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次の日以降もカルサル師団長の書類整理から始まり、水魔法の訓練をする。
午後は身体欠損患者の治療とモーラ医務官のお手伝い。
週末は学院の課題取り組みと忙しい日々に追われて気づけば二年が経っていた。
私は相変わらず光魔法の方が長けているが、水魔法も難なく全て使いこなす事が出来るまでにはなった。
去年はライアン殿下と兄が学院を卒業し、兄は側近として本格的に王宮勤めが始まった。
ライアン殿下は何かと忙しいようだが、兄達側近や護衛の目を掻い潜り、街に降りて遊び歩いていると王宮内で噂が囁かれている。
最近の兄は眉間に皺を寄せながら帰宅する事が多くとても心配だ。
私はというと学院で会って以降、ライアン殿下からは全く誘いはなく、会う事もないので婚約者候補から外されたのだろうと安心している。
私も十六歳になり、来年で学院を卒業となる。
一応、未成年という理由と学生なので王宮住まいではなく、まだ実家から通っている。父も兄も王宮に住む事を反対しているのが本当の理由かもしれない。
もちろん婚約者もまだいない状態だ。釣書は沢山来ていると兄は話していたが。
それと、二年の間、私が医務室でほぼ毎日欠損患者を治療した事で騎士団への復帰者が大人数になり、第A騎士団が新たに創設された。
第A騎士団はサイモン様が団長となり、復帰した団員達を鍛え直し、各団に復帰させるための団だ。
サイモン団長の熱い指導や団員の忠誠心の高さからか団員達はエリート集団に並ぶ技量を身につけ復帰するため、復帰した人達は重宝されているのだという。
本日も私は変わらず午前は王宮魔導師補佐として、午後からはモーラ医務官を補佐しながら団員の治療を続けている。
最近では欠損患者は減り、騎士達の怪我や病気の治療も出来るようになってきた。
今更だけれどモーラ医務官は光魔法の使い手なの。彼は魔法で薬効を高めて治療を行う事を得意としている。
魔力量が少ないため、怪我や病気を直接治療するのには向かないのだとか。
そして薬の知識は国一番と言っても過言では無いほどだ。私は手伝うようになり、少しずつ覚えているがまだ軽い怪我用の軟膏を一人で作れるようになった程度でしかない。追いつく事は難しい。
そんな事を考えていると、突然棟全体に警報が鳴り響いた。
緊急魔法伝言鳥が医務室へ飛んできた。『レイク村南、スタンピード発生。至急準備を』モーラ医務官は急いで箱に詰めてある薬を確認する。
「リア君、今日は魔力をあまり使っていないね。一緒に現地へ向かう。心の準備はいいか?」
「モーラ医務官、私は大丈夫です」
私とモーラ医務官は台車に薬を乗せて騎士団訓練所へと向かう。
訓練所では既に第五騎士団から第十騎士団、第A騎士団、第二魔導師団が整列していた。
医務官はどうやら私とモーラ医務官、他の医務官の計五人。誰もが口を閉じ、緊張の糸が張られている。
何年かに一度起こるスタンピード。数千~数万程の魔物が湧いてくる現象で未だ解明はされていない。
リアとしてスタンピードに参加するのは初めてだが、リディスとしては過去二回程治療補助として参加した経験はある。死と隣り合わせになりながらも必死に怪我人を治療した経験を思い出して自分を鼓舞する。
……一人でも多くの怪我人を治療し、生きて帰る。
きっと現場での私の役割は治療と後方支援だ。この二年で水魔法もカルサル師団長から合格を貰った後、自分だけが使える魔法を編み出したの。
実際に試弾したのは数回程度だが、今回は活躍が出来るかしら。
騎士団が使用する魔石は事前にスタンピード用に大きな魔石が十数個用意され、私が浄化魔法を込めてこの日のために準備していたものだ。
魔石は魔物の核と呼ばれる物で赤色や青色など様々なものがあるが、特徴として魔力や魔法を貯め込むことが出来る。
そして魔力と小さな衝撃を加えることで魔石の中の魔法を使用することが出来るのだ。魔石の大きさにより、貯め込む量が違っている。
魔導師が攻撃魔法を込め、騎士が敵の群れに投げ込む場合もあるのだが、下手をすると発動した魔法で騎士が怪我をする可能性がある。
神殿にいる浄化魔法の使い手に頼むのが一番いいのだけど、かなりの高額になるため数に限りが出るのだとか。
お鉢は当然私に回ってくる訳ですね。
今回、神殿からの神官、聖女の二名の派遣があると知らせが来た。
レイク村まで丸一日掛かるらしく、騎士達は黙々と馬車に荷物を詰め込み乗り込んでいく。
私達も医務馬車に荷物を詰めて乗り込もうとした時、カルサル師団長が私の前に現れた。
カルサル師団長は第一魔導師師団長なので今回のスタンピードには参加しない。
「カルサル師団長。リア・ノーツ、治療員として行って参ります」
馬車前で礼をすると、カルサル師団長はいつになく鋭い表情で答える。
「リア君、後方支援を頑張ってくるように。きっと君の事だから緊張して現地に着くまでに満杯になる程の魔力回復は難しいでしょう。私が回復を手助けしますから目を閉じてください」
「? はい」
私はカルサル師団長の言葉を疑問に思うことなく素直に目を閉じた。




