいります」

「は、はい。行ってらっしゃいませ」


 私とフィン様は婚約してもうすぐ一年になるが、エスコート以外で触れ合ったことはない。


 手を繋いだことも、ハグも、もちろんキスもしたことがない。


 これは完全なる政略結婚なので、フィン様は特に私のことを好きではないからだ。


「私は好きなんだけどな」


 全く色っぽい展開がないことを、私は少し不安に思っていた。でも、彼は真面目で堅物だと有名なのだから……女性という存在自体が苦手なのだろうと勝手に結論付けていた。


 だから、彼の女性関係で悩むことになるだなんて思ってもみなかったのだ。



♢♢♢



「アメリア様、フィン様と別れてくださいませ」

「あなたはどなたです?」

「私は……私は……以前、彼とお付き合いしていた者です」


 粗末なワンピースではあるが、目がくりっとした可愛らしい女性が街でいきなり声をかけてきた。


 フィン様と婚約する前、彼の浮いた話を聞いたことはなかった。むしろ、女性と親しく話しているところを見たことがない。


 だから『お付き合いをしていた女性』がいるということが自体信じられなかった。


「お嬢様、相手にする必要はありませんわ。お下がりくださいませ」


 侍女のハンナが、私を守るように前に出て女性を睨みつけた。


「あの……あの……お願いですから、話を聞いてくださいませ」


 ガタガタと震えながら、そう告げる女性は儚くて今にも消えてしまいそうな雰囲気だった。


「ハンナ、ありがとう。でも下がって。彼女の話を聞くわ」

「お嬢様、いけません」

「だってこのままでは、気になるもの」


 何故私を呼び止めたのか、どうして別れて欲しいのかその理由を聞いてみたかったのだ。


「さあ、話してちょうだい。どうして私が彼と別れねばならないのかしら? 別れているのであれば、もう関係はないはずよ」


 この時の私は、彼女が何を言ってきても彼と婚約破棄をするつもりなどなかった。もし本当に付き合っていたとしても、それは過去の話だからだ。


「関係は……あるのです」

「あら、まだ関係が続いているとでも言うの?」


 もし本当にそうだったら、私は彼を許せるだろうか。平気な顔を取り繕ってそう質問をしたが、胸がズキリと痛んだ。


「ずっと連絡を取っていませんでした。でも……もう彼の支援がなければ私もこの子も生きていけないのです。だからこの前久しぶりに連絡をしたのですが、あなた様と結婚が決まっていると言われました」

「……この子?」

「はい」


 彼女は後ろに隠れていた、幼い男の子を私の前に出した。


「この子は……」


 紫色の三白眼に、真っ黒な髪。まるでフィン様の生き写しだった。


「はい、もうおわかりいただけたと思いますが……あの人の子です」

「フィン様の……子」

「三年前に産みました。お腹にこの子ができたことに気が付いた時には……すでに彼とは会っていませんでした。お互い愛し合っていましたが……彼は騎士として忙しくなったので、自然消滅したのです。身分が合わないこともわかっていましたから。だから、彼はこのことは知らずにあなたと婚約したのです」


