表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/40

21

 ようやく休みの日となった。


 まとまった休みで嬉しいけれど、折角の休日は予定が立て込んでいて嬉しくないような気もするのよね。


 朝から眠い身体を起こされてメイジーにとても可愛く仕立ててもらった。


 今日は王宮で殿下と会う日なので王宮へ出勤する兄と一緒に馬車で王宮へと向かう。


 父はというと、スタンピードの後処理で忙しいらしく、まだ泊まり込みが続いている。


 私は殿下の侍女に案内され別室へ向かうことになった。兄は私を心配しながらも執務室へと歩いていく。


 部屋に入ると『お待ちしておりました』とライアン殿下の侍女達からワンピースへと着替えさせられ、商会長の娘風に変身させられたわ。


 えっと、王宮の一室で豪華な食事ということではなかったの? 着替えが済んだ時、ライアン殿下も街人風な装いで現れた。残念ながら王子様の見目麗しい美貌は平民の装いで誤魔化す事は出来ないらしい。後光が眩しく差している。


「さぁ、リア嬢。行こうか」


 私はライアン殿下に促されるまま馬車に乗せられ連れていかれたのは街のメインストリートだった。


「リア、街に降りた事はあるかな?」

「ライアン殿下、ありません」

「今はライアンだ。貴族ではないからね」


 ……ぐぬぬ。


 これは私への褒美と称したただのデートではないだろうか。してやられた。


 因みに、リディアが準男爵だった頃は普通に街に住み、平民と同じような生活をしていた記憶はある。


 この先、曲がった所に家があるはず。


 お父さん達は元気にしているのかな。寂しかった気持ちが蘇る。今度、父に相談してお父さん達に会ってみたい。


「リア? 大丈夫かな?」

「すみません、少し考え事をしていました」


 私は暗い記憶に蓋をして笑顔をライアン殿下に向ける。


「リアは行きたい所はあるかな?」

「そうですね、学院生がよく行くと言っていた雑貨屋さんに行ってみたいです」

「ああ、それならこっちだ」


 ライアン殿下に手を引かれてやってきた一軒の雑貨屋だった。店の前にも様々な雑貨が並べられており、店内も所狭しと可愛い雑貨が沢山売られている。


 可愛いと思う品物が多くて男の人は正直入りにくいと思うのだけれど、ライアン殿下はスタスタと入っていく。


「ライアンはここによく来るのですか?」

「……ああ、たまに」


 一瞬彼の言葉が詰まった。

 あれ? 何か聞いてはいけない雰囲気? 


 ああ、もしかしてここはご令嬢とのデートでよく利用しているのね。納得したわ。

 私としたことが殿下のプライベートに突っ込んで聞いてはいけないことよね。

 私は微笑んでそれ以上聞かないよう雑貨に目を向ける。


 視線を向けた先に小さな白ウサギのペーパーウェイトが目に入った。


 ……可愛い。


 でも、隣の茶ウサギも黒ウサギも気になる。

 よし、買ってしまおう。一人で三つは使わないからカルサル師団長とモーラ医務官に渡して使って貰うのが良いと思うの。


 私は気になったウサギ達を店員に渡し、二つをプレゼント用に包んでもらった。


「リア、欲しいのが見つかった? これは僕から君にプレゼントだ。似合うと思って」

「開けても良いですか?」


 そう言ってライアン殿下から渡されたプレゼントを開けてみる。中にレース付きの子豚柄のリボンが入っていた。えっと、私は子豚ってことかしら? それとも単にセンスがないだけなの?


 ……どうしよう。これはきっと普通の令嬢達は喜ぶ物なのよね?

 私はとても喜んでいる風を装い、満面の笑みを浮かべる。


「ライアン、ありがとう! とっても嬉しいわ! 次にお茶会があれば着けてみるね!」


 ライアン殿下はその言葉に満足した様子だ。なんだかごめんなさい。


 このリボン、本当に私に似合うと思って買ってくれた、のよね? きっと私の趣味を知らないからライアン殿下の好みで選んでくれたに違いない。そう思う事にする。


 雑貨屋を出た後、ライアン殿下のお勧めのレストランへ案内された。


 店内にピアノがあり、音楽を聴きながら食事を楽しむスタイルのようだ。混んではいるものの、庶民を装う貴族が多く、落ち着いた雰囲気の店だった。特に騒ぐ事なく、それぞれ食事を楽しんでいるわ。


