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元将軍は裏切ることにした

「何のつもりだ?」


 結界越しに剣を向けられたゲゲイロが声を張り上げました。


「頼まれたんだ」

「は?」

「この子に助けてと頼まれたんだ。召喚の儀式は中止だ。結界を解け。この子達は怪我をしている。手当てをせねばならぬ」


「血迷ったか、バーホン! それは人ではない。召喚獣の偽りの姿だ」

「俺には怪我をした子供達にしか見えない」

「頭がおかしいのか。いや元からおかしかったか? さらに狂ったかバァーホン! それが真の姿であっても死にかけの子供だ! 触媒がもったいない。さっさと殺せ!」

「断る」


 しばらく沈黙がありました。


「もういい。後始末が面倒だがまとめて殺すしかない。どうせ死にかけのお前と付き合うのも嫌になっていたところだ」


 ゲゲイロが、パンパンと手を叩きました。

 すると天井の一部がパカリと音を立てて開きました。

 そして開いた天井の奥底から、 黒い煙が落ちてきます。


「濃度の高い瘴気! 俺もろとも殺すつもりか、ゲゲイロ」

「そうだとも。お前が失敗した時の備えというやつだ。ヒャハハハハ」

「なめられたものだ」


 バーホンはめんどくさそうに言うと、片手で大剣をブンと振りました。


 その剣は青く輝く魔法の炎に包まれていました。

 軽く振られたその剣は、三日月型の衝撃派を放ちます。

 それは、易々と結界を切り裂きました。


 それだけではなく、結界の向こうにあるカーテンを切り裂き、その奥にある窓を吹き飛ばしました。


 開け放たれた窓からサッと光が差し込みます。

 光はゲゲイロを睨みつけるバーホンを照らしました。

 どこか威厳を感じさせるその凛々しい立ち姿を。


「結界が壊れた?」


 床にへたり込んだゲゲイロが、ひねり出すように声をあげました。

 バーホンは静かに剣先をゲゲイロへと向けて言いました。


「俺の名前を言ってみろ」と。


「バ、バーホン……いや将軍バーホン、いや北面将軍バーホン様」


 剣先を突きつけられたゲゲイロはまるで命乞いのように叫びました。

 北面将軍というのはかつてのバーホンの役職でした。


 彼は息子を失い絶望の淵に立たされるまでは、国の守り手として、国の内外に名声を轟かす将軍でした。


 その武力は国を超えて人々が知るところで、その高潔さは皆が認めるところでした。


「そのとおりだ。俺は自らの武力により国を守り、人を守った。この程度の結界を破り、子供二人を守ることは造作無い」

「何を! わぁたくしめは、偉大なりし国王よりお役目を仰せつかっているのです。あなたが将軍であったのは過去の話。今となっては偏屈な廃人ではないか!」


 ズリズリと後ずさりして、出入り口までゲゲイロは移動すると、彼は扉を小さく開けて叫びました。


「バーホンが裏切った!」と。


 それからゲゲイロは扉をすり抜け「裏切り者だ!」と叫びながら逃げていきました。


「この子達を守りながらは難しいか」


 バーホンは扉を一瞥してから言いました。

 それから大剣を床にそっと置くと、二人の女の子へと近づきました。


「おじちゃん?」

「とりあえずここから逃げることにしよう」


 バーホンは努めて笑顔になって女の子たちに語りかけます。

 一人は無言で小さく頷いて、もう一人の女の子は「うん」と頷きました。


 女の子達が自分を怖がっていないことに満足して、バーホンは二人をまとめて抱えあげました。


 彼の大きな腕は、片手で容易く二人を抱えることができました。


 女の子は大きな本を持っていました。

 二人の女の子を抱え上げた拍子、大きな本は女の子の胸元から滑り落ちてドスンと音を立てました。


「その本は宝物かい」


 抱え上げられた女の子が、図鑑に向けて必死に手を伸ばすのを見て、バーホンは問いかけます。


「うん」


 その本は、とても大きく立派な装丁がされているものでした。

 綺麗で白い表紙には、小さく微細で見事な絵が沢山描かれています。


「こどもずかん」


 女の子の一人がそう答えました。


「なるほど」


 バーホンはもう一方の手で図鑑を手に取りました。


「私の! 私たちの!」

「 大丈夫。おじさんは代わり持ってあげてるだけだよ」


 笑顔で答えながら、バーホンはこれからのことを考えます。


 ゲゲイロの命令によってここには兵士が押し寄せる。

 悔しいが、将軍の任を解かれたこの自分では この子達の立場を盾に守ることはできない。


 そうこうしていると、扉の向こうが騒がしくなりました。

 ガチャガチャと鎧の打ち合う音がします。沢山の人の足音も聞こえてきます。


「逃げるしかないか。ちょうど窓も壊れている」

「窓を壊したのはおじちゃんだよ」

「ははは。違いない」


 女の子のちょっとしたツッコミを笑顔で受け流し、バーホンは開かれた窓へと歩いていきます。

 右手には二人の女の子を抱え上げ、左手に本を掴んだまま。


「これから、ピョンと飛び降りるから。ちょっとだけ我慢しろよ」


 そう宣言してバーホンは窓から飛び降りました。


 召喚魔法に使っていた部屋は王城の3階にありました。

 地上までの距離はけっこうなものです。


 ビュオオオという風の音がしました。

 びっくりした女の子の一人がバーホンの首にしがみつきます。

 首に回された小さい手の感触が、バーホンに失った子供のことを思い出させました。


「守ってみせるさ」


 バーホンは失った息子ウィルに誓いました。

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