 真っ青な顔で涙を浮かべながら、女性は真実を話してくれた。


「お母ちゃん、どうしたの?」

「ごめんね。なんでもないのよ」


 不安そうな表情の男の子は、その女性の足にべったりとくっついていた。


「あなた様には申し訳ないです。でも、あの人とやり直したい。この子と三人で……生きていきたい」


 汚れた服や荒れた手から、彼女や男の子が苦労をしていることはひと目でわかった。


「これを」


 私は首からネックレスを外し、彼女に渡した。これはダイヤモンドが付いているので、高く売れるはずだ。


「あ、あの……」

「そこの質屋は信用ができます。売ればしばらく暮らせるでしょう」

「こ、こんな高価なものいただけません!」

「いいの。彼はしばらく戻ってこない。帰ってきたら、話をするけれど……それまでの間、これで生活をしのいでくださいませ」


 女性は何度も何度も頭を下げ「すみません、すみません」と謝った。


 すいませんというのは、この場合どちらなのだろうか。だって、私が彼に会う前の話だ。彼女が悪いことなど何もないだろう。


「彼にはその子を育てる義務があります。責任はとってもらわねば」

「は、はい……いや、でも……」

「彼が渋っても私からお別れをするから、あなたは安心して子育てをして」


 そう告げて、私はその場を離れた。


「お嬢様……!」

「驚いたわね。あの子フィン様にそっくりだったわ」

「あの男、最低ではありませんか! 女性なんて全く興味のないような顔をしておいて、平民に手を出して子を作っているなんて」

「……ええ、人は見かけによらないものね」


 フィン様は現在十九歳。三年前というと、十六歳の時にできた子どもだ。つまり、その年齢の時には男女の関係を持っていたということだ。


 私への純朴な態度から、女性が苦手そうだと思っていたのは勝手な勘違いだったようだ。


 つまり、女性が苦手ではないのに私には触れてこなかったということだ。


「そもそも、彼にとっては爵位目当ての結婚だもの。本当の好みはあの彼女のような女性なのよ」

「私は許せません」

「ハンナ、私のために怒ってくれてありがとう」

「そもそも、どうしてお嬢様が引かねばならぬのですか! あの男が自分で身辺整理をして、お嬢様と結婚すべきでしょう」


 それはそうかもしれない。しかし、あの二人を見て見ぬ振りをすることなんてできなかった。


「いいの、別れるわ」

「……そんな。だってお嬢様はフィン様のことをお好きだったではありませんか」

「そうね。でも、彼は私を好きじゃないわ」


 私が無理矢理笑顔を作ると、ハンナはうっうっと泣き出した。ハンナは私が赤ちゃんの頃からそばにいてくれている大事な侍女だ。


「帰ってきたら話をするわね」

「何があっても、私はお嬢様の味方です」

「ありがとう」


 その日の夜は、なかなか眠ることができなかった。


♢♢♢


「お嬢様、あの男から花が届きました」


 怒った顔のハンナが私に花束を手渡した。あの男呼びに格下げされているのは、もちろんフィン様だ。


「……黄色い薔薇」

「やっぱり許せません! 離れている時に、こんなものを贈ってくるなんて卑怯です」

「花言葉なんて知っている人だったのね」


 黄色い薔薇の花言葉は『別れてください』だ。きっとあの彼女から連絡を受け、子どものことを知り……私と婚約破棄をしたいと思ったのだろう。


 そういえば帰ってきたら話したいことがあると言っていたのは、このことだったのか。


「直接言ってくれたらいいのに」

「言う勇気がないんですよ! だからこんなまわりくどいことをしてるんです」


 怒り心頭のハンナは私から花束を奪い取った。


「これは捨てておきます!」

「……だめよ。花に罪はないわ」

「ですが」

「綺麗なのに可哀想だわ。飾っておいて」

「お嬢様は優しすぎます」


 ハンナは怒っていたが、もしかするとフィン様は私に事前に別れる心づもりをさせてくれたのかもしれないと思っていた。


「私だけが好きだったんだもの。仕方がないわ」


 別れたいという意味の花さえも、彼からの贈り物なら捨てられない。案外私は、乙女思考らしい。


 それから一週間ほど経過した頃、私を訪ねて来た人がいた。


「失礼します。テオドール様が来られています。お嬢様に、どうしても話したいことがあると言われておりまして。お約束されていませんが、会われますか?」

「テオドールが? 何かわからないけど、会うわ。ちょっと待ってもらって」


 テオドールは学生時代の同級生で友人だ。男前で明るくよく喋る彼は、男女問わずクラスの人気者だった。現在の彼は騎士団に勤めており、偶然にもフィン様の先輩でもある。


「テオドール、急にどうしたの?」

「ああ、アメリア。すまない急に……少し気になることがあって心配になってな」

「心配?」


 テオドールは深刻そうな表情で、人払いをしてくれないかと頼んできた。密室に二人でいるわけにはいかないので、使用人たちは部屋から出して扉を開けたまま話すことにした。


「どうしたの? 人払いまでさせるなんて」

「アメリアに言うか迷ったんだが……やはり黙ってはいられない。この前、フィンが女と一緒にいるのを街で見たんだ。服装的に平民だと思う。しかも……あいつにそっくりな子どももいたんだ。信じたくはないが、フィンは君を裏切っているのかもしれない」


