第三章
並木道の横にはちょっとした草原があって、小鬼は犬を走らせたり匂いを嗅がせている。
たまに風の通る音がして、草木が揺れた。
ぽかぽかの日和の中で、無邪気な者たちが駆け回るのを見ていると、晶の胸には平和が広がった。
彼らがいつまでも心行くままに過ごせたら、そんな夢のような理想を思い描いた。
たまに、ふとした瞬間、人間に飼われる犬の不自由さを思うことがある。だけど、野放しにすることなんて出来ないから、今のままをなんとなく続けている。どんぐりが本当に幸せなのかは、ずっと分からない。
犬を見ていると、草をかじって、頭をふりながら大きなくしゃみをして、駆けてくる。
陽に照らされた毛は温かくて柔らかい。どんぐりは体育座りをする晶の膝に寄りかかり、舌を出して笑っているような顔をする。
「どんぐりはこうして過ごすのが好きだね。――同じだよ」
晶はそんな風に見つめて、犬のキツネ色の毛に両手を埋めた。
小鬼は梅の木に腰掛け空を眺めていた。木の上は風が心地良いのだそうだ。それと、そろそろ星が出てくるから始まりを見てみたいのだと云う。
晶は週末の家事はなるべく担おうと思っていたからそろそろ帰りたかったのだが、小鬼の見る地球や時間を大事にしたかった。
しばらく、風の行くまま過ごしていると、夕陽が輝き始めた。月も薄らと見える。夕空に星が集まり、小鬼は天体を見渡した。
晶は、太陽と月と星が見える事しか知らないから、小鬼が楽しそうにあれこれと語っていても、「うんそうか」としか言えなかった。
ただ、夕方に一番輝いてる星はだいたい金星だという事だけは覚えた。小鬼が教えてくれたのだ。
お喋りしながら帰路につくと、西の空は暮れて金色の帳だけを後に残している。小鬼も同じ色に輝いて、
「こんなに綺麗な空見たことないよ」と、呟いた。