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境界の魔術師と世界侵略  作者: hinanoko
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始まりの夜-2

 意識を失うという経験は本来希である。そうであるはずだった。

 彼が再び目を覚ました時、周りに立っている者はいなかった。


 確か、ハサミの片割れで相手の頸動脈を切り裂こうとしたとき、急に体の力が抜け、意識も遠方に飛んだ。


 そして目が覚めたとき、自分の標的は床に倒れ、息をしていなかった。

 けれど、致命傷になるような外傷はなく、まるで眠っているかのように死んでいた。


「プルパ! 派手にやったわね!」


 胸に光の杭のようなものが刺さった。不思議と痛みはないが、指先一つ動かせない。

 後ろから聞こえてくる声には敵意しかなく、おそらくこの惨状を引き起こしたのが俺だと思っているのだ。


「どこの魔術師? 色欲の系統の魔術師が潜んでいたなんて気づかなかったわ」


 そしてまた魔術師。

 今日二人目の敵だろうか? けれど、もし事情をこの状況を把握しているのなら、俺にも説明してほしい。


「俺は、魔術師じゃない」


 一息も極端に少なくなっている。息苦しい。


「嘘をつかないで。あなたが話せている時点でただの人間じゃないのよ」

「俺はこの倒れている人に襲われたただのアルバイトっ、ただの学生だ」


 話すのもしんどいから、とにかく、光の杭を抜いてほしい。


「とにかく、この光の杭? を抜いてくれないか? 話すのもしんどくて弁解もできないんだ」

「するわけないでしょう! 魔術師同士の戦いで手札も分からない相手を解放するわけないじゃない。とにかく君が何も話す気がないのが分かったわ。このままもう一度プルパを打ち込んで終わりよ」


 プルパというのがこの杭の名称らしい。

 一本でこの状態、もう一本打ち込まれれば生きることができないかもしれない。


「殺すな、あんたがどんだけ優秀な魔術師ってやつで強いのかは知らないが、後々後悔するぞ。俺は、魔術師を無意識で殺してた。意識を失えばどうなるかわからない」


 正直にそういった。

 自分でも状況を把握できていないが、魔術師を()()()と。


 魔術師と戦う前のような欲求は今はない。

 だが、あれがもう一度来ないとも限らない。


 そして、今、町はおかしい。


 どこもかしこも、こんな戦いが起こっている気がする。

 血の匂いが町中から漂ってくるような。


「っ!? プルパ!」


 頭の横を銃弾のような速さで光の杭が空気を裂いた。

 その杭は標的の頭を正確に打ち抜き、活動を停止させた。


「どうなってるの!? あなた、死霊系統か、傀儡系統の魔術も使えるの?」


 打ち抜かれたのは店長だった。

 俺とは違い、頭を打ち抜かれ、壁に縫いつけられてブランと力なく干されている。


「まだだ! 女も立ってる!!」


 店長が打ち抜かれたことに驚きはなかった。

 なぜなら、その肌は青く、映画に出てくるようなゾンビにしか見えなかったからだ。


 そして、俺の目の前で倒れていた魔術師が同じように起き上がったのだ。

 人間ではありえないような角度で、だ。


「ヴァジュラっ!!」


 紫電が見えたような気がした。


 その攻撃の速度は人間が認識できるものではない。

 とある神が操った雷の伝承を起源とした魔法に近い伝承系統の魔術である。

 プルパもその神が使用したといわれる武器の形を取る魔術であるが、こちらは伝承魔術に近い召喚系統の魔術の一種である。


 伝承系統と召喚系統は非常に近い系統ではあるが、本来複数の系統の魔術を使うことは難易度が高く、才能が必須である。

 教養だけでは限界であり、才能が物をいうのが魔術である。


 つまり、彼女が卓越した魔術師であることを示していた。


「はぁはぁ……どうやら、本当に君の仕業じゃないようね」


 何を根拠としたのか、明らかに疲れた声の彼女は俺の拘束を解除した。


 店長と倒れていた魔術師は身体が焼けこげ、大部分が炭化している。

 人が雷に打たれれば、こういう死に方をするのだろう。


 今は警戒を解いてくれているみたいだが、いつこの雷が自分に向かってくるか分からない。


「どうして警戒を解いたんだ?」

「あなたが犯人じゃないことが分かったからよ。今の魔術は範囲内の対象に雷を打ち込む魔術。対象は色欲系統の魔術の痕跡よ」


 つまり、店長を殺した魔術の痕跡から犯人をたどり、雷で焼き殺したというわけだ。

 犯人自動追尾型の魔術なんて強すぎる。


「振り向いたら殺されるなんてことはない?」

「そうね、あなたが妙な事をしなければ」


 ゆっくりと振り返る。

 さっきは魔術師を殺したと息巻いたものの、さっきの魔術師とは格が違うと感じる。

 外見は髪は日本人らしい黒髪だが、瞳の色など少し外国人の雰囲気がある。瞳の色は少し暗めの金色で、見てると引き込まれそうな魅力がある。


「初めまして、俺は西条律。ここのコンビニで働いているアルバイトで、勤務中に襲われた一般人だ」

「初めまして、西条君。つっくり自己紹介したいところだけれど、そうはいかないみたい。さっきのゾンビ化の犯人は分からないの。駐車場の二人もゾンビ化していたみたいだし、早くここを離れましょう」


 駐車場の二人というのはフェンスに倒れていた若者のことだろう。彼らも店長と同じ末路を辿ってしまったようだ。


 今は何も知らないから彼女を疑わない。

 俺が無害だということが分かれば守ってくれるかもしれない。


 けれど、彼女はいつでも俺を殺せる、それを忘れず行動しよう。


「どこにいけば安全なんだ?」

「ひとまず私の家についてきて。魔術結界が張ってある家には寄り付かないでしょうから」



「家!?」

「そう、私の家よ。そこまでは守ってあげるんだから感謝しなさい」


 どうやら俺に拒否権はないらしい。

 文字通り喰われないか心配だ。



 ◇


「へぇ。あれが天帝の巫女と呼ばれる魔術師ね。名に恥じない規格外さじゃないの。それに、となりの坊やは誰かしら? 利用できるかもしれないわね」


 ビルの屋上からコンビニを眺める女がいた。

 彼女は魔術師である。

 自分の弟子を一人失ったばかりだが、そんな些事は気にも留めていないようだ。


 彼女の今日の殺害数はすでに二桁に達しており、そのすべてがゾンビとなった。


 ビルの下のコンビニにいる、己ではまだ届かない魔術師に見つからないギリギリの距離で騒動の一部始終を観察し、使い魔を飛ばす。


 彼女の弟子たちに伝令を、そして監視を付けるためだ。


『天帝の巫女にはまだ近づくな。死体を増やせ』


 その命令を受けた魔術師たちが動き始める。



 まだ儀式が始まって一時間、すでに百人以上の死者が出ているが、まだまだ終わらない。


 町民の数はまだまだ残っている。






















魔術師:魔路という器管を持ち、活性化させた者。魔力という特殊な力を使うことができ、普通の人間よりも身体能力が高い。魔術は通常、親から教わるが、それは才能がなければ大成する未来はないからである。才能がある魔術師はいくつかある連盟の一つに属し、その力を研磨する。二つ名などは連盟から授かるものである。


魔術:魔力を用いて行われる現象。魔術系統は魔力の性質に依存し、その範囲と効果は魔路に依存する。超常現象は連盟に魔法と認定され、管理や封印などの措置が行われる。究極の魔術は全能であり、その域に達するのを防ぐための措置が連盟によって行われるのである。



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