 テオドールは眉尻を下げ、心配そうに私にそう告げてきた。


「浮気なら……まだ良かったんだけど」

「どういうことだよ?」

「その人は元恋人よ」

「はあ?」

「元恋人には彼の子どもがいるらしいの。彼が遠征から帰ってきたら私は別れるわ」


 その話を聞いたテオドールは、ショックを受けていたようだった。


「まだ誰にも言わないで」

「言えるわけがないだろ。こんなこと」

「さっき黄色の薔薇が届いたの。フィン様も彼女とやり直したいんだと思う」


 私が目を伏せて、そう伝えると……テオドールはギリッと唇を噛みテーブルを叩いた。


「黄色い薔薇だと? なんだよ、それ。アメリアを馬鹿にしてる」

「……」

「許せない。あいつが帰ってきたら俺がボコボコにしてやる!」

「……ありがとう。でもやめて、お願い」


 私がそう伝えると、テオドールは私をじっと見つめた。


「なあ、俺じゃだめか?」

「え?」

「俺は昔からアメリアが好きだ。フィンは真面目で信用できる男だと思っていたし、アメリアがあいつに惚れてるって言うから……諦めたんだ。だけど、こんなことになったら俺は我慢できない」


 いきなりテオドールに告白されて、私は驚きを隠せなかった。


「も、申し訳ないけれど、私はテオドールを異性としてみたことはないわ。友達だもの」

「わかってる。だけど、あいつと別れるなら俺を男として意識して欲しい。本気だから」


 テオドールは、私の手を握り真剣な顔で見つめてきた。


「……ごめんなさい。私はフィン様が好きなの。きっと別れてもその気持ちは変わらないわ」

「アメリア、だけどあいつは……!」

「ありがとう。でもあなたの気持ちには応えられません」


 テオドールは怖い顔でチッと舌打ちをした。私がそのいつもとは違う態度に困惑していると、彼は大きなため息をはいた。


「アメリアは男を見る目がないな。呆れるよ」

「……そうかしら」

「でも、私は君のそういう一途で頑固なところが好きなんだ」


 ニコリと優しく微笑み「気が変わったらいつでも言ってくれ」と颯爽と帰って行った。


 テオドールが私を好きだなんて思ってもみなかった。彼はとても紳士的で、女性の扱いも慣れている。


 舞踏会で会えば『綺麗だよ』とさらりと言い、髪型を変えれば『似合っているね』と褒める。少しの段差でも『どうぞ』と手を差し伸べて、恭しくエスコートをしてくれるような男だ。


「フィン様とは真逆ね」


 フィン様に綺麗だと言ってもらったこともなければ、彼が私の髪型の変化に気がついたこともない。エスコートも慣れていないので、さっさと先に行ってしまうこともある。


「どうしてテオドールを好きになれないのかしら」


 テオドールを好きになれば幸せになれるだろう。彼はスマートで、人気者で明るい。それに強い騎士だ。なのに……私は無表情で不器用なフィン様のことばかり思ってしまう。


 私は想いを断ち切るために、フィン様に手紙を書いた。


 私たちお別れしましょう。

 あなたが一番好きな人と幸せになってください。

 今までありがとうございました。


 それだけ書いて黒いチューリップと共に、彼が住んでいる騎士の宿舎に届けてもらった。


 今日、彼は遠征先から戻ってくるはずだからだ。ちなみに黒いチューリップの花言葉は『私を忘れて』だ。


「さすがに……最後は顔を見て話したいわね」


 この手紙を書けば、私の元に一番に駆けつけて来てくれるだろうという卑怯な考えもあった。まだ私は彼の婚約者なのだ。できれば、遠征後はあの女性よりも先に私の元に来て欲しかった。


