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夕陽から飛び出して来い   作者: 木畑行雲
第四章『あ』と言ったら『うん』と応えて!?
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第八章

 またある日の土曜日も小鬼と朝の時間を満喫すると、

「援団の集まりに行ってくる」

と言って、華子は上機嫌で出かけて行った。

 聡美が亡くなってから、高校生の華子はある日思い立ったように応援団に入部し、あっという間に副部長になった。そして家族に「なんで応援団に入ったの?」と聞かれると、「かっこいいから」と、いつも嘘か真か分からないような理由を答えていた。

 華子は大学生になっても後輩達の指導をする為に、たまに高校へと出向いた。「援団」という言葉を華子から聞くたび、晶は一体どういうつもりで人を応援しているんだろうと首を捻った。

 応援団で活動するところを一度も見たことがないのと、母が亡くなって以来、更に怒りっぽくなったことが印象的で、華子から誰かを応援する感情を持ち合わせているようには感じ取れなかったのだ。

 去年の冬、華子が年末の買い物袋を下げて晶や祖母と帰り道を歩いていた時の事だ。車が来るのに気づいて細い道で一列になろうとゆっくり向きを変えていた所、後ろから来た車にクラクションを鳴らされてしまい、

「お前だけの道なのか?生き急いでんじゃねえ!」 

と、大声を出して詰め寄っていた。言われてみればなるほどなと思う一方で、あまりに向こう気が強いとトラブルにならないかと晶はヒヤヒヤした。運良く、怒鳴られた車はサーっと逃げるように立ち去ってくれたので、トラブルにはならなかった。

 年頃の華子はただでさえイライラしやすく、今にも爆発しそうな怒りを感じさせて、扱いづらい雰囲気を撒き散らして生活していた。一緒にいる限りではそうだった。

 しかし最近では、通りがかりの自転車がベルを鳴らしてももう怒鳴ったりしない。何も気にせずに道を譲ったりするのだ。

 

 金曜日、華子は大学の授業を終えると、夕方から終電近くまで居酒屋でアルバイトをしている。居酒屋といっても、都内の洒落た立地にあるドラマに出てきそうなお店だ。そんな都会の流行の最先端に足を踏み入れる姉を晶は勇敢だと思っている。

 蒸し暑い夜の事、寝支度をしていると家の電話が鳴り響き、晶はビクっとして、早く受話器を取らなければならないような焦りに駆り立てられ、階下へ走った。

「ごめんごめん、今八王子駅にいるんだけど、お父さんまだ起きてる?」

受話器から華子の声がして、後ろでは雨の音がする。

 駅周辺を除いて八王子のバスは最終便が早いから、いつもは自転車で帰ってくるのだが、その日は大粒の雨で迎えが必要なようだった。

 理太郎は起きていたが、お酒を飲んだので運転できないとリビングから返答してくる。

 晶は、傘を持って小鬼と犬と一緒に歩いて迎えに行くと華子に返事した。

 夜道は怖いから、こんな時はタクシーで帰って来るのだが、「小鬼」という存在が姉妹に安心感を与え、雨でも暗い道でも歩ける気にさせた。

 駅前のコンビニで待ち合わせすることにして、電話を切った。



 

 


 

 

 

 

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