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リアである私は十歳の時、神殿で水属性のみと判定されていたけれど、今は光と水の二属性が使えるはずだ。そして我が家は王宮魔導師を輩出するほど魔力量も多い。
水属性だけでは王宮魔導師なることは難しいが、今なら王宮魔導師を目指せるかも知れない。
過去の私は伯爵に将来を決められていたけれど、今の生では自分で選べるかもしれない。
そう思うと目の前が開かれたように明るくなった。
明るい笑顔の私とは反対にその場にいる家族は黙ったまま驚きを隠せないでいるわ。
お兄様が口をハクハクさせながらも聞いてきた。
「リア、思い出しました、っていうのはどういう事だい?」
どこまで話せばいいのか。
私が話をしたことで家族が過去に巻き込まれはしないか不安になる。
悩んだ末、あれは過去の出来事だし、私がリアとしてもう十四年経っているので大丈夫だろうと家族に全てを打ち明ける事に決めた。
自分がリディス・サルタンという令嬢で生まれ変わったことを。
「お父様、お母様、お兄様。私は生まれ変わり、とても愛されて育ったことに感謝しかありません」
「突然、どうしたんだい?」
「私はリディス・サルタンだった頃の記憶を思い出したのです」
父と母はやはりあの当時の事を知っており、複雑な顔をしたわ。
父達の話を聞くと、どうやらリディスが死んで半年ほどした後、リア・ノーツとして生まれ変わったようだ。
当時、貴重な光属性の娘が自殺したことは貴族社会でも激震が走ったみたい。
父は私の話に半信半疑ながらもリディスが死んだ後の話をしてくれた。
私が死んだ後、身体から虐待の痕が見つかった事や、婚約者の不貞が娘を死に追いやったことが、貴族たちの中で話題となり、当分の間世間は騒がしかったようだ。
ローレンツとアイラはあれから結婚し、王都から離れた領地で暮らしている。
彼は四大公爵のうちの一つであるラストール公爵を継いだのだが、爵位こそそのまま保持しているものの失脚したような形となった。その影響でラストール家を支持する派閥も様変わりしたそうな。
あの二人は私の中だけで呼び捨てにするわ。それくらいは許されると思うの。
「リアの過去は分かったわ。辛かったでしょう。けれど、貴女がリディスだったことは家族だけの内緒にしておきましょう」
お母様がそっと抱き寄せてくれる。その柔らかく温かな温度に包まれると、堰を切ったように涙が溢れて出た。
私は今、幸せなのだと。
それから数日は念のためとベッドで過ごす事になったが、もうすぐ始まる学院のためにメイジーと準備を始めた。
「お嬢様、学院では再度魔法鑑定があるそうですよ。覚悟なさって下さいね」
「騒がれるのは嫌だわ。でも、仕方がないわよね」
私の過去は家族しか知らないけれど、邸の者には光魔法が使えるようになった事を伝えた。
前回私が死んで以降、光属性は生まれていないらしく、現在国に三十人いるかどうかのようだ。
父はお城で宰相補佐を務めており、国王陛下に娘が光属性に目覚めたと申請した時、陛下にすぐに王子との婚約を勧められたが、娘は半月も目を覚まさず、身体は後遺症があるかも知れないと言って断ってくれたみたい。
兄がこの家を継ぐことが決まっているし、幸いなことに我が家は政略結婚しなくても良い家柄だ。
私としては爵位関係なく、今度こそ、私だけを見てくれる方と幸せな家庭を築いていきたい。
もちろん、後遺症はない。自分でしっかり治したもの。
入学まではあれよあれよと言う間に過ぎて行った。
「お父様、お母様行ってきます」
「とうとう入学式か。気をつけて行っておいで」
「ディルクお兄様行きましょう?」
兄と馬車に乗り込む。何故かしら。今生の別れのようにお父様もお母様も泣いているわ。
「大事な妹が下品な令息達の目に触れるなんて心配でしかない」
「お兄様、大袈裟です。学院も二回目なのですから大丈夫です」
「……そうだな。帰りはキチンと図書室で待っているんだぞ?」
お兄様に入学式の会場となるホールまで送ってもらい、お兄様は自分のクラスへ向かった。
私は一人になり、少し不安を覚えながら会場に入り、Sクラスの席を探して着席した。
入学試験でクラス分けがされるのだが、二回目の入学試験ともなると余裕を持って試験を受けられ、無事にSクラスに合格した。
一応前回もSクラスだったのよ?
文章は少し違っていたけれど、内容はあまり変わっていなかった。少しズルしている気分になったのは仕方がないわよね。
式が始まり、学院長の挨拶。前回の生では義両親の圧力もあり、緊張して試験も入学式にも余裕は無かったけれど、二回目ともなると、周りを見る余裕も出てくる。
もしかして学院長は毎年同じ事を言っているのかしら。昔と殆ど同じ内容よ。ふふっと笑いが込み上げてきたが、そこは淑女。しっかり真面目な顔をして我慢したわ。
次は生徒会長の挨拶。今年の生徒会長は第三王子のライアン様だ。兄は同じクラスで側近としていつも側にいるみたい。ライアン様の婚約者はまだ決まっていなかったような気がする。あまり関心がなかったこともあり、その辺はうろ覚えだ。
確か、婚約者候補は何人かいたはず。令嬢達が熾烈な候補者の戦いを繰り広げていると噂には聞いたことがある。
私は自分でいうのも変だけど、のんびりしているせいか、王子を賭けた女の戦いに入っていける気がしない。光属性持ちで騒がれてしまうかもしれないけれど、できるならひっそり、こっそりと過ごしたい。
ライアン様の挨拶が終わると、一年生代表のマリーナ・ラストール嬢が言葉を述べた。ラストール、ラストール。頭の中をぐるぐると駆け巡る。
もしかして、あのラストール?
……アイツにそっくりじゃない。
マリーナ嬢は首席なのね。頭はアイツに似た……?
アイラは万年最下位を争っていたもの。
Sクラスは一クラスしかないため、これからの三年間ほぼ同じメンバーなのだと思うと今からお腹が痛くなる思いがする。
ライアン様とは学年が違うから令嬢達の争いに巻き込まれないようにできるけれど、同じクラスとなると無理ね。まぁ、マリーナさんが悪い訳では無いし、悪い子とも決まっていない。
大丈夫よね、きっと。