「……嫌な女」


 自分がこんなに嫌な人間だと思ってもみなかった。彼は彼女を子どもを作るほど愛していて、私とはただの政略結婚なのに。


 そして予想通りフィン様は、私の元にやってきた。髪の毛を乱し、額には汗をかいていたので慌ててやってきたのだろう。


「アメ……リア……様、はぁ……これは、この手紙はどういう意味ですか」


 息を切らしながら私の前に現れた彼は、いつもの無表情ではなくかなり焦った顔をしていた。


「そのままの意味ですわ」

「チューリップの意味も、人に聞いて知りました。どうして私があなたを忘れないといけないのか」

「……それはご自身の胸に手を当てて考えてくださいませ」

「ここに来るまでに考えました。でも、わかりません! わからないから、直接あなたに聞いているのです」


 フィン様は私に近付いて、肩を両手で掴んだ。


「私はあなたを愛しています」


 彼からの初めての愛の言葉。本来ならものすごく嬉しいはずなのに、今はとても辛い。


 ――今まで一度も言われたことないのに。


 フィン様が私との結婚にこだわる理由は一つしかない。爵位が得られるからだ。


 この男は子どもを産ませた女を見捨てて、好きでもない私に愛していると嘘をついてでも結婚をしたほうがメリットがあると思ったのだろう。


 ――最低だわ。


 自分が愛した男はなかなか強かだったらしい。一見この権力や金に無頓着そうなフィン様は、なかなか食えない男だったようだ。


「彼女を大切にしてあげて」

「……彼女って誰のことですか」


 フィン様は眉を顰めて、意味がわからないという表情をした。しらばっくれているのなら、なかなかの演技派だ。


「もう嘘はつかなくていいわ。全て知ってるから」

「全て知ってるとは? すみませんが、私には全然あなたの話が理解できない」


 あくまで知らないふりを続ける彼に、私は腹が立ってきた。


「婚約破棄の書類はお送りします。慰謝料はいりませんし、世間的にはお互い円満に別れたことにしましょう」

「ちょっと待ってください。理由もわからぬまま、婚約破棄なんてしたくありません!」

「……さようなら。ハンナ、フィン様がお帰りよ」


 ハンナはフィン様が家に入ってきてから、ずっと彼を睨み付けている。事情を知っている他の使用人たちもみんな、怒っているようだ。


「フィン……様、どうぞお引き取りを」

「ちょっと待ってください。アメリア様とお話を」

「お嬢様はもうあなたと話すことはございません」


 執事たちも来て、フィン様は半ば強引に家の外に連れ出された。


「アメリア、本当にこれで良かったのか?」

「……はい、お父様。申し訳ありません」

「いや、私の見込み違いだった。アメリアには辛い思いをさせたな」


 お父様は私の髪を撫で、慰めてくれた。フィン様に子どもがいた話を聞いた時には、許せないと怒り狂っていたが……お父様は最後は私の意思を尊重してくれた。


 あまり褒められたことではないが、お父様は私が婚約をする前にフィン様の身辺を調べたらしい。結果はそれはそれは綺麗なものだったらしく、女性関係の不安は一切なかったらしい。だから、お父様は私の婿に相応しいと思ったのだと話してくれた。


 だから、私が事実を話した時の第一声は『私の勘違い』ではないかと言われた。しかし、私やハンナがフィン様そっくりな子どもに会ったことを伝えると、お父様も私の話を信じてくれたのだ。


