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境界の魔術師と世界侵略  作者: hinanoko
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饗宴の夜-2

 結論から告げる。

 大規模魔術儀式の勝者は1人、生き残りは2人だ。

 支配者と観測者以外は全員が死に、世界は元の座標に戻った。

 しかし、星は支配者と観測者のどちらを星の手足として支配者に任命するか判断できず、自動的に再び儀式が行われることとなった。

 だが、その話に進む前に、儀式の終幕を語らなければならない。


 ◇


「随分色々やってくれたわね」


 街の境界で赤坂マボと金剛沙羅、そして西條律が相対した。


 あと2つほど術式を破壊すれば赤坂マボのゾンビ化の魔術は破綻しただろう。だが、その前に両者は相見えることとなった。

 赤坂マボの思惑通りに。


「雷帝の巫女に対するおもてなしのためよ?」

「なら、センスないわね!!」


 問答無用で沙羅がマボに襲いかかる。

 金の杭が空を裂き、間を消し飛ばすが、その先端は肉塊に阻まれ、魔女まで到達しない。

 それも考慮済みか、沙羅は自身の拳に雷鳴を乗せて杭を殴りつけ、無理矢理肉の壁を突き破る。


 だが、その先に魔女はおらず、逆に沙羅が変形した肉塊に足を固定され、動きが制限される。そして、その上空には人を圧死させるのには過度な重量の肉塊が浮かんでおり、沙羅を容赦なく押しつぶしにかかる。


