第一話 転機
初投稿です!お手柔らかに〜。
カツン、カツン、カツン。
頼りなさそうに燃えるランタンの火を揺らしながら、俺は階段を降りる。
今回の依頼は、”王政に反対する亜人集団の撲滅”だ。
正直こんな仕事やりたくないが、俺みたいな無所属の勇者は面倒事も引き受けないと生きていけない。
だから、わざわざこんな辺境の地下ダンジョンに来ている、ってわけ。
なんで無所属なんだ、って?それは、コミュ力が欠如しているからさ。
こっちから声をかけることもなければ、向こうから話しかけてくることもない。
話せるのは契約のことばかりで、雑談なんてもってのほか。
このまま名もなく死んでゆくのかな、俺...
そんなことを考えているうちに、最下層へ着いた。
「生活のためなんだ。すまないが、死んでくれ。」
そう言いながら、俺は鞘から直剣を抜く。
一匹を斬りつけると、亜人全員の目が赤黒く光り、一斉にこっちを睨みつける。
下っ端には構っている暇はないのだが、数が多すぎる。
飛びかかってくる亜人どもを一匹一匹丁寧に斬る。
「よっ、ほっ、はっ、それ、」
飛びかかってくるのは、自分を斬ってくれ、と言っているようなものだ。
手数を減らしたいので、なるべく一撃で致命傷を追わせることが重要だ。
「ふぅ、ふぅ...」
流石に100匹も斬れば息は切れる。すると、奥から一際体格の大きい個体が出てきた。
身長はおおよそ2メートル、首は木の幹のように太い。
しかし、なんら対処方法は変わらない。
亜人は基本的な体の作りは人間と同じだ。だから弱点だらけだ。
そいつは石斧を闇雲に振り回す。けれど、軌道がワンパターンなので、弾くことは容易だ。
ガチィィィィン!!
火花が舞う。そして石斧は奴の手をすり抜け、はるか後方に飛んで行った。
そして勢いよく首めがけて剣を薙ぎ払った。だが、首が太すぎて途中で止まってしまった。
想定の範疇だ。直剣では一撃で首を切断できないことが多い。
俺は左手でぶら下がり、剣身に全体重をかけて横から蹴った。刃はすーっと通り、ついに切断した。
そうして、岩のように大きな頭はゆっくりと地面に落ちた。
「あー、終わった終わった。もっと歯応えのある任務入ってないかなぁ。」
「なるほど、もしかして君がそうなのか。」
振り返ると、小柄な体とは対照的に大きな大剣を担いだ少女が立っていた。
「誰だ?お前は。」
「僕?僕はターシャ・ブラウン。ジョブは戦士。ターシャって呼んでね。君は?」
随分と馴れ馴れしいな。なんのつもりだかは知らないけど、
「俺はノア・エイベル。無所属の勇者だ。」
無所属の勇者。大抵がこのワードを口にすればそそくさとどこかへ行く。
「おっけー!ノア・エイベル君発見!」
なんなんだ、一体。誰が無所属の勇者なんかに用があるというんだ。
「で、なんの用だ?依頼か?」
「ぶっぶー、違いまs」
「じゃあさっさとどこかに行ってくれ」
「ああん、もー、冗談の一つくらい聞いてくれたっていいじゃんか。」
ターシャ、そう名乗った女の子が頬を膨らませる。このままにしておくのも面倒だな。
「はいはい、で、改めて聞くが何の用だ?」
「ノア君には今日から、僕たちのパーティに入ってもらいます!」
「は?」
「だから、僕たちのパーティn」
「それは聞こえてんだよ。なんで俺を?もっといい人材なら他にいるだろ?」
「いいや、さっきの剣捌き、とっさの機転、まさにうちに欲しい人材だね。」
「いやいや、あれくらいできないと生きていけないだろ。」
無所属の勇者は、難しい依頼をどれだけ早くこなせるか、にかかっている。
だから、あのくらいスムーズに行かないとこの仕事ではやっていけないはずだ。
「やれやれ、ノアは本当に世間知らずだね。あの剣捌きは、有段者のそれだよ?」
もう名前が呼び捨てになってやがる。距離感バグってんのか。
「仮にそうだったとしても、なんで俺なんだ?」
さっきから不測の事態が連続して、気が動転している。
「リーダーから直々に指名をもらってるからな...」
「はあ?リーダーって誰だよ。それにお前ら、何者なんd」
「さあ、細かい理屈はあと!とにかくいくよ!」
「わっ、ちょっ、やめ、」
とてつもない力で引っ張られる。なんとなく予想はしていたが、ここまでとは。
行きにゆっくり降りた階段を、帰りはとんでもない速さで引きづられていく。
道中で気を失ったみたいで、途中の記憶がない。
見慣れた天井が目に入る。いつものギルドセンターにいるみたいだ。
「お、ノア、目が覚めたみたいだね。紹介するよ。」
「まだ俺パーティに入るなんて言ってない」
「(無視)左から、ケントと、ニコラだよ。」
「ケント・シーガーと言います。よろしくお願いします。ジョブは魔術師です。」
彼は優しく微笑みかける。ようやくまともそうな人間に会えた。
...ていうか、まだ入りたいだなんて言ってない。認識に差がありそうだな。
「ニコラ・ネイピア。ジョブは聖職者。」
なんだか、近寄りがたいオーラが出てるな...だから、入りたいだなんて言ってないし。
「ていうか、ターシャ、リーダーとか言ってたやつはどこにいるんだ?」
「お、ノア、いいところに気がついたね。そのリーダーは、ここにはいないよ。」
「ん?」
「今は行方が分からなくなっちゃったみたいなんだよね。でも、ノアの名前が日誌にあったからスカウトするつもりだったんだろうね。」
「それは気の毒だが、俺にパーティに入る義理はない。」
「待ってください!」
「...?」
「ならばこうしましょう。依頼です。僕たちのリーダーを一緒に探してください。契約として、その間はパーティに入ってもらいます。...あなたは相当の腕利きと聞きます。これで文句はありませんか?」
よっぽど俺をパーティメンバーに入れたいみたいだな。ただ、報酬によっては悪くない。
「いいぜ。ミッション達成時に即座に300000Esc。それでどうだ?」
「わかった。僕のへそくりから出すよ。」
なんのためらいもなく大金を差し出すのか。少々心外だ。まあ、契約は契約だ。
「OK、契約成立だな。」
いかがでしたか?この小説は毎週土曜日20時更新です。続編をお楽しみに〜
こぼれ話
・登場人物の名前は、一人当たり3分ほどで考えている。
・作中に登場した通貨単位、エスクード(Esc)は実在する。(ポルトガルの通貨)
・30万エスクードは、約43万2360円(2023年10月21日現在)
・登場人物の年齢は、全員15歳。