 きっと平民女性との恋愛まで、詳しく調べきれていなかったのだろうと結論付けた。


「後は任せなさい。全て私が処理するから」

「はい」

「アメリアにはもっと素敵な男性が現れる」


 そう慰められたが、私は当分そんな気持ちになれそうになかった。


 あれから一週間、毎日のように家に来たり手紙を送ってくるフィン様。いつも冷静で淡々としている彼が、こんなことをするのはとても意外だった。


「彼女と話をさせてください」

「迷惑です。お引き取りを」

「お願いします」


 大声なので、嫌でも聞こえてくる。まだ彼のことが好きなので、声を聞くだけでも辛い。


「……それだけ公爵家の肩書きが惜しいのかしら」


 手紙は受け取ってはいるが、一度も読んではいない。家に来たところで、使用人たちが問答無用で追い返している。


 フィン様は、婚約破棄の書類にまだサインをしてくださっていないらしい。


「今夜は学生時代のお友達とディナーに行くわ」


 家にいて、彼が来たらまた気持ちが滅入ってしまう。テオドールは、そんな私を気にかけてくれてディナーに誘ってくれた。


 告白を断ったので少し気まずかったが、彼の態度は友達の時と全く変わらず接してくれて有り難かった。


「何人か来られるのですか?」

「ええ、同じクラスの六人よ。結婚された方もいるから、久しぶりに会う方もいらっしゃるの」

「それはよろしゅうございますね。気分転換に目一杯おめかししましょう」


 ハンナは宣言通り私に気合を入れたヘアメイクをしてくれた。ドレスは流石に煌びやかな舞踏会用だとおかしいので、シンプルめなものを選んだ。


「お嬢様、お綺麗です」

「ありがとう」


 ハンナは侍女としてお店まで付いてきてくれるので、二人で馬車に乗り込んだ。


 他愛のない話をしながら時間を過ごしていると、いきなり馬車が急停止した。


「きゃあっ!」


 ハンナが私を守るように抱き締めてくれたので、怪我をしなくて済んだ。


「お嬢様、ご無事ですか」

「大丈夫よ。ありがとう」


 外から言い争うような声がする。これは……何か嫌な予感がする。


「お嬢様、絶対に鍵を開けてはいけません。私から離れないでください」


 ガタガタと震えながら、ハンナは私を守ってくれようとした。


 ドンドンドン、と外からドアを叩くような音がする。


「アメリア様、いるのわかってるんですよ。さっさと出てきてください」

「こいつらどうなってもいいんですか? 出てこないなら殺しますよ」

「俺たち金が欲しいだけなんで、お嬢様がいればいいんですよ」


 ゲラゲラと笑いながら、非道なことを言う男たち。


「私以外に手を出さないと誓うなら、出て行きましょう」

「お嬢様、絶対にだめです」

「ハンナは黙っていなさい」


 私がそう伝えると、外の男たちは「わかった、わかった。約束しよう」と言った。正直、信用できないが……このままここにいても結局ドアを蹴破られるだろう。


 ガチャリ


「他の者に手を出したら許しません」


 私は怖くて身体が震えていたが、気付かれないように気丈に振る舞った。


「お嬢様っ……私たちのことは……気にせずお逃げください」

「うるせぇんだよ」

「うゔっ」


 倒れている私の護衛や御者を大勢で、蹴り飛ばしている。思ったより人数がいる。我が家の護衛は優秀だが、この人数が一気に来られてはどうしようもないだろう。


「さっそく約束を違えるのですか!」

「おい、お前らやめろ」


 リーダーのような男の一声で、ピタッと他の男たちの動きが止まった。


「生粋のお嬢様ってのは綺麗だねぇ」


 下卑た目で上から下まで見つめられて、気持ちが悪い。明らかにガラの悪いゴロつきたちだった。


「傷付けずに運ばなきゃいけねぇからな。はい、おやすみ」


 ハンカチに薬を染み込ませたものを、口に当てられて私は気を失った。






 そして暗い部屋で目が覚めた。どれくらい時間が経ったのかわからない。


 ――そういえばフィン様に助けてもらった時も、こんな状況だったわね。


 とても怖いはずなのに、そんなことを思い出すことが不思議だった。今回は彼が来てくれるはずがないのに。


 この部屋には私以外誰もいないが、ハンナや他の皆は無事だろうか。


 食事の約束をしていたので、時間通りに行かなければきっと誰かが我が家に連絡してくれるはずだ。もしくは……身代金の要求をすでに犯人がしているかもしれない。


 そんな時、乱暴にドアが開けられてゴロつきが入ってきた。


「おお、起きたのか」

「……ここはどこなの」

「そんなこと言うわけねぇだろ。死なれちゃ困るから食え」


 パンと水を目の前に置かれたその時、外でドサドサと大きな音がした。


 ――まさか、フィン様?


