第八章 輝ける週末
「私は全員の気持ちが分かる。皆一理あるんだと思う」
映画や何かの感想を語り合う時に、これまで登場人物の誰か一人か二人の視点に立って共感していた晶は華子の言葉に秘かに衝撃を受けた。
『こいつはなぜいつも上を行くのだろう』
晶は華子の言葉が自分の発想を上回っていることに優れた視点を認めてしまっていた。他にも自分には思いつかない何かを考えているんじゃないかと、目が離せない。
土曜日の夜、世間で話題になっている映画を家族全員で観た。家族が全員テレビのある部屋に集まる物珍しさに引き寄せられて、犬と猫は興奮した。じゃれ合って毛が舞った。
天春家の人々は、いつもは流行や人気をあまり追いかけない。それは自分をしっかり持っているからとか、高尚な精神で生きているからという事ではなかった。ただ彼らは、お金のかかることをあまり出来ないのと、流行が去ることを知っていた。彼らは多くの場合、来ては去る流行をただ眺めていた。
この日は、理太郎が同僚から強く勧められた日本中でその時話題だったミステリー映画を持って帰ってきたことから、団欒が始まった。
「どうしても観てくれって言うんだ」
そう言うと、理太郎はディスクケースをソファに放り投げた。
「借り物でしょ。やめてよ?」
華子は慌ててソファからディスクケースを拾って、状態を確認した。そして、その借り物が今世間を騒がせている代物であることに華子は気づき、どんなものか家族皆で観ることになった。
映画の舞台は、昭和五十年代の高知県のとある村。美しい自然を背景に次々と奇怪な現象が起こり、次第に村人が姿を消して行く。
東京のホテルで働いていた主人公は、地元高知県の村で起こる不可解な出来事を母からの手紙で知らされる。そして、幼なじみの雪枝までもが居なくなったことを知り、故郷へ向かうのだった。
映画を見た後、
「これの何がそんなに良いのかね」と理太郎は言った。
すると、ウメは「良かったわよねぇ」とすかさず言う。そして、華子も映画の良かった所を次々と上げていった。
まず、主人公がホテル勤務の職業癖で何でも折り目正しく直そうとするコミカルさ。危ない目に遭いながらも村の謎を解いて、密かに想いをよせる幼なじみの雪枝を救い出しても、恋が実らない切なさ。そして、休暇を取って主人公を追いかけて来た東京のホテルの先輩の空回りぶり。
華子の言うことに、ウメと晶は「そうなんだよねぇ」と、共感してほとんどの会話は女達だけでしていた。しかし、家族全員で一致した唯一の感想があり、それは高知県が美しい所だという事だった。
「皆で行きたいね」と、思わず晶は言いたくなったが、たぶん無理だろうと思って飲み込んだ。晶は芸術クラスのある高校に入ったが為に、自分にお金がかかっている負い目があった。そんな暮らし向きの中、軽はずみな言葉で父を焦らせまいと晶と華子はいつも気を付けている。しかし、明らかに皆、高知県を夢見ているような雰囲気があって、
「いつか皆で行きたいな」と、理太郎は呟いた。