35
✳︎ほんのりRが入ります。ご注意下さい。✳︎
翌朝目覚めると、待ってましたと言わんばかりにメイジー率いる侍女達に王宮への馬車に押し込められ、王宮教会の新婦用の部屋で磨き上げられた。
どうやら突然の結婚式にも関わらず許可が出たようだ。
上位貴族の憧れでもある王宮の敷地内にある教会で結婚式をすることになった。
この教会は王族や上位貴族しか使われないため、この時期に私達以外婚姻する人はおらず、許可はすぐに下りたらしい。
王家としても昨日の出来事を見て、父達と同じような判断したのかもしれない。
私が部屋を出た後、公爵は我が家へ到着し、父と話し合いをしていたのだとか。
「仕方がないのは分かるけれど、公爵家の威信をかけてリアちゃんを素敵な花嫁さんにしたかったのに」
「メロウ様、私も同じ思いです。披露宴は後日行うのですから結婚式で力を奮えない分、そちらに注力しましょう」
「そうね。マーガレット様の言う通りだわ」
夫人は私を着飾りたかったらしく、時間が無いことに怒っていたみたい。披露宴はお義母様とお母様二人の主導で行うことで納得したようだ。
ニール様のお母様と私のお母様は派閥が同じで以前から仲良しだったらしく、会話に花を咲かせている。二人の母に次々とドレスを着せ替えさせられる未来が見える。
「お嬢様、準備が出来ました」
メイジーの言葉に意識を戻す。メイジーは私の晴れ姿に目を真っ赤にしているわ。
鏡に映る私は本当に幸せそう。
嬉しい。
夢ではないよね。
偽りの結婚ではなく、本当に愛されて結婚する。
「お母様、私は幸せになっていいの? もう、良いのかな?」
前世の辛い記憶と家族からの深い愛情を感じて私は育ってきた。
様々な思いが胸を締め付け涙が目一杯に溜まっていく。
「リア、簡易な結婚式でごめんね。でも、ようやく掴んだ幸せなのよ。離しちゃだめよ?」
お母様は私の涙をそっと拭いて抱きしめてくれた。
「お時間です」
従者の声に立ち上がった。
教会前に燕尾服を着た父が目を真っ赤にして立っている。
「リア、綺麗だ」
「お父様……。ありがとうございます」
ガチャリと扉が開き私は父のエスコートで赤絨毯の上をゆっくりと進んでいく。
お互いの家族だけの式となってしまったが、私は嬉しくて胸が震え、涙を堪えるのに精一杯だ。
ニール様は微笑み、父とエスコートを代わる。
「リア、綺麗だ」
「う、嬉しいです」
普段なら教会の神父が婚姻を取り行うのだけれど、何故か陛下が神父の格好で現れたのは私も周りも驚いた。
国一番の王宮魔導師とその見習いの娘。そして高位貴族であるのにも拘らず結婚式がこんなにも質素なのは忍びないと陛下なりの気遣いだったみたい。
感激してまた涙が出てしまった。ニール様に涙を拭われつつ、二人で署名し、晴れて夫婦となった。
「ニール師団長、リアちゃん、結婚おめでとう!!」
式場を出るとモーラ医務官や私が治療してきた騎士達が集まり、フラワーシャワーをしてくれて涙で前が見えなくなってしまったわ。急に決まった結婚式なのに集まってくれた人々に涙が止まらない。
私は幸せ者だと本当に思う。
あまりに涙するもんだからニール様は『前が見えないだろう?』と途中からお姫様抱っこで馬車前まで歩いてくれたの。
本来なら新居へそのまま向かうけれど、まだ内装も防犯面でも工事の途中なので暫くは侯爵家の私の部屋に住む事になった。
一ヶ月は侯爵家で過ごしてから新居に引越しする予定なの。
明日からまた仕事、と思いきや、やはり新婚だし、今は魔物も落ち着いているそうなのでニール様は二週間程休みをもぎ取ってくれたみたい。
ニール様と迎える初夜。いつの間にかメイジーが用意してくれたネグリジェは、レースの見えるか見えないかという際どい物だった。
はっ、恥ずかし過ぎる!!
「リア、こっちへ来て少し飲もうか」
「はい」
私は上にショールを羽織ってニール様にこのネグリジェが見えないようにしてお酒を二人で飲んだ。
「昨日の今日で結婚を急かせてしまったな」
「でも、こればかりは仕方がないわ。いつ教会が横入りするかもしれませんし」
「リアも疲れただろう? そろそろ休もうか」
「……は、はぃ……」
ニール様に手を引かれてベッドへ向かった時にパサリとショールが床に落ち、ニール様と目が合った。
ニール様は私のネグリジェを見てふふっと妖艶な笑みを浮かべてキスを落とす。
「リア、怖いかもしれないが大丈夫だ。私も知識としては持っている」
そうよね!?
少し前まで魔法オタクでご令嬢から見向きもされていなかったんだもの。
「本来ならもう少しリアが大人になるまで待つつもりだったが、状況が状況だからね。でもリアを今からじっくりと堪能出来ると思うと男冥利に尽きるな」
そう言いながら深いキスをする。
ニール様との夜は、甘くて凄かった。
その一言に尽きた。
元々研究者気質のようで優しく撫で上げたり吸い付いてみたりと私の反応を見ながら気持ちよくさせてくれた。
思い出しただけでも恥ずかしくて顔から火が出そう。一晩中抱かれて眠ったのは朝方。ニール様の腕の中で眠りについた。抱かれて眠る心地よさや寝息に安心して目を瞑る。
こうして私達は三日三晩の甘い時間を過ごしてからようやく部屋を出て毎日二人でデートを楽しんだの。オペラやピクニック、街へデート等。蜜月をたっぷり堪能する。
母は苦笑しながら黙っていたけれど、ニール様のお母様には披露宴のためのドレスを着せ替えしたいから部屋から出てこいとせっつかれたわ。
それからは私達は披露宴の準備と新居の工事に時間を割く事になった。ニール様はずっと私に寄り添ってくれるので私は嬉しいけれど、お義母様にはただでさえむさ苦しいのに四六時中一緒なんて暑苦しい、早くリアちゃんを渡しなさいと言われていた。
そのやりとりに男の方の親ってこんなにドライなんだと感心してしまったわ。
「そうそう、貴方達が新婚生活を満喫している間にアイラ夫人の罪が確定したようよ? 知らせが来ていたわ。
侯爵令嬢への傷害。光属性の令嬢への自殺教唆、公爵夫人位の簒奪。娘を使った王妃位の簒奪未遂という罪名が付いていたわ。リアちゃんは当事者だから王宮に呼ばれるかも知れないわ」
……簒奪。極刑だわ。
「リア、大丈夫だ。何も心配しなくていい」
お義母様の言葉に息を呑んだ。私が動けずにいるとニール様の腕に包まれてホッとする。