「なんだ、この物音は」


 ゴロつきが異変に気がついて部屋の外に出ようとした瞬間、一人の男が中に入ってきた。



「アメリア、無事か!」



 それは……フィン様でなく、テオドールだった。彼はゴロつきたちを殴り飛ばして一瞬で倒してしまった。


「テオ……ドール……」

「大丈夫か? 怖かったな。もう平気だ」


 テオドールに抱き寄せられ、ポンポンと頭を撫でられた。


「……助けてくれてありがとう。よくここがわかったわね」

「ああ。店に来ないから、連絡したら誘拐されたって聞いて驚いて必死に探したんだ」

「心配かけてごめんなさい」

「いいんだ。君が無事なら」


 テオドールは、私の頬を大きな手で包み込んだ。


「ハンナとアンは無事かしら? 二人侍女が乗っていたでしょう」

「ああ、みんな無事だ。安心してくれ」


 笑顔でそう言ったテオドールの胸を、全力で押し除けた。


「痛っ……アメリア、どうしたんだ」

「馬車に侍女はハンナしか居なかったわ。あなた、これはどういうことなの」


 全力で探したと言う割に、テオドールは汗ひとつかいていなかった。友達を疑いたくなかったが、それがなんとなく引っかかったのでかまをかけたのだ。


「答えて」

「ふっ……ははは、アメリアは本当に頭がいい女だな。わざわざここまで芝居したのに無駄になったな」


 テオドールは低い声を出し、意地の悪い顔で笑い出した。


「アメリア、世の中には知らない方が幸せなこともあるんだぜ?」

「なんですって」

「知らなければ私と幸せに結婚できたのに。頭はいいが、馬鹿だな」


 テオドールと結婚なんてするはずがないではないか。


「既成事実を作るしか無くなったな」


 私はテオドールに床に押し倒された。その歪んだ笑顔に、恐怖で身体が震える。


「冗談はやめて」

「これが冗談にみえるか? 公爵家のお嬢様ともあろう人が、初めてがこんな場所とは可哀想にな。でも私が触れればすぐに良くなるさ」


 テオドールの顔が私に近付いてきた。気持ち悪くて、怖くて身体が震える。


「フィン様、助けてっ!」


 私は来るはずのない人の名を必死にそう叫んでいた。


「来るはずないだろ」

「やめて、触らないで。助けて、助けてフィン様っ!」

「抵抗しても無駄だ」


 もうだめだと思ったその時、私に覆い被さっていたテオドールが宙を舞いそのまま床に叩きつけられた。


「アメリアに触れるな」


 そこにいたのはフィン様だった。まさか、まさか彼が助けに来てくれるなんて。


「チッ、お前……なんでここが」

「婚約者のピンチに駆けつけるのは当たり前でしょう」

「やっぱりお前は邪魔だな」


 テオドールが襲いかかってきたが、フィン様はすぐに返り討ちにした。そして倒れたテオドールの喉元に剣を突きつけた。


「私の方が強い。二度と彼女に近付くな」


 そう言って、勢いよく剣を振り下ろした。私は恐ろしくて目を閉じたが……実際は何も起こっていない様だった。


「気を失ったようだ。しょうもない男ですね」


 フィン様は、部屋にあったロープでテオドールをぐるぐる巻きに拘束して、部屋の端に投げ飛ばした。


「……アメリア様、ご無事ですか」

「はい。ありがとうございます」

「心配しました」


 私を抱き締めたフィン様は、やはり額にたくさんの汗をかいていた。それだけで私を必死で探してくれたことがわかって、心が満たされた。


「フィン様、私……あなたが好きです。ずっとお慕いしております」

「私もです。あなたが……アメリア様が好きです。帰ってきたらそれを一番に伝えたかったんです」

「あなたに子どもがいても、いいです。私はそれでもあなたが好きなのです」


 泣きながらそう伝えると、フィン様はポカンと口を開いたままフリーズした。


「子ども……とは?」

「あなたの子どものことです。前の彼女とできた子ども」

「はぁあっ!? 私に子ども? そんなものいるはずがないではありませんか。それは何の勘違いですか」


 フィン様は大声で叫んだ。


「え……でも、あなたにそっくりな子どもがいるのです。あなたとの子どもだって聞いて」

「知りませんよ! 絶対にあり得ません」


 そう言い切る彼に、今度は私が首を捻る番だった。ではあれは誰なのだろうか。


「こんなこと言いたくありませんが……その……私は……」


 フィン様は深刻な顔をして、下を向いた。


「け、経験がありません」

「……は?」

「だから、誰ともそういう経験がないのです。だから子どもができるはずありません!」


 ブルブルと震えながら、真っ赤になってとんでもない告白をしてくれた。嘘をついている可能性もゼロではないが、この表情からして本当なのだろう。


「そ……ですか」

「……そうです」


 二人の間にそわそわと変な空気が流れたまま、時間が過ぎていく。


「私が愛しているのは、あなただけです。信じてください」

「……わかりました」

「婚約破棄なんて言わないでください」

「はい」

「ずっと一緒にいましょう」

「……はい」


 そのまま二人の唇はゆっくりと重なった。二人にとってそれがファーストキスだった。


♢♢♢


 後に、全てはテオドールが仕組んだことだと判明した。彼は伯爵家の三男であるため、公爵家の肩書が欲しかったらしい。


 学生時代、私と友人にはなれたが恋仲に発展することはなかった。


 そのため、一年前に誘拐事件を計画した。彼が雇ったゴロつきたちに誘拐させて、自分が助けるという自作自演の予定だった。それで私がテオドールに惚れるはずという筋書きだったが……フィン様が一番に助けてしまった。


 そして、私とフィン様が婚約。それを彼は恨んでいたらしい。そのため今回もう一度誘拐を計画した。クラスの友人たちと集まる予定という話も真っ赤な嘘だったようだ。


「すみません。私は花言葉なんて知らなくて……アメリア様に花を贈りたいという話を騎士団でしていたら、あの男に『薔薇を贈ればいい。アメリアは黄色が一番好きだから、そうすれば喜ぶ』と言われたんです。あなたとあいつは友人だと知っていたので、信じてしまいました」

