オレの彼女は幼馴染みを紹介してくる
岡田 湊太26歳。この街の消防士になって4年が経つ。一年前から付き合っている彼女が、2歳年下の古川 結衣。
今はこのコンビニでヘルプバイトに入っている。
本当ならコンビニでバイトしなくてもいいのだが、専門学校卒業後に大手アパレル会社に就職したが、半年で辞め今は実家の洋品洋服店を手伝っている。真面目で頑張り屋の結衣が辞めると決めたのだ、深く聞くまい。
どこのコンビニも人手不足で、このコンビニでもそうらしく馴染みの店長に頼まれて、ヘルプで入っている。
結衣との出会いは、オレがこの街の大学を選び、この街に住んでからだと思う。
確かでないのは、結衣は高校生の時からこのコンビニでアルバイトとしてスタッフの一員で働いていたからで、住み始めたのは8年前だが、この大学と決めるまでに何回か足を運んでいるからだ。
高校の2年と3年はオープンキャンパスで、幾つか回った大学の1つだったし、決めてからも受験や住むとこを決めたりで、この街に足を運んでいる。
その度に大学の周りに沢山あるコンビニに、どれかには寄っているはずで、この時に出会ったとは言い切れないのだ。
結衣を認識したのは、大学二年生20歳の時だと思う。
これも確かなことでなく、コンビニの学生アルバイトは、入れ替わりが激しく顔を覚えるいるのは、悲しいかな、おじさん店長や昼間に働くおはさん。
余程態度の悪い店員や、何かしらゴタゴタのあった店員になる。
印象に無いのなら、反対に無難にこなしている証拠なんだが、特別でもなければ、客は店員の顔なんて見ないし常連ほど顔を合わせない。
まぁこれは、客側からの言い分であって、店員はベテラン程客の顔を覚えているらしい。
結衣の話では、オレは受験の日にコンビニに寄っているらしいのだ。受験で受かればこのコンビニに寄ってくれる客が増えると考えて見てたと。
そんなんでいちいち客の顔を覚えるかと聞いたら、受験生は緊張顔で独特の雰囲気で分かるそうだ。オレは違うが、親と一緒に入ってきてあーだこーだと会話の中身が丸聞こえで、気付かない振りをし続けるのに徹していたそうだ。
やはりオレはたまに来る客の一人であって、常連の枠ではなくて、今日はウチに来てくれたのかが、結衣の印象らしい。
それはお互い様で、愛想の無い子だなと思っていたと後で言えば、いつも笑顔でいられる方が可笑しいと結衣は言うが、辰巳さんとコンビシフトの時は、自然と笑顔だったはず。自覚なかったのか?
そんな結衣とオレを近付けてくれたのは、辰巳さんの存在だ。
辰巳 藍さんは同じ大学で3歳年下、結衣とは1つ違いだが、大学でも超有名な女性なんだが、その容姿より虚弱で伝説を作っている。
別にこの二流大学でなくても一流大学に行けただろうが、長時間の試験に耐えられない。集中し続けると発熱のうえ卒倒となるらしく。
唯々、身体が虚弱で成績が伴いだけだそうだ。そうなると1日で取れるコマは決まってくる。優秀であってもギリギリの単位しか取れない、本人は謙虚に受け入れているそうだが、ゼミの教授やその他の教員達も残念がっている存在。それが、辰巳 藍だ。
その大学でも有名な辰巳さんが、何故!この狭苦しい商品が並ぶコンビニのレジに居るんだ!
店内に入って来る人老若男女聞き慣れないきれいな声に
「いらっしゃいませ、こんにちは」
レジを見る。もう一度見る。再度見る。
手前は何時ものおじさん店長が、忙しそうにレジ対応しているが、その奥に女性が二人立っている。
二人並べば悪いが目がいくのは、辰巳さんだ。同じ制服を着ているのになんだ!この差は?
