第六章
「へぇ、天ちゃんの家、狸の森公園の近くなの」と成海の父は言い、ポルシェで送り届けてくれた。
一度きりと言っていたドライブも、「今度は府中の方へ回ってみるか」と、成海の父はすっかり気分が変わったようだった。
成海が窓から手を振ると、赤くて綺麗なスポーツカーは華麗に去って行った。晶は、友達の親と過ごした緊張感と素敵な時間を過ごせた満足感で、気持ちよくくたびれていた。
家の駐車場には傷だらけの白いトヨタ車が止まっていて、自分の家に帰って来たという感じがした。
晶は理太郎が白いペイントですり傷を塗り隠している箇所に、愛嬌を感じて笑顔になった。
門扉を開けると、玄関前のタイルで寝ていた犬が尻尾を振って出迎えてくれる。舌を出して喜んでいる姿は、毎日見ているけど飽きることがない。飽きることのないこの顔を不思議だと晶はふと思う。
良い一日だった。大きく息を吸って吐く。小鬼と犬と散歩に行こうと少し気合を入れて家へ入って行った。
「あ、おかえり」と言って、小鬼は晶の目の前にプカプカ飛んで来た。そして、晶が「ただいま」と言う前に話し出した。
「今日、また雷雲を感じて、きっと晶だろうと思って向かってみたんだけどね。そうしたら、やっぱり晶でね。赤い車に乗って友達とどこか行ってたよ」と、一息に言う。
「なんだ、来てたなら声かけてよ。付いてくれば良かったのに、一緒に行きたかったよ」
「いやあ、あの車狭いもん」
「でも、ポルシェだよ?」
「なんだか知らんけど、狭いのはイヤだな。うちの車の方がまだいいよ。皆に暑い暑いって言われるのやだもん」
「へぇ、そっかぁ」
晶は、小鬼にも速い高級車からの立川を見せてあげたかったなと思った。しかし、小鬼の言い分を聞いていると、そんな事を気にしていたのかと気の毒な気がしてくる。
話しながら犬の散歩に出ると、小鬼は、もうこの辺の町はほとんど見て回ったから大体分かっているのだと語った。
それに秘密のお気に入りの場所も見つけたとか、今度連れて行ってあげてもいいよとか、わざと勿体つけたような言い方をする。
小鬼のぎこちないながらも人をからかう事を覚えた観察力に、晶は関心して、
「人間の得意げになる所、分かってるね、すごいね」と言うと、小鬼は照れてふざけた顔をする。