第一章
高校生になってから、地面や駐車場の輪止めで座る事をしなくなったけど、もうくたくただった。
カバンの中から学校の自販機で買ったお茶を取り出すと、三分の一しか残っていない。物足りないと思う気持ちで、喉が一層乾くようだ。
晶は、刈り込まれた草の中に座りお茶を一気に飲み干した。不思議な事について考えようとしたけれど疲れでボーッとしてくる。
それにそよ風。眠れ、眠れとそそのかそうとしているみたいだ。加えて、いいんだよ、いいんだよと名もなき花と草はささやいて、火照った体から力を抜いていく。
晶は身を任せて草々に混じってしまおうかと思った。全身の力を抜いて、涼しい木陰で休むのだ。しかし、卸したてのワイシャツを汚したくはない。それにこんな所で眠るほど無頓着なタイプではない。
カッと目を見開いて歌舞伎みたいな顔をして、抗った。脳に起きろと言っているのだ。
そして、晶は思い切って立ち上がった。スカートをはたいて、埃や枯草を取り除き、それから思い切り伸びをした。
木の葉の隙間から見える空がキレイ。
「ふあ〜あ」
と、なるべく大きな声で言った。犬があくびや伸びをする時に、大きな声を出すのを良い案だと思っていたから。
身体中の眠気みたいなものを腕や脚から追い出して、もう一度あくびをすると涙がでた。
緑道から出て、道路の先を見ると空はもう夕暮れの色を帯びている。もうそんなに時間が経ったのかと不思議に思う気持ちもあったけど、晶はもう考えたくなかった。ただ帰りたい、犬の顔が見たい、そう思った。
道路のもっと先にある富士山がこの時季には珍しくはっきり姿を現していて、夕陽が迫っている。
「きれいだな」
晶は潤んだ目で見つめた。