身長も結衣とたいして変わらないが、姿勢が良いんだ。仕草が綺麗なんだ、どうしても目がいく。
結衣が説明しながらサポートレジしている。恥ずかしそうにしながら商品を袋に入れ、上気して赤い顔でお礼を言われた客が、惚けたまま店を出る。
おじさん店長が
「お待ちなら、どうぞー」
と、毎回声を掛けて誘導しているが、急いでいるからコンビニで買い物だろ?長い列に並ばなくても?
列の長さが目立つようになると、一旦結衣が客を裁く。ザクザクと。
………あっ、この子大変だな辰巳さんの相手しながらレジなんて……
と、その時はそんな風に思いながら、おじさん店長のレジに行った。
何度か結衣と辰巳さんの、コンビシフトに鉢合わせるが二人の手際が良い。辰巳さんの影響か?結衣も愛嬌良くしないと、レジが一方的になるからだ。
横目であれだけ客を裁きながら、辰巳さんを見ている。手強そうな客に対してさりげなくチェンジレジに入る。何かバレーボールの攻撃にそんなのがあったが、面白れー辰巳さん目当てに並んだ客を、笑顔で相手してやがる。
これって、辰巳さんを守りながら仕事してんだ。
………意外だな?初めての二人と言うより、結衣は辰巳さんに対して良い感情を持ってるように見えなかった。上手く隠して相手してるように見えたんだかな……
後で結衣に聞いてみたら、確かに辰巳さんをよく知らないで、周りの噂を信じてた部分はあったと、打ち明けてくれたが、仕事を一緒にするうちに、噂が全然違うことに気がついて改めたそうだ。
それからは、辰巳さんとブライベートなことも話す仲になった。
コンビニの仕事上では結衣もだが、辰巳さんもお客を良く見てる。結衣の指導か?
この二人凄いなと、素直な感想が出る。
なんせ辰巳さん見たさの客も二人の息のあった仕事振りに、一層客足が伸びる。
けしておじさん店長と息が合ってないと言うわけでないが、なんか違う?
ある日、サークル終わりに、普段より遅めな時間にコンビニに入った。
「いらっしゃいませ、こんばんはー」
……えっ?なんで辰巳さん居るの?この時間居たことないよな?………俺が知らないだけか?
何時もの笑顔で対応しているが、普段この時間帯の客が騒いでいる。やっぱりこの時間帯には、入ってないんだ。
コンビニにはある程度客層の時間帯が、決まっている。朝、昼、夜に深夜と、曜日固定客と、ルーティンみたいなもので、一年通して平均数値が出せるのだ。そうじゃないと、チェーン店として成り立つわけがない。
で、この時間帯は、学生支流の時間でなくて社会人枠になるのだろう。結衣でも裁き切れない、騒がしくなっている。
………これって、ヤバくないか?
と、思っていたら何時ものおじさん店長と準夜担当のおじさんが、慌てて代わった。
何やら事情が有ってのことみたいだが、控えに入る辰巳さんの顔が見えた。チラリとしか見えなかったが、顔色が悪かった。
俺はレジを済ませコンビニを出たものの、気になり裏手に回ってみれば、結衣が辰巳さんにお水を飲ませている。完全に顔色が悪い。思わず声を掛けた、
「君、大丈夫なのか?」
と、二人で俺の方に振り向くと、結衣が辰巳さんを庇うように前に出る。
………いやいや、下心なんてないよ。めちゃ体調悪そうなのに……
と、思っていたら、
「結衣さん、この人は大丈夫です」
と、辰巳さんが言う。
「岡田さんですよね。以前も私が大学で体調悪くしていた時助けて頂きましたね」
と、言うが、俺は名乗ってない?が?
