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 カルサル師団長は私の額に手を翳し、淡い光と共に私は地面に崩れ落ちるところをカルサル師団長に支えられたようだ。つまり、強制的に寝て回復しろって事だった。


 モーラ医務官に起こされて気づいた。


 もう現地だと。


 カルサル師団長のおかげで魔力は回復したけれども、行き場のない感情を持て余してしまったのは仕方がないわよね。


 皆緊張して馬車に乗っているのに私だけいびきをかいていたんじゃないかと思うと居た堪れない。モーラ医務官は気にするなと笑っていたけれど恥ずかしい。



 私達医療班は村の南側に天幕が用意され、神官が結界で覆った。既に騎士団は戦闘の準備を終えて号令待ちのようだ。


 もちろん村人は避難しているので村内外は騎士達で物々しい雰囲気となっていた。


 そんな中、魔導師の一人が空へと飛び魔石を魔物の中心部へと投げ込む。眩い光の柱が合図だったようで一斉に騎士達は魔物に向かっていく。光の柱が次々に出来て怒声と共に魔物が消滅していく。


 今回のスタンピードでは魔物は少なかったらしく、浄化の魔石で半数以上は消滅したらしい。そうは言っても数百の魔物は残っていて騎士達が頑張って討伐している。


 私も後方で魔法を撃ち始めた。『浄化弾』という私のオリジナル魔法だ。水魔法のアクアショットに浄化魔法を混ぜたもの。


 浄化の魔法は範囲を指定してその場を浄化するか直接触れた物を浄化させる魔法なのだが、範囲魔法だと魔力消費が激しいため数回しか使えないし、魔力を押さえて魔物に直接触れるという事は私にとってリスクしかない。


 だが、水魔法初級のアクアショットならいくらでも撃つ事が出来るし、消費もあまり無いため敵の数が多い時に力を発揮するのだ。


 残念なことにアクアショットに混ぜられる浄化は少しだけで直接敵を倒す事は出来ないとカルサル師団長は言っていたが、弱体化はするのでドンドン撃てとも言われた。


 浄化弾は騎士に当たっても害は無く、水鉄砲で水を掛けられている程度らしい。


 私は乱れ撃ちと言わんばかりに敵に向けて撃つ。敵は動きを止めたり、怯んだりしている。その隙をつき騎士達は倒す。


 偶に怪我をした騎士に向けて『癒弾』を打って重症化を防ぐ。この『癒弾』も浄化弾と同じでアクアショットにヒールが混ざっているのだ。




 何時間戦っただろうか。私の魔力量も半分切ったところで最後の敵を倒す事ができた。


 騎士達も怪我人はいるが、重傷者はいないようだ。けれど私のせいで水も滴る男達ばかりになっていたのは言うまでもない。


 これは改善の余地ありね。


 戦闘を終えた余裕か水のせいで鎧を脱いだ騎士達の麗しい筋肉が服から浮き上がって見えている事に気が付いた。


 胸板、腹筋、上腕二頭筋!


