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境界の魔術師と世界侵略  作者: hinanoko
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幕間・朝

 魔術師は夜行性である。

 あれだけ町を徘徊していたゾンビも日の出からにげるように姿を消した。


 町は一夜で社会機能を失った。

 荒れ果てた町、清掃が終わっていない血生臭い風景。

 けれど、それを引き起こした張本人たちは鳴りを潜めている。


「お疲れ様です西條さん。戦いのセンスはずば抜けていますね、羨ましいです。そろそろ寝ましょう、夜はまた騒がしくなるでしょうから」

「ありがとう」


 陽が昇り、魔道具の訓練も終わった。

 初めは動かない的に対して呪弾を撃つ訓練だったが、途中からトリタに手伝ってもらい、動く的に向かって当てる訓練に移行した。

 その後、立て続けにトリタとの模擬戦をやらされた。


 トリタは何の変哲もないナイフ一本ですべての呪弾を弾き、ナイフをいなした。

 傷つかないのは当たり前で、服装も乱さず、俺と違って汗もかいていない。


 なので、竜雲に褒められても何がよかったのか分からない。


「夜になったら姉が迎えに行くと思いますので、日の入り前には起きていてください」

「わかった。はい、住所」

「トリタ、出口まで案内してあげて」

「かしこまりました」


 住所を書き示したメモを竜雲に渡し、トリタの後をついて出口に向かう。


「西條律様はとても筋がよろしいのですね。どこかで戦闘経験が?」

「いや、人と戦うなんて、小さいころに父親とじゃれあってたくらいかな」

「それはほほえましいですね」


 あの頃は父を殴ればご褒美がもらえるとでも思っていたのか、本気で父に殴りかかっていた覚えがある。


「トリタ君こそめっちゃ強いでしょ。褒めてくれるけど、戦ったら手も足も出なさそう」

「そんなことはないですよ。竜雲様の足元にも及びませんから」


 どうやら、姉からの評価は厳しいものだったが、竜雲もしっかりと強いらしい。

 沙羅と同じように雷を操って戦うのだろうか?


「今日はお疲れ様でした。夜までにゆっくりと休んでください」


 見送られた俺は夜勤明けの朝と同じ太陽を見ながら、帰宅した。


 ◇


「竜雲、会議よ」

「はい、姉様」


 予定外の来訪者が屋敷から去った後、二人の魔術師は現状に対しての会議を行おうとしていた。


「まず、ゾンビ化についてだけれど」

「はい、あれは血系統の魔術ですね」

「そうね。この町を覆うほどの術式を展開しているとなれば、物理的に術式を刻んでいる可能性が高いわ。この術式の破壊を第一優先事項としましょう」


 ゾンビ化がこの町で行われているなぞの魔術儀式と関係あるかは判明していないが、害悪そのものであるのは間違いない。


 血系統魔術は使い手がかなり限られる。有名なのは吸血種や悪魔憑きといった人外だが、この系統を特異とする魔術師の方が珍しくない。


「魔術儀式の解析は頭打ちです。座標としてこの町が隔離されていることは分かりましたが、何を目的とした魔術儀式なのかがわかりません」

「それは後回しでいいわ。中の人間の凶暴性が刺激されるということくらいで、慣れれば自制し始めるはずよ」


 人間というのは学習する生き物である。

 たとえ環境が変わっても、順応し、順応したことにすら気づかない者もいる。


「もし時間制限のあるものだったらどうしますか?」


 魔術儀式には迅速な進行のために時間ごとに術式が移行するタイプのものもある。最悪なのはタイムリミットが来れば儀式の終了とともに儀式内に終末装置が作動するタイプだ。このタイプの場合、終末装置が作動するまでに脱出のめどを立てておかなければならない。


「魔術儀式の方向性だけ調べれるところまで調べておいて。私はどうにか連盟から助けを呼ぶわ」

「わかりました」


 連盟にはこういった無許可の大規模魔術儀式が行われたときに、その事象そのものを消去するという魔法に近い魔術師が在籍している。彼らが戦闘許可をもらったとき、一時的に魔法使いが顕現すると言われているが、その事象そのものが消去されるため観測者はほぼいない。


 彼女たちは来訪者が眠っていても眠らない。

 魔術師は眠らない。


 ◇


 地下工房にゾンビがあふれていた。

 ここに集まっているのは人間だったものであり、まだ一度しか死んでいないモノだ。


 雷帝の巫女を含め、動き出した魔術師たちが殺してしまったゾンビは日光で焼けて塵になったことだろう。


 数はそのまま戦力となる。

 この数百体のゾンビはそこらの魔術師を圧倒する力そのものだ。


 これだけの戦力を一夜にしてそろえた魔術師は間違いなく優秀と呼べるだろう。


 だが、張本人はこれでも足りないと考えていた。

 雷帝の巫女が間違いなく一番の脅威だ。コンビニの上から一目見ただけだが、噂はかねがね聞いている。

 一つの魔術で数十体のゾンビが焼き切れた。あの魔術だけでもこの軍団を消し飛ばされかねない。


「油断は全くできないわね」


 彼女も魔術儀式そのものに対しても脅威を感じていた。

 私の魔術の限界はここまでであり、魔術儀式を解析できるだけの才能はなかった。それを理解していた。


 雷帝の巫女のような才能ある一家に生まれたわけでもなく、連盟にも入ることができなかった。

 だから、念入りな準備が必要だったし、今の戦力でも足りないと感じている。


 いつかのための術式だったが、絶好の機会が訪れたのだ。




 彼女が雷帝の巫女と張り合える理由、それは生き残ることが目的ではなく、入念に、魔術師として最後の成果を得たいだけだから。


 ◇


 魔術儀式が二夜に突入する。

 一般人が狂気に慣れ、おとなしくなった夜、魔術師たちは激突し始めた。


 その様子はまるで蠱毒のようだった。


















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