8 マリーナ視点2
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「今日のお昼、ライアン殿下と食事をしたそうね? それがどういう事かお分かりなのかしら? 私、ライアン殿下の婚約者候補筆頭なの。私の許可無くして殿下と同席するのは止めて欲しいの」
私は努めて優しい声でリア嬢に話をしたわ。
「王子妃筆頭候補者のラストール公爵令嬢様の『許可を』と言われますが、私は殿下から直接受けたお願いを拒否できる身分ではございません」
……これは酷いわ。
公爵令嬢である私の意を汲む気がないのね。強く言って聞かないのなら実力行使しなくてはいけないみたいね。
そう思っていると、ライアン殿下が私の教室へ入ってきた。
私との仲を深めるために来てくださったのね。お茶に誘っても上手く躱されたのは残念だったけれど、私のことをしっかりと見ているよと分かるように声を掛けてくれた。
やはり殿下は光属性持ちというだけの令嬢にも気遣いをしていてとても優しい。
そういえばリディス嬢の事を父に聞けと言われた。
どう言う事かしら?
邸に帰り、仕事をしている父に聞くため執務室をノックする。
「お父様、マリーナです。今、よろしいですか?」
「入っておいで」
私はそっと扉を開けて執務室へと入ると、執務室では父と執事が忙しく仕事をこなしていた。
「お父様、お忙しい時に申し訳ありません。先程、ライアン殿下からリディス嬢の事をお父様から聞くようにと言われましたの」
父も執事もピクリと反応し、手を止めて私を見ている。
「マリーナ、どういう事だ? 何故、リディス嬢の話が出たのか詳しく聞かせておくれ」
父の声が一段と低くなった。私は父にリア・ノーツ侯爵令嬢の話をする。
勿論、殿下と食事をした事や私がリア嬢の為に釘を刺した事も。
父はとたんに苦虫を噛み潰したような顔になった。執事は眉間に皺を寄せ手を止めたまま微動だにしない。
「マリーナ、ライアン殿下にそう言われてしまったんだな?」
父は私に念を押すように聞いてきた。
「ええ、お父様」
「残念だが、王子妃候補を辞退しなさい」
「お父様、何故ですか!? 我が家は爵位も問題ありませんし、私こそライアン殿下に相応しいのです!」
私は父に必死に訴えた。
「……」
父が何処か悲しげな顔をして何も答えてくれない事は更に私を苛立たせた。
「どうしてですか? 私こそ、私こそ王族に相応しいのです! リア嬢など、たかが光魔法が使えるだけで何の価値もないですわ!」
「……十四年前だ」
父が苦悶の表情で覚悟を決めたように口を開いた。
「えっ?」
父が話し始める。父のその表情に私は何故か聞かなくてはいけないような気がして口を閉じた。
「光魔法を使うリディス・サルタン伯爵令嬢が死んだのは。リディスと私は十五歳の頃に婚約して二十歳の時に結婚式を挙げた。私は婚約者がいるのにも拘わらず、アイラと関係を持った。
結婚式の一ヶ月前にアイラに子どもが出来た事を知り、リディス嬢に打ち明けた。両家とも式を直前でキャンセルする事は出来なかった。
いや、しなかったと言ってもいい。彼女は苦しそうに涙を流しながらも私に何も言わなかった。いや、できなかったのだろう。
彼女は伯爵家が強引に迎えた養女で我儘を許される立場にはなかった。
私は彼女が何も言わない事をいいことにリディスをお飾りの夫人に、アイラを愛人にしようと考えた。
式の当日まで一日もリディス嬢に会わず、式が始まってからも一度も彼女を見る事は無かった。
今思えば、何の落ち度もないリディス嬢に酷い事をしたと後悔しかない。
彼女は、誓いの言葉が終わると、持っていたナイフで自分の胸を刺し自殺した。会場中が騒然としている中でアイラは倒れたリディス嬢を見て嗤って言った。
『所詮、光魔法が使えるだけの準男爵令嬢なのよ。平民上がりに価値はないわ。ローレンツは私のもの。無駄。犬死にね』と。
少ないながらも毎年光属性の子どもは生まれていたが、それ以降は一人も生まれなくなった。
リディス嬢の死が何らかの影響を及ぼしたのではないかと一部では言われている。光属性の子どもが生まれなくなったのは私とアイラのせいだ」
「そんなの、信じませんわ。リディス嬢が死んだのは自分のせいじゃない!」
父はいつになく厳しい表情で私を見ている。
「何でも人のせいにするのは簡単だ。当時の貴族は光属性の魔法を持つ者達を囲うことが貴族としての存在を示す一つの手段だった。
準男爵は伯爵に脅され、彼女は伯爵家の養女になった。彼女が亡くなり、事態を重く見た国王陛下は貴族が光属性を持つ者を囲うことを禁止することになった。
準男爵から脅して子供を奪い、公爵家の私が彼女を蔑ろにして死なせた。
私達は貴族という名の力を振るい何の瑕疵もないリディス嬢を死に追いやった。マリーナも同じ事をするつもりか? リア・ノーツ侯爵令嬢が光属性に目覚めた事を感謝すべきなのだ。
王族の妃になるには皆から好かれる存在でなければならない。爵位で人の価値を決めるのは言語道断だ。
私からライアン殿下の婚約者候補の辞退を届けておく。いいか、これ以上問題を起こすな。分かったか」
「お父様! 高位貴族として振る舞うことは当たり前だわ。そうしなければ潰されるもの。私はライアン殿下の婚約者になりたいだけよ。邪魔者を排除して何が悪いのっ!?」
父の言葉に言い返すが、父はため息をつき聞く気はないみたい。
「連れていけ」
その言葉に頷いた執事は無理矢理私を執務室から追い出し、『謹慎が解かれるまで部屋から出さないように』と護衛に言いつけている。部屋を出ようとしても護衛にダメだと押し返される。
「なによ! もう。誰も分かってくれない! ライアン殿下は私と相思相愛なのよ!」




