第三章
「一旦、保護する?」
と、みんなが妥協できそうなことを晶は言ってみた。
今、母親のことや小鬼のことを言っても家族に混乱をもたらすだけだ。
「動物病院に相談してみようよ」と、援軍のように華子は言った。
「放っておくのもかわいそうよね」と、ウメも言うと、しばし間を置いて父は頭を掻いて承諾した。
「しかし随分、汚れてるなぁ」と、ため息混じりに言うと父はそっと子猫をすくい上げ、ネルシャツの胸ポケットに入れた。
そして、父は急ぎ足で「動物病院に行ってくる」と言い残し、風のように去っった。
至極積極的な父の行動に呆気に取られ、皆しばしその場に立ち尽くしてしまった。
「可愛いと思ってたのかな」
「みたいね」
家へ着いてしばらくすると、父はタオルにくるんだ子猫を抱えて病院から戻って来た。
子猫は「ニャーニャー」と、力強く鳴き、毛はフワフワになっている。父曰く、動物病院で体を洗ってもらい、少しミルクみたいなものを与えてもらったら、生まれ変わったように元気になったのだとか。
リビングのカーペットに子猫を下ろすと早速歩き回っている。小さいながらも、少し目を離すとあっという間に部屋の端まで移動している。
父が始めに動物病院へ連れて行ったのは大正解だった。ミルクやキャットフードも動物病院で買って来てくれたから一先ず安心だ。
父は新聞紙とティッシュの箱で手作りの猫用トイレを作ると、しばらくこれで凌ごうと皆に伝えた。
夜、子猫はソファでテレビを見る父の体によじ登り、うなじとシャツの間の隙間に忍び込んで休んだ。
父は娘が出かけることもすっかり忘れ、子猫と寛いでいる。
晶は風呂上がりに、ダイニングから父と子猫のそんな様子を見ていた。こんなに父が幸せそうにしているのを見るのは、いつぶりだろう……。