第七章
「ここに手を当ててみて」
晶は、また小鬼に枝に腰掛けて貰った。そして小鬼のいる所を手で指した。
華子は、恐る恐る手を近づけて、
「わっ」
と、声を上げた。
驚いた顔をして晶を見つめ、どういう訳かを知りたがっている。
びっくりしている華子の反応が面白いのか、小鬼は自らフワフワ飛んで近づいたり離れたりしている。
「いや、なになに」
華子は、温かい何かが自分に触れては離れを繰り返していることを確信した。
「夕陽からやってきた小鬼さんです」
晶はにこやかに紹介した。しかし、人は自分の想定からあまりにかけ離れた言葉だと聞き取ることが出来ないようで、華子はまた「どんな手品?」」と、振り出しに戻ってしまう。
晶はまた小鬼に協力してもらって説明しようと思ったのだが、小鬼は梅林の隣にある保育園で鬼ごっこが始まったから混ぜてもらいたいと、林を出て行ってしまった。
「お姉ちゃん、これは手品じゃないんだ。でもまた後で説明するよ」
晶そうが言うと、
「なんでよ、今言ってよ」と、引かない。
「お姉ちゃん、信じられないだろうけど、ひとまずこの話を聞いててね」
晶は小鬼との出会いから語り出した。
小鬼が居ない中で、どのくらい自分の言葉が通用するのか晶には全く自信がなかった。だけど、身振り手振り、小鬼の姿や様子をなるべく忠実に説明した。
「ちょっと、あんたの説明だと今いち分かんないから、その小鬼さんとかいうの呼んでよ、じゃあ」
華子は、聞き終えると更なる確信を求めた。
「今、保育園で遊んでるから」
「え?」
「そこの保育園で鬼ごっこしてるから」
「何言ってんの?ぶっ飛ばすよ?」
「いや本当!本当に」
「――仕方ないな。見に行くよ」
「いやでも、ジロジロ見てたら不審者に思われるんじゃない」
「あ、大丈夫。先輩が働いてるから、言い訳できる」
二人は、梅林を出てすぐ側の保育園へ行った。
林を抜けるとすぐに、黄色やオレンジ色の帽子を被った園児達が声を上げて走り回っている姿が見える。
着いてすぐ、保育園の校庭を柵越しに観察する華子は、真剣そのものだ。
そして、しばらくして華子は柵に頭を付けて言った。
「――わぁ、居るね。――居るわ」
華子が言うには、園児の中の何人かが、体の片側や後ろを手で押しのけるような仕草をしていて、何かが居ると感じているのが見てて分かるのだそうだ。
「鬼が鬼ごっこ。変わった体験してるね、私もキッズも」
ボソボソと独り言のように呟くと、華子は校庭を見つめ続けた。