「そうだったの」

「あなたから『別れたい』と手紙を貰って初めて変だと気が付きました。そして、他の人に聞いたら黄色の薔薇は別れる時に贈る物だと聞いて青ざめたんです」


 その後にテオドールに抗議したらしいが『まさかそんな冗談信じてたのか』と笑われたらしい。そして、誤解を解こうとしたが……私が会おうとしなかったのですれ違ったままになってしまった。


 しかも、あの子どもは全く関係なかったことが判明した。テオドールは、この計画のために人を雇ってフィン様に似た容姿の子どもを探したらしいのだ。


 そして見つかったのが、私が会ったあの子だった。あの子は父親が亡くなっており、お金に困っていたところにテオドールがやってきて大金をチラつかせて取引を持ちかけてきたらしい。


 髪の毛は違う色だったので、可哀想だが染めたと泣きながら話してくれた。


 父親の肖像画を見せてもらうと、フィン様に少し似てはいるがもっと細身な男性だった。


「申し訳ありません。どんな処罰も受けます。お優しいあなた様に酷い嘘をつきました」


 あの女性は私が渡したダイヤも売ってはおらず、そのまま返してくれた。


「あなたも被害者のようなものだわ。それに、これはもうあなたにあげたもの」

「いえ、しかし……」

「あの子の髪の毛、早く戻してあげてね」

「うっうっ……はい。ありがとうございます」


 女性は泣き崩れていた。フィン様からは『あなたは甘いです』と言われたが、私はこれで良かったと思っている。


 つまりは、私たちのすれ違いは全てテオドールが計画したことだった。


 テオドールの罪が全て明らかになり、平民落ちさせた上での国外追放が決まった。なのでもう二度と会うことはないだろう。


 彼の生家から我が家にも多額の賠償金が支払われたため、そのうち没落するのではないかという話もある。


「アメリアを泣かせて二度も誘拐したのに、金で許してやるんだ。感謝して欲しいものだな」


 そう言ったお父様の目は笑っていなかった。そう、きっと……えげつない方法で搾り取ったのだろう。お父様はそういう男だ。敵には回したくはない。


 男前で人気者だったテオドールが捕まったこの事件は、社交界をざわつかせた。ショックを受けた若い女性たちも多かったらしい。


 誰もがテオドールは、爽やかで明るい好青年だと思っていた。しかし、実は裏ではかなり女遊びも激しかった上に金遣いも荒く……あまりいい男ではなかったようだ。


 まさに人は見かけによらないものである。



♢♢♢


「アメリア、ただいま」

「フィン、お帰りなさいませ」

「……逢いたかった」


 フィンは玄関でぎゅうと私を抱き締めてくれた。色んなことがあったが、私たちは予定通り結婚したのだ。結婚してからはお互い敬称はなしにしようと決めた。


 テオドールの誘拐事件があって知ったことだが、フィンは実は私のことをずっと好きだったらしい。


 彼が騎士団入ったばかりの時に、厳しい訓練で怪我をしたそうだ。しかし彼は基本的に無表情なので、特に誰からも心配も治療もされずにただ痛みに耐えていたらしい。


 その時たまたま王宮に来ていた私が『大丈夫?』と声をかけて助けたらしいのだ(覚えていないけれど)


『国を守るために頑張っていただいて、ありがとうございます。どうか強い騎士になってくださいませ』


 私は傷の手当てをして、ニコリと微笑んだらしい(覚えていないけれど)


「その時、あなたに恋をしました。なんて素敵で綺麗な人なんだろうって。そして絶対に強くなろうと決意して、訓練も死ぬ気で頑張りました」


 しかし、家格の差や年齢のことが気になり……彼から私に話しかけることはできなかったそうだ。


 そして一年前に私が誘拐されたと知り、必死に探した結果……適当に時間を潰して助ける機会を伺っていたテオドールを追い抜いてフィンが助けてくれたということだったらしい。


「でも婚約してからも無表情だったわよね。ぜんぜん触れてくれなかったし」

「一度触れたら、我慢できなくなる気がして。それに……遠征前に頬に触れたら、あなたが避けたので嫌なんだと思っていました」


 あれはやっぱりわざと頬に触れていたのか。


「あれは急でびっくりしただけです。それにあなたも……ゴミがついていたって言ってたのに」

「とっさに誤魔化したんです。それに助けた御礼として、半ば無理矢理婚約することが申し訳なくて。でも……そんな卑怯な手を使っても……あなたと結婚するチャンスを逃したくなくて。すみません」


