第三章
買い物が終わり馴染みの蕎麦屋瀧乃家へ入ると、晶以外の家族は、いつものにするらしかった。
晶は、山狸うどんにするかカレーライスにするかで迷った。この店のつゆと天かすの相性を思い浮かべると、天下一なのだ。しかし、この店の和風の入ったカレーライス、まろやかなルウは宇宙一だ。どちらも、この店に来たら絶対食べたい品なのだ。
晶はじっと考え、家族は水を飲んだりテレビに目をやった。テレビの中ではニュースが終わり、拍手と共に演奏が流れ始めた。
水前寺清子が歌うと、蕎麦屋の客の多くがテレビに気を取られた。
晶も思わずテレビを見上げていると、視線を感じ、前に目をやると華子と目が合った。
微動だにせずこちらを見つめている。
「早くしなよ」と、能面みたいな顔の華子が言うと、小鬼も真似して「早くしなよ」と言う。
晶は思わず吹き出し、華子と小鬼は笑った。
カレーライスが運ばれると、晶は黄色いルウを見つめた。そして一口食べると、大きな鼻息を漏らした。
その様子を見ていた小鬼は、さっそくカレーライスを一口食べてみた。そして、「うまい!」と歓喜して、次から次へと口へ運んだ。
カレーライスは小鬼がすくう度、消えては元に戻った。晶はこれなら安心だと、小鬼と一緒にパクパク食べた。
「おいしいね」と、晶が言うと、小鬼も「おいしいね」と、言った。
家族は自分に対して言っていると思って、それぞれが返事をし、晶は慌てて会話を続けた。
小鬼は他の食べ物も気になるらしく、華子の山狸うどん(山菜とタヌキ、天春家の要望でメニュー化されたもの)と理太郎(父)の天ざる蕎麦も一口づつ頂いていた。どちらも気に入ったようで、目を輝かせている。しかし、なぜかうめ(祖母)のとろろそばには手をつけなかった。