 私とライアン殿下は店員に案内され、奥の個室に案内される。店員からメニューを受け取り見てみるけれど、どれを選べば良いかよく分からない。


「店員さん、お勧めのメニューはどれですか?」


 ここは素直に聞くのが一番ね。


「お勧めは、今朝仕入れたばかりのドラゴン肉のステーキです。私個人はデザートのプディングもお勧めです」

「では、それを頂くわ」

「僕も同じ物を」


 ドラゴン肉を食べるのは初めてだわ。カルサル師団長ならきっと涙しながら食べそう。しばらくするとステーキが運ばれてきた。


「良い香りです」

「そうだね。では食べようか」


 ドラゴン肉にナイフを入れると、思っていたよりも柔らかく、ふわりと肉特有の甘い香りが立ち、食欲をそそる。脂の乗りも程よく美味しそうだ。


 一口サイズの肉を口に運ぶと香りと共に広がる肉汁で至福を感じる。


 二人で美味しいねと舌鼓を打っていると、部屋の外から騒がしい気配がする。


 何かあったのかしら?


 ライアン殿下も物音に気づいたらしく、二人で扉に目を向けると、勢いよく扉が開かれた。


「やはりここにいたのですね。ライ様、絶対ここに来ると思っていたのです。その女は誰ですか? 私という者がいながらまた違う令嬢を連れ込んで。酷いわ」


 ……また?

 これはもしや、噂に聞く修羅場というやつなの?

 恋愛小説で読んだ事がある。

 本当に起きるものなのね。


 当事者である私はどこか他人事のように思え、乱入してきた令嬢がどうするのかドキドキしながら見ていると、キッとそのご令嬢は私を睨み、指をさしてきた。


「そこの貴方! お名前を伺ってもよろしくて?」

「私は、名乗る程の者ではございません。ライアンと食事をご一緒にさせていただいているだけです」


「サラ嬢、止めて欲しいな。勝手に個室に入ってきて、失礼だと思わないかな?」


 部屋の外にいた護衛騎士は一体何をしているの?

 護衛として失格ではないの?


 私は彼女の振る舞いよりも護衛騎士の行動に疑問を感じた。


 殿下も驚いている様子もない。一度や二度のことではないのかもしれない。

 優しく話す殿下と私が名前を名乗らなかった事で彼女の気持ちを逆撫でしてしまったようだ。


「私が聞いているのに答えないというのはどういう了見なのかしら!!」


 彼女の行動を逸早く察知し、室内にいた騎士は殿下を庇うように移動した後、令嬢を止めようと『止まれ!』と注意するが、彼女は構うことなく私の元まで歩みより、テーブルに置いてあった水を勢いよく私に掛けた。


 ……びしょ濡れになってしまったわ。


 まさか水を掛けられてしまうとは思わず、動けなかった。


「ライアンが囲う女をこれ以上増やすことが許せないの! 貴女に一つ教えてあげるわ。ずっと私も我慢していたけれど、私が知っているだけでも過去五人は同じデートコースで雑貨や商会、ブティック店に寄って、ここで食事してから最後は公園で頬にキスするのが定番なのよ」


 そして彼女の言葉で判明した殿下の遊び人疑惑。デートコースも決まっているのね。


 令嬢が語る内容からして過去にデートした人達からも詳しく聞いていそうね。


 殿下に白い目を向けたくなったが、必死で抑える。


 それに今ここで激高し興奮している状態の彼女に食事に来た経緯を話しても無駄だろう。


「そうでしたか。何か事情があるようですね。ライアン殿下、美味しいお食事を有難う御座いました。このような姿になってしまいましたし、一足先に帰らせていただきますね。では失礼します」


 これ以上ここに私がいても騒ぎが大きくなるばかりで店側にとっても迷惑だ。戸惑っているライアン殿下を無視し、さっと立ち上がり、個室を出た。


 個室の外で護衛をしていた方が何度も頭を下げて馬車に乗せてくれ邸に着くように御者に指示を出していた。


 殿下より護衛の方が心配ね。


 そう思いながら邸に帰ると、メイジーがびっくりして駆け寄り、大声で話すものだから邸中大騒ぎとなった。


 まぁ、行きと違う服装だし、頭から水を被っている状態だし、当然よね。身体が冷えないように急いで着替えさせられた。


 あの後、ライアン殿下はどうなったのかしら。


 私はメイジーに修羅場を見たの、と興奮冷めぬうちに話をしたらメイジーは何故か怒り狂っていた。


 後日どうなったか兄に聞いてみようと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ライアン最悪ですね…女に見境無いわ、騙してデートしようとするわ…被害者のリアには申し訳ないけど押しかけ令嬢が可哀想に思えます。ライアン二度とリアに近寄らないでほしい…
いつも楽しませて頂いています♩ ヒロインのやり直しストーリーは今度こそ!幸せなエンドを期待しつつも読んでて楽しいですね。 ときに、この辺りから後日の師団長との博物館デートまでの流れは読んだ記憶があるの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