 見た目通りの真面目っぷりに、私は笑ってしまった。


「私はあなたが助けてくれた瞬間に恋におちたの」

「そ……そうですか」

「大好きよ」


 真っ赤に頬を染め、照れているフィンはとても可愛らしい。結婚してからの彼は、少しずつ表情豊かになってきている。


「……すぐに寝ましょう」

「え、ご飯は食べないのですか?」

「それより欲しいものがありますから」


 フィンはニッと色っぽく微笑んで、私を横抱きにしてベッドに優しく下ろした。


「アメリア、愛してるよ」

「ちょ、ちょっと待ってください」

「可愛いアメリアを前にして、我慢なんてできるはずがない」


 ちゅっちゅ……と軽いキスから、すぐに熱く深いキスに変わっていく。


 そしてそのまま彼に、頭のてっぺんから足の指先まで全てをくまなく愛された。


「アメリア、とても綺麗だ」


 フィンは、この時ばかりは甘く蕩ける顔を見せてくれる。二人きりの時の彼は、とても素直に感情を出してくれるようになったのだ。


「愛してるよ」


 そしてとても色っぽくて格好良いので、私は毎回胸がドキドキしてしまう。結婚前に男女の経験がないと言って恥じらっていた人と、同一人物とは思えない。彼は真面目で勉強熱心なので、回数を重ねるたびに男としてものすごい成長を遂げていったのだった。


 世間的にフィンは『超真面目な旦那様』だと言われている。だから、周りからは『仕事人間なんでしょう』とか『冷たそう』なんて思われている。


 でもそれは間違っている。だってフィンは私を溺愛しており、いつも溢れんばかりの愛を伝えてくれる。


「アメリア、あーん」

「……フィン、一人で食べられますから」

「私がしたいのです。ほら、美味しいから口を開けてごらん」


 今日も彼は私を膝の上に乗せて、自分がお土産で買ってきたスイーツを私に食べさせている。


「美味しいですか?」

「はい、すごく美味しいわ」

「それは良かった。もぐもぐ口を動かしているアメリアは、すごく可愛いですね。仕事の疲れも癒やされます」

「は、恥ずかしいです」

「恥じらっている姿もいいですね。この新しいワンピースもよく似合っています」


 彼は私を後ろから抱き締め、ちゅっちゅと頬にキスをし続けている。


 婚約中は全く言ってくれなかったが、旦那様になってからの彼は私の細かな変化にもすぐに反応して褒めてくれる。新しい服やアクセサリー、髪型を少し変えただけでも気が付いてくれる。


『以前からあなたの変化には全部気が付いていましたよ』

『でも、一度も指摘してくれなかったではありませんか』

『それは……私のような男が、あなたの細かな変化に全部気が付いたら気持ち悪いかと思って、言うのを我慢してました』


 それを聞いて驚いてしまった。女性の変化なんて全く気が付かないタイプの男性だと勝手に思ってしまっていた。


『変化に気が付いてもらえるのは嬉しいですわ』

『そ、そうですか。では気が付いた時は、素直に感想をお伝えします』


 そう言った瞬間から、フィンは私が少しでも何か変えると『可愛い』『似合ってる』『素敵です』と盛大に褒めてくれるようになったので……嬉しいけれど少し恥ずかしい。


 実はそんな甘ったるい毎日を過ごしているのだが、外でのフィンは相変わらず無表情で真面目な男なので、周りからは未だに堅物騎士と呼ばれている。本人もそれを変える気はないようだ。


 だけどこんなに甘く優しいフィンのことは、私だけが知っていればいい。


 本当に、人は見かけによらないものだ。だって、みんなが堅物の真面目な騎士だと思っている彼は、とっても素敵な私の旦那様なのだから。



END



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[良い点] 面白かったです [気になる点] 父親がな… 平民まで調査がいかなかった!じゃなくて、その真偽の裏取りをしろよと。仮にも公爵だろと。 物語の展開上しかたありませんがもやもやしました。
[良い点] フィンがかっこよかった [気になる点] アメリアが最初から最後まで攫われたお姫様役、かつフィンのことを全く信じていない性質でヒロインとして魅力無かった。せめて有能な描写を見せるとか、自分だ…
[一言] 悲劇の女ぶってるけど、アメリアがただのバカ女なだけの話だった。
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