 この間、俺は声1つ出せずにいた。

 魔弾もナイフも付け入る余地はなく、ただ動かないことだけが命を繋いでいた。


 沙羅に襲いかかった巨大な肉塊は雷に打たれ、弾き飛び、焼け焦げた。雷で血が蒸発し、水蒸気が辺りを覆う。


 完全に視界から魔女の姿が消えた。


「中々戦い慣れているようね」


 声が反響し、位置が分からない。


「けれど、才能に頼りすぎじゃないかしら?」


 突如、体が宙に浮く感覚に襲われる。

 辺りを覆っていた水蒸気が雲のように浮かび上がる。


 地面が崩落した。

 足場が崩れ浮遊感に襲われ、下から吹き上げた空気で水蒸気が上に吹き飛んだ。

 おそらく地面の下に肉塊が既に準備されていたのだろう。崩落の規模は人が走ってどうにかなる域を超えていた。


「小癪ね!!」


 雷鳴が崩落の音をかき消した。紫電一閃とも言うかのように崩落する地面の瓦礫を破壊し、まるで段差を降りたかのように地面に着地した沙羅。その真上に魔女が飛んでいた。


「だから才能に頼りすぎと言ったのよ!」


 着地した地面がうねる。


 前後左右下。


 すべてが、肉塊だった。


 崩落し、それをものともしない傲慢な対処までを考慮した罠だったのだ。

 沙羅は言葉を発する間もなく、肉塊の中に呑まれた。



「沙羅!!」


 戦闘が始まって初めて声を出した。

 宙に浮いている魔女も恐ろしいが、それよりも肉塊に呑まれてしまった、親切な魔術師の安否が気になった。


 だが、その呼び掛けに返答はなかった。



 両手に武器を持つ。


 彼女は敗北した。この地獄を終わらせるには俺が魔女を殺さなければならない。


 魔女からは達成感と疲弊感が湧き出ているように見える。俺の事など眼中になく、悲願を果たしたかのようだ。


 魔弾を連発し、自分自身もその銃弾に追随して距離を詰める。崩落した地面の宙にいる魔女に対してできる攻撃は遠距離の呪弾と飛び上がってナイフで一刺しくらいのものだ。


 しかし、今目の前で繰り広げられている攻防においてそれを行うことがほぼ不可能だというのも理解できた。リスクの方が大きいことも。


「こんなものですか」


 だが、達成感とともに少し悲しみがあるように見えた。


「そんなわけないでしょう!」


 瓦礫の下からまるで元気な声とともに雷鳴が落ちた。

 瓦礫が吹き飛び、その魔術師が天に浮かぶ魔術師を睨む。


「だてに連盟から二つ名をいただいてるわけじゃないのよ!」


 宙に浮かぶ魔術師を立体的に囲むように杭が飛び回る。

 そして、それらが雷をまとい、球体になっていく。


「これで終わりよ!!」

「っ! さすがね……けれど、道連れよ!」


 金剛沙羅の周りに肉塊で作られた拳が現れ、襲い掛かる。


「ネガ・プラーヤ!!」

「サモン・ジラスト!!」


 まばゆい光とともにあたりに轟音が鳴り響いた。

 視界を埋め尽くす光、それが金剛沙羅という魔術師が放った攻撃の規模と苛烈さを表している。

 辺り一帯が焦げた匂いに包まれ、煙が立ち込めている。


 その中で立っているのはただ一人、勝者となった魔術師のみだ。

 相手の魔術師が行ったはずの攻撃の痕跡も、本人の身体の一欠けらも残っていない。


「ふぅ、終わっ」

「さすが金剛沙羅、ただ何も終わってませんけどね」


 赤坂マボがいたさらにその上、さらに天に近い場所に人影があった。

 そしてその人物の声は数少ない味方のものだった。


「竜雲!」

「終わったと思いましたか? そもそも気づいていないかもしれませんが、この魔術儀式は魔術師が最後の一人になるまで終わりません。そして、僕も魔術師ですよ?」

「……何が言いたい」


 不穏な空気が流れる。

 たった今、一番の強敵との戦いが終わったはずだ。


 竜雲は魔術師の才能がないと沙羅は言っていた。

 だからこそ、儀式を終わらせるためだとしても、竜雲がその条件を自ら明かし沙羅の目の前に現れる意味がないのだ。


「終わっていないんですよ戦いは。というかこの状況になった時点で、弟役は捨てていいんだったな。金剛沙羅、ここで死んでもらうぞ」

「なっ!? 竜雲!!」

「最期に名前くらいは教えてあげよう。竜刻醒雲りゅうこくせいうん、金剛家なんかとは比べ物にならない魔術の歴史を持つ魔術師だ。金剛沙羅、諦めて死ね」


 状況が読み込めていないのは俺だけだった。

 すでに沙羅が竜刻醒雲と名乗った魔術師に向ける視線は敵に向けるそれだった。


 そして、先に攻撃を仕掛けたのは沙羅の方だった。


「プラーヤ!」


 二本の杭が竜刻を挟み込み、その間に雷が奔る。


 だが、竜刻は微動だにしなかった。

 それでも雷は竜刻に届く前に黒い靄によって防がれた。


「これだからぬるま湯で生きる魔術師は困る。格上相手に小手調べをできるほどの余裕はないということが分かっていない」

「それはこっちのセリフだ!」


 杭が直接竜刻に襲い掛かる。

 光輝く金属の塊は雷と同じ速度で宙を裂いた。今までいくつものゾンビを消し飛ばしてきた攻撃だ。


「本気を出しても結果は同じだがな」


 しかし、杭は黒い靄にからめとられ朽ち果てた。


「そろそろ死ね」

「竜雲!!」


 一段と大きな雷が竜刻に襲い掛かった。

 熱量が今までより一段と高い。


「呪・闇」


 手のひらサイズの黒い球が雷を迎え撃った。

 半端ない熱量を持つ光がねじ曲がり、黒い球に吸い込まれるように接触し、消え去った。


 沙羅が放つ雷は止まらない。

 竜刻が放った魔術の黒球は手から離れ、ゆっくりと相対する魔術師に向かって降りていく。


 しかし、衝突はなく、ゆっくりと黒級が雷をものともせず落ちていく。


「はぁあ!」

「さらば、姉だったものよ」


 雷の中を進み降りた黒球が身体に触れ、一人の命が消えた。


 その瞬間も派手な音はなく、静かな最期だった。


「最後は君だ、西條律」

「お前は何者なんだ!」


 圧倒的だった沙羅があっけなく死んだ。

 その亡骸は今にも起きそうなほど綺麗だが、もう死んでいるのだ、殺されているのだ、竜刻に。


「それはこっちのセリフだよ西條律。お前の力は魔術師のものじゃなかった。星の使徒よ、どうやってその力を得た? それは僕の力を超えるものなのか? 試させてもらうぞ」


 時が止まった。


 理由は簡単。


 胸に風穴が空けられたのだ。


 それを知覚する間もなく、なにが起きたかもわからず、俺は死んだ。




【■■■■】ー---因果は逆転する



 ◆◆◆


「ぐはっ!?」


 知覚することもできなかった。何が起きたかも把握できない。


 気づけば胸に風穴が空いていた。


「な、るほど」


 まるで自分の攻撃で射貫かれたかのような傷跡だ。


 自分が打ち抜かれたはずの西條律は無傷で立っていた。


「これが星の使徒の力、確かに理外の力だ」


 傷は癒えた。

 今の攻撃で死ぬような鍛え方はしていない。


 つまり、こういうことか。


 相手を殺そうとすると因果が逆転し、死ぬのは自分となる。

 だが、自分が死なず西條律を殺す攻撃であれば均衡状態には持っていけるわけか。


 西條律は因果律に守られている。


 ならば、幻想にとらえてしまえばいいだけだ。



 竜刻醒雲の考えは、与えられた情報から取れる対処の中で最良だったと言えるだろう。

 これが太古の昔より魔術に生きてきた男だった。


 星は選ぶ。

 一人の男は星の支配者に、一人は星の異物に。


 その最後の戦いが始まり、黒幕も動き出す。





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