「あぁ、一回そんなことも有ったな、それより大丈夫じゃないだろ。酷い顔色だぞ、いつもの取り巻きを呼ばないのか?」
と、俺が言えば、
「取り巻きじゃない!《ガーディアン》だ」
と、結衣がムキになって言う。
「結衣さん、取り巻きと呼ばれることは珍しくないですから」
と、辰巳さんが言う。
「藍ちゃん、湊達がそんな風に呼ばれて悔しくないの?私は、嫌だ!何も知らない癖に好き勝手に」
と、怒りだした。
「すまん。気に障ること俺が言ったんだな悪かった。《ガーディアン》って庇護者、保護者って意味だよな。俺が知ってる顔でも五人位大学で見かけたが、連絡するか?それとも送ればいいか?」
「何であんたが!」
「結衣さん、本当に岡田さんは大丈夫です」
と、辰巳さんが言う。
「藍ちゃん、本当に?」
「本当に」
と、何で辰巳さんが?俺の肩を持つのか?
………あれ?いつの間にかオレ?好意持たれてた?
「岡田さん、私じゃ無くても同じ様に声を掛けていたと思いますよ」
と、辰巳さんが言うと
「「えっ?」」
と、オレと結衣は声が揃った。
「だって、岡田さんは店内でも会計が終わり出るだけなのに、コピー機で困っているご老人に声を掛けて代わりにコピーしてあげてました。
妊婦さんがもう一人のお子さんに手を焼いているのを見掛けて、子供さんをあやしてました。
小さい男の子が、高い位置にあるカードに手が届かないのを抱っこして取らせてあげてました。
杖をついたおばあさんに、出入口のドアを開けて待っててあげてました。本当に優しい人なんです。結衣さんと同じです」
「「えーーーーーー」」
と、二人で驚く。
「結衣さんと同じ優しさを持った人なんで、大丈夫です」
と、ニッコリ笑うが、とっても顔色が悪いぞ。
「今は褒めて貰って嬉しいが、それどころじゃないだろ。何処に送ればいい?」
と、辰巳さんに聞けば、背の高いおじさんが走ってこっちに向かってくる。
………お腹すごく揺れてるな……
「藍ちゃん、藍ちゃーーん」
「「順一先生?」」
と、辰巳さんと結衣が言う。
「結衣さん、順一先生を知ってるの?」
と、辰巳さんがびっくりして聞いている。
「まぁね、私この前《スペア隊》に、入ったの」
と、結衣がばれたかと、気まずそうに答える。
「藍ちゃん、大丈夫かい?」
と、順一先生とやらが、こちら側に着いた。
「えっと、《スペア隊》の古川さんって?」
と、順一先生とやらが、俺と結衣を見る。
「はい」
と、結衣が返事をして、
「古川さん、連絡ありがとう。僕が一番近くにいたから迎えに来たよ。このまま医院に連れていくし、その後のことは、連絡をしといたからね」
と、言って結衣をまじまじと見る。結衣が決まり悪そうに目を伏せていたら、
「古川さんって、古川洋服店の?」
と、聞いてくる。
「あっ、はい」
と、結衣が返事をして、
「じゃぁ!結衣ちゃんか!」
と、結衣に向きを変える。
「順一先生、覚えてくれてたの?」
「当たり前じゃないか、湊と同級生で小中と仲良かったし、幼馴染みでもあるだろう」
と、言い
「結衣ちゃん、《スペア隊》に入ってくれてたの?知らなかったよ。湊も一言言ってくれればいいのにな」
と、言えば結衣が慌てて、
「湊は知らないと思います。入ったの最近なんで」
と、結衣が言い張ってるが、辰巳さんがアワアワしている。
「えーーー、結衣さんって、湊の同級生で幼馴染みなの?なんで!私、知らなかったんだろ?なんで?」
と、辰巳さんが狼狽える。
「いや、藍ちゃんが悪いわけじゃないんだ。まぁね悪いのは湊だし、周りもちょっと過剰というか、やり過ぎというか、藍ちゃんは悪くない」
と、順一先生とやらが苦笑する。
