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夕陽から飛び出して来い   作者: 木畑行雲
第三章 麗しき日々!?
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第三章

 晶が高校に入学してから、父親と犬の散歩をすることはほとんどなかった。祖母は時々運動のためと言って付いてきたり一人で犬の散歩に行ってくれたが、毎日の散歩は晶と華子がほとんどを担当している。

 平日は一日一回三十分から一時間ぐらいの散歩なのだが、それでも学生の二人にとっては大変なことだった。

  

 春の匂いがしだした冬の土曜日、天春家は買い物の帰りにいつもの蕎麦屋へ寄った。昼食を取りながら理太郎(父)は機嫌良く、家に帰ったら皆で犬の散歩に行こうと言い出した。

 最近は買い物だって一緒にいるのが恥ずかしいから、晶はいつも華子かウメの横にいるのにどうしたものかと黙っていた。

 ウメは「うんうん」と、了解した様子で聞いている。華子は、少し迷ってから「いいよ」と言った。ただ、夜は友達とドライブをするからあまり長くは行けないと言う。すると、理太郎はすかさず「友達って?」と、どこの誰なのかを確かめようとする。

 

 帰宅して買い物袋の中身を冷蔵庫に移すと、早速皆で近所の川沿いの道へ出かけた。

 先頭を行く理太郎は「ほら、もう梅が咲いているな」とか、目についた春の訪れを皆に知らせる。晶はちょっと面倒臭いと思ったけど、「うん」とひとつひとつに頷いた。

 

 歩いていると、川横の緑道にふきのとうを見つけて、犬と小鬼と理太郎はじっと見つめた。

 ウメは持って帰って天ぷらにしようと言い、理太郎は最低でも家族の分は取りたいとそこらを探し始めた。そして犬に「これを見つけろ」と鼻先に当てて言うが、犬は自分の興味のある所を嗅いだり舐めたりしている。

「わたしの分はいいよ」と、華子は言ったが理太郎は身を屈めたまま地面から目を離さない。

「あっ、ほら、あったあった」

 脇にある小さな斜面に、ふきのとうがいくつも顔を出しているのを見つけると、理太郎は軽やかに飛び込んで行った。

 両手一杯に摘んできた理太郎の瞳には隠しきれない喜びが表れていて、本当は自慢したいぐらい嬉しいのだと晶と華子は察した。

「お父さん、すごいね。春祭りじゃん」と、華子は言った。

 すると、理太郎は大きな声で「大量だろ」と言って満面の笑みを浮かべた。



 

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