大人になった頃の手術道具
手術台に近づいたバーホンに異変が起こります。
ブワリと強い風に襲われたかと思うと、彼の服装が一変しました。
袖の長い真っ白いコートです。ツルツルした布地を一目見てし、バーホンはその見事な作りに感服しました。
さらに手にはとても薄い手袋がされています。
「まずはぐっすりとおやすみ」
パリカールに、バーホンは睡魔の魔法をかけました。
「ドリムル(睡眠魔法)」
グリフォンであるパリカールに睡魔の魔法がきくかどうかバーホンには不安でした。
ですが、呪いによって弱っているグリフォンにはとてもよく効きました。
バーホンはレントゲンをじっと見つめました。
太ももと膝の近くに呪いのかけらがほんのりと写っています。まるで小石のような形をした影です。
「二人のいた世界には、同じように呪いのかけらで苦しむ者がいたのだろうか」
バーホンは自分に問いかけるように呟いて、メスを手に取りました。
こんな小さな刃物を使いこなせるのだろうかと不安に思いながら。
「おじちゃん頑張って」
「あぁ、頑張るよヒナ。不思議と手に取ると使い方まで分かるのがすごいなこれ」
まずは足の毛を少しだけ剃ります。T字カミソリはジョリジョリとうなります。
次はメス。
小さなメスをバーホンが振ると、驚くほど綺麗にグリフォンの足が切れました。
切ったのは必要な部分だけ。
皮膚から少しだけ血が出ます。
だけれど、それは助手ロボットが不思議な腕で吸い取りました。
「驚くしかないな」
バーホンは微笑みます。
刃物はとても使い勝手が良い。小さく足を切るためだけに作られたもののようだ、と。
使い勝手の良い道具、レンナとヒナの声援、それらがバーホンに力を与えます。
それからおしゃべりな助手ロボットも。
「ピポパ。助手ロボットはお医者さんを助けるロボットなんだ。皆が大きくなった時には、どんな病院でも僕がいるよ……はい。セントウ!」
ロボットは余計な事を言いますが、的確にバーホンを助けました。
丁寧に、最小限に、根気よくバーホンは作業を続けます。
「あと、少し……」
随分と時間をかけて、バーホンはようやく呪いのかけらを見つけました。
ピンセットを慎重に操ります。薄紫色にほんのり光る金属片を、パリカールの脚から取り出します。
そのかけらを金属トレイに載せるとカランと音がしました。
なんてことのない音ですが、バーホンにはとても心地のよい鈴の音色に聞こえました。
「呪いがなければ回復魔法も効くだろう」
その見込みは正しくて、バーホンは手術で切ったメスの傷も含めて、瞬く間にグリフォンを治療します。
「フハハッ。あっという間に良くなった。二人とも、パリカールは助かったぞ!」
振り返ってレンナとヒナを見ると、彼女たちは座ったまま眠りこけていました。
お互いに肩を寄せ合ってグッと両手を繋いで祈るような姿で眠っていました。
そしてまるで二人を照らすように、朝日は静かに昇っていくのでした。
以上でひとくぎりです。次回からは新展開。
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