 令嬢には刺激が強いけれど、眼福という言葉そのものね。そう思いながらもモーラ医務官の元へ向かった。


「モーラ医務官、ただいま戻りました」

「リア、よく頑張ったの。君のおかげでここに運ばれてくる重傷者はおらん。今回は楽な仕事をさせてもらった」


「騎士達に水浴びさせてしまったし、反省する点は多いです」

「あいつらはそんな事じゃ死なないし、気にすることはないぞ? さあ、帰還の準備に取り掛かるかの」

「はい!」


 他の医務官達も怪我人の治療を終えて帰る準備をしている。


 私もその中に交ざり、モーラ医務官の指示で馬車に荷物を運びこんでいた。すると、一人の魔導師が私に声を掛けてきたのだ。


「リア・ノーツさんですよね?」

「はい。私、リア・ノーツ王宮魔導師見習いです」


 敬礼をして先輩魔導師に答えると、先輩魔導師は近づいてきた。


「カルサル師団長から頼まれました。子供は睡眠が大事だから馬車で寝かせるようにと」


 そう言って手を翳された所までの記憶はある。


 またやーらーれーたー。


 またしてもモーラ医務官に起こされて気づけば王宮入り口だった。よく寝たわ。魔力もしっかり回復している。


 モーラ医務官は心配して王宮に泊まるように勧めてくれたけれど、早く帰って自分の部屋でゴロゴロしたいの。


 外はもう夕方になっており、荷物を置いたら帰宅しようと考えているとお兄様が迎えに来てくれていた。お兄様は私の顔を見るなり顔や頭を撫でてギュッと抱きしめてきた。


「リア! 大丈夫だったか? 怪我していないか?」

「ディルクお兄様、大丈夫です。そろそろ終業時間です。一緒に家に帰りましょう?」

「あぁ、そうだね。僕の荷物を取りに執務室へ寄ってから帰ろう」


 モーラ医務官からも帰りなさいと言われたのでお兄様の荷物を取りに一緒に執務室へ向かった。


 お兄様の執務室は相変わらず整理整頓がされていて仕事がしやすそうだわ、と思ったところで何故か兄の執務室に普段は居ない男の人達が視界に入ってきた。


 兄の執務室は基本的に兄を含めた側近四人が使用する執務室のはずなんだけど。


「アラン殿下、ライアン殿下。何故私の執務室でお茶を飲んでいるのですか?」


 お兄様の冷たい視線を気にした様子もないアラン殿下とライアン殿下。


「お帰り。ディルク、リア君」


 アラン殿下は笑顔で手を振り、私は素早く礼をする。


「リア君、君は今日のスタンピードが初陣だったんだってね。君が一番活躍をしたと報告が上がっているよ」


 アラン殿下は優雅にお茶を飲みながら褒めてくれた。


「アラン殿下、お褒めいただき有難う御座います。ですが、私は後方支援のみでした。一番の活躍は騎士団の皆様です」

「それでも充分だ。初陣で敵に怯えずにしっかり支援が出来るんだからリア嬢は凄いな」


 ええ、前世込みでスタンピード三回目ですから。口に出すことはないけれど、笑顔で応える。


「ライアン殿下、有難う御座います」

「それで思ったんだ。頑張ったリア君のために今度の休みに美味しい物をご馳走しよう。リア君はあまりドレスや勲章に興味が無いと聞いた。どうだろうか?」


 アラン殿下は笑顔で私に聞いてきた。いつのまに調べられていたの?

 きっと兄から聞いたのかもしれない。


 確かに働き出してから面倒でお茶会にも参加せず、舞踏会にも最低限でしか顔を出さないようにしていたのに。拒否権は無さそうなのよね。


「私よりもずっと最前線で戦っていた騎士団の皆様に美味しい食事(肉)と酒を振る舞っていただきたいと思います」


「リア君、その願いを聞き入れよう。君のお陰で怪我人も大幅に減り、費用を抑えることができた上、魔物の素材も沢山確保できたしな。


 感謝の意を込めて私はリア君には美味しい物を特別に食べさせたい。祝賀会は三日後に開くことにしよう。リア君は五日後から五日間の特別休暇を出すから一日目に王宮に来る様に」

「アラン殿下、了解致しました」


 そう告げた後、アラン殿下とライアン殿下はあっさり執務室を出て行ってしまった。


「お兄様、何だか疲れてしまいました。早く邸へ帰りましょう?」

「……ああ、そうだな。父上も母上も心配しているし、父上は今から忙しくなるから当分邸に帰ってこられないだろう。父上の執務室へ顔を出してから帰ろうか」


 お兄様と一緒にお父様の執務室へ顔を出すとお父様は駆け寄り、ぎゅっと抱きしめてきた。


 とても心配してくれていたみたい。


 お父様に殿下から食事の誘いを受けた事を報告すると、途端に渋ーい顔となった。


 私だって面倒く……ゴニョゴニョ。

 特別休暇は一人でゴロゴロと過ごしたい。


 ライアン殿下とは卒業してから会わなくなっていたのですっかり警戒するのを忘れていた。


 お兄様と邸に帰り、お母様に無事を告げるとお母様は泣きながらお帰りって抱きしめてくれた。


 やはり家族っていいものね。


 しみじみと感じてしまう。メイジーも大泣きで迎えてくれている。


 家族で少し遅い食事をした後、ベッドに寝転がった。私は村から王宮へ戻る時もぐっすりと寝ていたから寝られないかと思ったけれど、そうではなかったらしい。


 ベッドで即寝落ち。お休みなさい。


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