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夕陽から飛び出して来い   作者: 木畑行雲
第四章『あ』と言ったら『うん』と応えて!?
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第六章

 校門を出てすぐに、「木下、木下」と呼ぶ低い声に引き止められて、二人は一緒に振り向いた。

 その男子は、昔からの友達みたいに晶と成海の間に入ってきて何かクラスの事を話し始めた。

 晶は、しばらくしてなっくんが男子と自然に会話をしていることに驚いた。晶が自然に話せる男といえば、父と家の犬猫と幼なじみだけなのだ。

 話を聞いていると、どうやらなっくんと同じクラスで名前は村田というらしかった。くせ毛で硬そうな髪をしている。

 そうこうしていると、とうとうCD屋さんに着いてしまって、晶と成海は入り口の前で、村田と向き合うようにして見送る態勢に入った。しかし、村田はスッと二人の横を通って「中見てこうぜ」と言う。

 晶と成海は互いの視線を合わせて、何かおかしいという表情を出し合った。

 店内に入ると、キョロキョロとうろつく村田に意を介さず、成海はスノーボードの映像が見たいと言って奥へ行ってしまった。

 晶も静かに忍び足で洋楽のコーナーへ進んで、しばらく見て過ごすと邦楽のアルバムを見に行った。姉から借りたアルバムを気に入って、他の曲も聴いてみたいと思っていたのだ。

「荒井由実ベスト」と書かれたアルバムを手に取り、曲目を見ていると、

「そんな古い音楽やめろよ」と、言う声がした。

 顔を上げると、村田がこっちを見ている。晶は、気に入らない事を言うなと思って答えた。

「じゃあ、どんな音楽がいいと思ってるの?」

「そりゃ、今はこれだろ。てか、CDってさ」

 村田は高校生のほとんどが知っている流行物を手に持って見せる。晶は、村田のその感想で、あぁこの人は今時のものが良いと思っているんだと解釈した。そしてそんな了見の者には、到底この時代の荒井の良さは分からないだろうなと思った。

 それにデータだけが良いと思っているらしいところも話が合わない。芸術クラスでは、CDどころかレコードやカセットを良しとする雰囲気があるし、昔の機器を扱える事は通で格好良いことだという尊敬すらある。文化や表現が経てきた成り立ちに目を向けることは当たり前で、過去をただの古びた時間とは誰も感覚的に扱っていない。何より、晶はお気に入りの曲はCDで取っておくと決めている。

 晶はまた「荒井由実ベスト」に視線を戻して、曲目の続きを読んでいった。知らない曲五曲と好きな曲が三曲入っているのが分かって、晶は買おうか迷いだした。

 値段がややお高めなのと、好きな曲のうち二曲は姉の持っているアルバムに入っているのだ。姉に相談してみよう、そう思ってアルバムを棚に戻すと、村田は満足気な表情で口をとんがらせていた。

 晶は、おかしな人だなと眉をしかめて、なっくんを見つけようと店内を早歩きで探した。

 村田は同じ速度で付いてきて、

「お前何で、紺の靴下なの?白のルーズソックスにしろよ」と、何度も言ってくる。

 晶は無視していたが、五度目の提言ににやや強い口調で、

「そんなにルーズソックスが好きなら、買って自分で履いて?」と、言った。

「いやそうじゃなくてさ、ルーズソックスの方が今はお洒落だろ」と、村田は言う。何も通じない奴だ。

 晶は、あえて紺の靴下にしているしそのスタイルが気に入っているのだが、村田にその事を説明する気はなかった。晶の感覚では、紺の靴下の方が私立の高校生みたいな品のある制服姿になるのだ。ルーズソックスは、自分の持ち味とは違う気がしてる。

 中学生みたいな着こなしの村田には、そういう違いは分からないだろうと思った。

 スノーボードの映像を眺める成海を見つけると、晶は「もう帰ろう」と真剣な眼差しで訴えた。

 

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