「ごめん、藍ちゃんは、悪くないよ。私も今なら湊達の過剰さも分かるけど、当時は知らなかったし」
と、結衣が説明する。
「兎に角、二人ともありがとう藍ちゃんは、僕が連れていくよ。結衣ちゃんは帰るなら送るよ」
と、聞けば、
「私は、まだ上がりではないので」
と、言い。オレにも聞いてくる。
「君は?」
………いやいや、オレは無関係でしょ……
「辰巳さんが、大丈夫ならいいです」
と、お断りした。
結衣とは、それが縁でちょくちょく話す機会も増えたが、当時の俺は彼女がいたし、まだ、結衣と付き合うなんて思ってもいなかった。
4年後、古川 結衣と付き合っている。勿論結婚前提としてお互いの両親にも合わせている。今は別々に生活しているが、近々一緒に暮らすつもりで物件を漁っているし、今日は、結衣に頼まれて引き受けた手前、この屋敷の前で固まっている。
表札には、辰巳とだけあるが、辰巳 藍に会いに来たのだが、結衣が頼まれていた和装肌着と足袋。商店街の呉服屋さんが後取りがなく、廃業された。馴染みのお客さんは、古川洋品?洋品でいいのか?古川洋品店で扱うことになったそうだ。
辰巳さんは、丘の上にある白彦神社で巫女として働くことになったらしく。毎日着る分として買い足したいと相談されたそうだ。足袋はあったそうだが、肌着が切れていて一緒に持って行こうとしたが、ギリギリの日にちなって、今日に至る。
結衣は自分で持って行きたがったが、前から結衣のおばあさんの手術日が決まっていて、抜けられず俺にお鉢が回って来たわけだが、この街で消防士として4年働いているが、地元民でもない俺で大丈夫か?
と、思いながらインターホーンを押す。
結衣と一緒に会ったりする時の声が、インターホーン越しから聞こえた。
「岡田です。結衣から頼まれたもの届けに来たよ」
「岡田さん?直ぐ出る。待ってて」
玄関ドアを開けて、慌てて出てくる辰巳さん。
「岡田さんが、何で?結衣さんからは、今日届けると連絡あったけど」
と、辰巳さんは不思議がる。成る程結衣はわざとオレが届けると伝えなかったのか。
「今日は、結衣のお祖母さんが手術の日で、居ないんだ。オレで悪いけど頼まれた」
と、紙袋に入った荷物を渡す。
「結衣さんのお祖母さん?古川洋服店の?」
と、聞いてくる。
「うん、香山先生が紹介状を書いてくれたらしくてさ。大学病院で今してるとこかな」
と、答えた。
「香山医院の湊くんが、大学病院を紹介してくれて、順一先生の友人のドクターが執刀してくれるんだ」
と、報告にすれば、
「岡田さん、湊を知ってるの?」
「あぁ、結衣に会わされた。湊くんのお兄さんにも会ったよ」
と、報告すれば、
「樹兄とも会ったんだ。最近忙しくて私は、会えてないけど」
と、言っているが、
「実は、湊くんも樹さんも顔は知ってたよ。辰巳さんを迎えによく大学に来てたし」
と、名前は知らなかったが顔は知っていた事実を、ばらす。
「香山先生も、救急でお世話になっているから、ちょくちょく話すこと有るんだ」
と、言ったら
「岡田さんが近くに居てくれるのは、嬉しいです」
と、辰巳さんが言う。
「それより、結衣が心配してたよ。湊くんや樹さん達が、最近の辰巳さんのこと知らないじゃないかと、一緒に話してた時にそう感じたみたいだ」
と、伝えたが、これは俺が感じたことを結衣に聞いたことだ。
渡した紙袋には、頼まれた和装肌着と足袋。
それに沢山のキャンディに結衣がたまに服用している、市販の痛み止めが入っている。
その訳を何故?誰も知らないのかと
今、恋人の結衣に会いにコンビニ前に着いた。
結衣の仕事上がりに、辰巳さんと落ち合う予定だ。 結衣の幼馴染みである、湊くんのお祝いと先日のお礼を兼ねた物を明日買うための相談と報告を。