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「おはようございます」


 翌日、いつもと変わらず出勤すると、カルサル師団長が何だか不機嫌だ。どうやら帰る時に顔を出してから帰って欲しかったようだ。


 モーラ医務官から『帰りなさいと言われたからといって……』とブツブツ文句を言われた。


 私は機嫌を直して貰おうとポケットからそっとある物を取り出し、カルサル師団長の手を取り、包む様にそれを渡す。


「カルサル師団長、お土産です」


 カルサル師団長はなんだ? と首を傾げながら渡された物を見て目を見開き大興奮となった。


「こ、これはドラゴンの爪とドラゴンハートと呼ばれる魔石ではないですか!? リア君。あの場にドラゴンが居たのですか?」


「ええ。多分いたのだと思います。私が魔石に込めた浄化魔法で戦わずして魔石となっていたようです。帰る間際にこっそり拾いに行ったんです。騎士団長に見つかるんじゃないかとドキドキしたんですからね」


 浄化の魔法の場合、瘴気を纏っている魔物の体は浄化されると消滅するため魔石しか残らないのだが、ちょうど術範囲の外に足が出ていたのだと思う。


 片脚は綺麗に残っていた。お土産にしようと思ったのだが、さすがに片脚を担いで馬車まで歩くと他の人にバレてしまうので泣く泣く爪を持って帰ってきたのだ。


 自分用には小さなオレンジの魔石。後で加工して指輪にして貰おうとポケットに入れてきた。


 スタンピード後の魔物は貴重な素材を得ることができる場であるため、貴重な物の持ち帰りは叱られるのだ。


 つまり、私の小さな魔石は見逃されるが、カルサル師団長のお土産は叱られてしまう。王宮魔導師であっても貴重な素材を手に入れることは難しい場合も多いのだ。


 ドラゴンマニアのカルサル師団長はこれで数日は機嫌が良くなるだろう。


「リア君、私は非常に感動してます!!」


 やはり上機嫌になっている。いや、上機嫌というより涙を流さんばかりに感動してくれている様子。


 上機嫌で書類もやっつけてくれたので時間が余り、私はのんびりとお茶を飲む事が出来た。


「そういえば、リア君。ウェスター・ラストールを知っていますか?」


 カルサル師団長が口からラストールという言葉が出てきたので驚いてお茶を吹いてしまった。


「カルサル師団長、突然どうしたのですか? ラストール公爵は知っていますが、ラストール家はマリーナ様しか居なかったはずですが……」


「ああ、そうですね。公爵家を継ぐはずだったマリーナは二年前に君に喧嘩を売って修道院の生活を送った後、王都に戻ってくるはずだった。


 ですが、あまり更生していなかったのでしょう。ラストール家の跡継ぎとして従兄弟のウェスターが養子となったようです。そのウェスター君が君に面会を求めて来ていました」


「カルサル師団長、私はウェスター・ラストール様に興味の欠片も無いので面会は拒否します」


 絶対嫌。折角離れたと思ったのにまた私に関わってくるのは何!?

 嫌がらせしてくるとしか思えないわ。

 彼らに関わる気など全くない。


 カルサル師団長はそれ以上何も言わなかったし、『分かりました』と一言だけ言って理由を聞こうともしなかった。




 祝賀会当日、私やモーラ医務官、討伐に出た騎士達は陛下から有難いお言葉を頂き、立食パーティーが始まった。


 パーティーといえば礼服にドレスだ。騎士達は式用の軍服で参加するのだが、何故か女性はドレスなのだとか。ぐぬぬ、解せぬ。


 私は渋々朝早くから起きた。


 メイジーは上機嫌で鼻歌交じりに髪を結い上げてドレスの準備までしてくれたおかげで可愛く仕上げてくれている。


 殿下はどうやら約束を守ってくれたらしく、会場の一角にはお肉が沢山積まれてあった。


 私が群がる騎士達を掻き分けて肉にありつこうと手を伸ばした時、その手はしっかりと繋がれてしまった。


 肉!

 私の肉!

 誰だ、邪魔した奴!


 掴まれた手から視線を上げるとそこにはディルクお兄様が微笑んでいた。


「お兄様……」

「なんだい? リア。まずは同伴している兄とダンスを踊るのが当たり前だぞ?」

「お兄様、私、に、にく『さっさと陛下に挨拶を済ませて、ファーストダンスを踊ってからにしようか』」


 兄は有無を言わさないぞ、と微笑んでいる。そうよね。未成年とはいえ、魔導師とはいえ、侯爵令嬢ではあるからね。


 兄に連行され、陛下の元に向かい挨拶する。


 舞踏会とは違い、祝賀会では爵位を持たない者もいるため、陛下への挨拶やダンスはしなくても良いのだけれど、どうやら連れて来るように、とお達しがあったらしい。


「ディルク・ノーツ、及びリア・ノーツ参りました」


 陛下に礼をすると陛下は上機嫌な様子で軽く頷いた。


「君が光魔法の使い手のリア侯爵令嬢か。今回のスタンピードでの活躍、報告を受けた。息子達が構いたくなる理由は分かるな。ワシは息子達からの良い報告を待つ事にする。ディルク君、ライアンの事を頼んだぞ」


 私と兄は陛下への挨拶を終え、そのままファーストダンスを踊る。


 やはり兄はダンスが上手いわ。こうして兄とダンスを踊りながら見回してみると、祝賀会はやや男の人が多い印象だ。


 今回の祝賀会での参加者は一名のみ同伴を許されている。


 参加している同伴者は婚約者か夫人達が多いようだが、中には関係者として参加している人達も一定数いる。参加している若い令嬢達は絶好の婿探しの場と捉えているようだ。


「リア、狼達の群れに一人仔羊としているのだから誘われるダンスが終わったらすぐに俺のところ戻り、俺から離れないように」

「もちろんです。お兄様」


 兄とのダンスが終わると待っていたかのようにライアン殿下が手を差し出す。


「麗しき姫、踊ってくれませんか」

「ええ、喜んで」


 私は殿下の手を取りダンスを始める。


「リア嬢、君と会って二年が経つけれど、益々綺麗になっていく。今日も一段と美しくて連れ去ってしまいたいな」


「ふふっ。ライアン殿下、嬉しいです。ライアン殿下は人を喜ばせるのがお上手ですね。ライアン殿下の周りには常に麗しい花々が咲き誇っているのもわかります。


 今日も兄から離れないように言い付けられています。

 ほらっ、既に可憐な花達がライアン殿下をお待ちの様子。ライアン殿下の独占はいけませんね。


 花々の棘に刺されないように私はそっと控えておきますね。ダンスを誘っていただき有難う御座いました」

「……そうだね」


 ライアン殿下もまだかまだかと待っている令嬢達を見て苦笑するしかないようだ。

 曲が終わると同時にライアン殿下は令嬢達にあっという間に囲まれた。令嬢達の勢いを見て若干引いてしまったのは内緒よ?


 王族目当てで同伴者の家族が来る事もあるのね。また一つ勉強になったわ。


 すると、後ろから声が掛かる。


「さぁ、リア君、踊りますよ」

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