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ペットボトル

「ヒナがね、喉が渇いたって」


 女の子の一人が、バーホンへ不思議な筒を手渡しながら言いました。


「ヒナっていうのは、この子のことかい?」


 バーホンはぐったりしている女の子を抱え上げながら返します。


「うん。背中が痛くて、喉が渇いたって」

「そっか、ちょっと背中を……」


 襟を引いて、背中が痛いという女の子をみてバーホンは絶句しました。ヒナという名の女の子の背中はひどくただれて膿んでいたのです。


「とりあえず森へ入ろう。こりゃ、すぐに治療しないと」


 あわてて街道から森へと入り、バーホンは手当することにしました。

 そっとヒナを寝かせて、彼女へ手の平をかざします。


「初級回復魔法【リジェイロ】」


 かつてバーホンは騎士として戦っていました。軍を率いる前は、前線で戦っていたのです。

 だから一通りの魔法は使えます。

 バーホンは今ほど魔法が使えて良かったと思ったことはありませんでした。


「痛くない」


 パチッと目をあけたヒナが言いました。魔法により怪我が治ったのです。


「おっとまだ全快じゃないからな。無茶するなよ」


 笑みを浮かべたヒナに対し、バーホンも微笑み返します。彼の見立てではまだまだ治療を続けなくてはなりません。


「私も!」


 もう一人の女の子がバーホンをペチペチと叩きながら訴えます。

 よく見ると、彼女もまた肩から右腕にかけて焼けただれ、青黒く変色していました。


「よく我慢していたな」

「レンナはお姉ちゃんだから、泣いたらヒナも泣くでしょ!」

「そっか、立派すぎて、おじちゃん泣きそうだよ」

「我慢しなさい」


 胸を張ったレンナと名乗る女の子に、バーホンは涙目のまま頷きました。

 大人でも悲鳴を上げるほどの怪我でも、泣かなかった女の子に敬意しかありませんでした。


「ぺとぼとる」


 落ち着いたとき、ヒナが不思議な筒をグッとさしだしました。


「みたこともない容器だ」


 そうつぶやきながらバーホンが受け取った瞬間、彼は不思議な感覚に襲われました。

 聞いた事もない知識がパッと頭に浮かんだのです。


 まるで前から知っている知識のように。

 その知識によると、手に持っているのはペットボトルという品物でした。


「これはどうしたんだ?」

「ずかんさんに、おねがいした」


 ヒナが答えました。

 続いてレンナが白い図鑑をバッと地面において開きます。

 慣れた手つきでパラパラとめくると、 ピタリとその手をとめました。


「これ」


 レンナとヒナが声を揃えて一つのものを指差しました。

 そこには塗りつぶされた絵がありました。


「黒くなってる」


 真っ黒く塗りつぶされた何かに向かってレンナは親指をぐっと押し付けます。


「黒いの取れない……」


 それから泣きそうな声で言いました。


「これと同じ形をしているな」


 バーホンはペットボトルを眺めつつ言いました。 そして彼は何気なくペットボトルをその黒い部分へと近づけます。


 すると音もなく持っていたペットボトルは消え去ります。

 代わりに、黒く塗りつぶされていた場所にペットボトルの絵が浮き上がりました。


「元に戻った!」

「レンナが言った通りだな。確かに俺の手からペットボトルが消えて、図鑑に描きあがったな」


 3人は図鑑を覗き込みながら感想を言いました。


「これは魔本か」

「まほん?」

「魔法の力を持った本だよ。これはまるで宝物庫の本のようだ」

「宝物庫の本?」

「ほもつこ!」

「本の中にいろいろな品物をしまっておけるのさ……って……」

「おじちゃんどうしたの?」

「馬車もこの本から出したのかい?」

「もちろん!」

「おじちゃんが馬車って言ってたから」


 レンナとヒナを見てバーホンは考えます。

 あの見事な馬車もこの図鑑から取り出したのだとしたら、これは一般的な魔法の道具ではない。


 生き物を閉じ込める牢獄の本というものはあるが、入れたままでは弱ってしまう。

 それに牢獄の本は、生き物でない物を収められない。


 逆に宝物庫の本は生き物を収められない。


「馬車を丸ごと収める魔本は存在しない」


 バーホンが考え事をしていると、レンナが「出ない」と言いました。

 ふと見ると、図鑑は馬車の載ったページを開いています。


「出なくなっちゃったか」

「ぺとぼとるは出る」


 パラパラとページをめくったヒナが、サッとペットボトルを取り出しました。

 それから「んしょんしょ」と必死になって蓋を開けると、中の水をゴクゴクと飲みました。


「そういえば、喉が渇いてたんだったな」

「次はご飯」


 レンナが食べ物の書いてあるページを開いてパンの絵をグッと親指で押します。

 ところが何も起こりません。


 しかも……。


「ぺとぼとるが、もどらない」


 一回出したペットボトルも、図鑑に戻りません。


「駄目になった?」


 困った様子でレンナがバーホンに言います。


「わからないな。だけど、きっと法則があるのだろう。これほどの魔本がすぐに使えなくなるとは思えん」


 ポンポンとレンナの頭を撫でてバーホンが言いました。

 彼はさらに続けます。


「それにご飯なら任せろ。おじちゃんは食料調達が得意なんだ」


 一生懸命に怖くない笑顔を作ったつもりのバーホンでしたが……。

 レンナとヒナは少しだけ後ずさりしました。

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