第6章~西野さんが異動して空いたロッカー
そんな時、現場長酒井さんの知り合いの息子さんが、我々の会社に入社したいという話がありました。
酒井さんは、本社の人事担当の松崎さんにその事を伝えると、
「今、会社で欲しい人材は、ベテランで資格が4つ以上あって教育熱心な人なんだよな…」
「その人が、新規現場で中堅以上の仕事が出来る人ならいいよ」
と、言ってきました。
それならばと思った酒井さんは、現場で厄介者だったベテランの西野さんを新規現場に異動させ、知り合いの息子さんである五十嵐さんを現場に招き入れました。
いよいよ西野さんが異動になる日、現場長をはじめ、ほとんどの同僚は、
「ようやく厄介払いが出来る」
と、喜んでいました。
それどころか、オーナー側にも西野さんを良く思わない人が数名いたので、次に配属される五十嵐さんに期待が膨らみました。
事前に見た五十嵐さんの経歴だと、30才で現場経験者でしたが、資格は2つしかありませんでした。
同僚の皆さんは、西野さんが異動になって安堵していましたが、自分は西野さんが使っていたロッカーが空いた事が待望の出来事でした。
西野さんの使っていたロッカーを使用禁止にすれば、大川さんの幽霊をそこに封印する事が出来ると思い、意気揚々としていました。
五十嵐さんが現場勤務になる日は、西野さんが異動してから3週間後でした。
本来ならば、欠員期間を作らないようにするのが通例ですが、新規現場の現場長の村瀬さんから何度も西野さんを早く出すよう催促されたので、予定より早く異動していきました。
西野さんのロッカーが空いてからの3週間は、全く幽霊が現れなかったので、杉本さんと自分はとても快適でした。
現場の方々にとっても、豹変した西野さんに脅えなくて済むので、精神的にやっと重荷が下せた感じでした。
それから数日後、自分は後輩の野中さんに、ある事を協力してもらおうと思い話し掛けました
「ここの西野さんが使っていたロッカーなんだけどさ~」
「次の人に使わせないようにしたいんだけど協力してくれる?」
「はい、別にいいですけど」
「でも、どうしてですか?」
「ここのロッカーを使うと1年以内にその人が豹変するからだよ」
「五十嵐さんが現場に来たら、奥にあるロッカーを使ってもらうようにするから」
「また次の人が西野さんみたいに豹変したら嫌でしょう?」
「クソッ、縁起でもない!」
「もうあんなのこりごりだよ!」
野中さんは、現場の中でも西野さんから執拗に目を付けられ、散々イジメられていたので、顔を赤らめて吐き捨てました。
「じゃあ、協力してくれるよな?」
「そりゃあ勿論ですよ」
「あと、この事は上司には言わなくていいから」
「それと、少しづつ様子を見ながらやるから、何か上司に言われたらこっちに言ってよ」
「はい、でも具体的にどうするんですか?」
「西野さんが使っていたロッカーを倉庫にするんだよ」
「あ~、なるほどね」
「じゃあ、テプラで入力して貼っときますよ」
「どうせなら、目立つように黄色いテープで頼むよ」
「OK!お安いご用ですよ」
「こっちはとにかくロッカーの中に何かを詰め込んでおくよ」
野中さんが空いたロッカーの扉の表面に“倉庫”と書かれたテプラを貼り付け、自分が中に不要物を入れてから1週間経ちましたが、誰からもクレームが来なかったので、このまま使用禁止出来ると期待していました。
自分は念の為に五十嵐さんが現場で勤務する2日前に、事務室にある使わなくなったカタログや数年前の廃棄予定の点検用紙を“倉庫”と表示されたロッカーに隙間なく詰め込みました。
「ふぅ~、これだけギッシリ入っていれば大丈夫じゃないかな」
「あとは仕上げだな」
“倉庫”と表示されたロッカーから、6つ奥のロッカーの扉表面に“五十嵐”と書かれたテプラを
野中さんが貼りました。
6つ奥のロッカーは、自分が事前に清掃してハンガーを5本入れておきました。
唯一、気掛かりだったのは、五十嵐さんが現場に来る日に自分が公休だった事でした。
ただ、野中さんが出勤だったので、
「とにかく入口から3番目にあるロッカーは使わせないようにして!」
と、前日にお願いしておきました。