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「リア! 王宮から使いが来た」


 父に呼ばれて急いで玄関ホールに向かうと、そこには一人の使者が立っていた。私が使者の前に立つと使者は紙を広げ、宣言する。


「リア・ノーツ侯爵令嬢。先日の試験結果は合格である。一週間後に王宮魔導師第一師団団長ニール・カルサルの元へ来ること。以上である」


 使者からもたらされた合格の言葉に嬉しさが込み上げてきた。


「お父様! お母様! お兄様! やったわ! 私、合格したわ!」


 私は嬉しさのあまりメイジーに抱きついた。


 これで父や兄と同じ王宮で働けるのね。兄はライアン殿下の側近だから来年からは王宮勤めになる。


 家族三人で王宮勤めって良い響きね。


 その日は家族に祝われて豪華な食事もして、人生で一番幸せだと感じたわ。



 翌日から王宮へ登城するまでの間は必死で魔法の練習をしたわ。少しでもへっぽこ具合を改善したいからね!


 カルサル魔導師師団長の元へ向かう日、母の勇ましい激励の後、父と兄の三人で馬車へ乗車した。


 王宮へ着くと、父は私のことが心配だと言いながら執務へ向かった。兄はというと、私をカルサル魔導師師団長の元へ送り届けてからライアン殿下の執務室へ向かうようだ。


 兄と私は魔導師棟へ入り、受付の魔導師にカルサル魔導師第一師団長に会いに来たと告げる。


「リア・ノーツ様ですね。しばらくお待ちください」

「お兄様、ここまで送っていただいてありがとうございます。あとは大丈夫です」

「そうか。何かあればすぐ俺か父を呼ぶように」

「はい」


 兄は心配そうにしていたけれど、ライアン殿下の執務室へ向かった。暫くしてから受付の魔導師の人が「こちらです」と案内してくれた。


 王宮に勤める魔導師は王宮魔導師と魔導師との二種に分かれていて、魔導師は魔力の量や技術的に一般の試験をクリアした者がなれる。


 王宮魔導師は更に魔力量が多い者や特殊魔法を使う者。そして知識、技量を自他共に認める程の実力者がなれる。


 私はもちろん魔導師からだと思う。特殊魔法と魔力量に関してはクリアしているとは思うのだけれど、技術も知識も足りていないのよね。


 魔導師は平民も多い。けれど、王宮魔導師になるには魔力量も必要となってくるのでやはり現状は貴族で占めている。


 受付の魔導師に案内されてカルサル魔導師師団長の執務室に着いた。特段、魔導師だからと部屋に幻術が掛けられている、ということはないらしく、極普通に書類が山積みにされている。


 ……山積みにされている。

 足の踏み場も無い程に。


「師団長、リア・ノーツ侯爵令嬢をお連れしました」


 輝かしい未来に胸を膨らませて来たけれど、急に不安になってきた。色々と。


「そこに座ってください」


 カルサル魔導師師団長の机にも山のような書類が積まれており、声だけが聞こえる。


 そこ?

 もしや、これはソファ?


 受付の魔導師さんもやれやれって顔をしているわ。


 私は書類をそっと移動させてなんとか座った。


 受付の魔導士さんはカルサル魔導師師団長の机の上に乗っている書類を床に避けて顔が見えるようにしていた。


 カルサル魔導師師団長は先ほどまで資料を読んでいたらしく、資料を片手に話をはじめた。


「リア君。君を待っていました。十四歳にして光魔法の使い手。君を騎士団の専属治療師として迎えたいと話も出ていましたが、私が捻じ伏せました。


 君は王宮魔導師として光魔法は合格だと思っていますが、水魔法はまだ年相応ですから当分は私の補佐として、王宮魔導師見習いとなります。明日からここが君の職場です。何か質問はありますか?」


「カルサル師団長様、私はまず何をすれば良いですか? 学院もどうするか聞いても良いですか?」


 この状況では色々と不安すぎる。


「学院には課題を提出するだけで出席を認めてくれるように手配しました。登校する時は王宮魔導師ローブを必ず着用するようにして下さい。


 あと、ここでの仕事は、まず、この部屋の書類整理になります。書類が片付き次第、考えましょう。君の父も兄も優秀な文官だと聞きました。君も優秀なのだから大丈夫。なんとかなります」


 え? この書類の山を!?

 なんて適当な人なの!?

 この職場、本当に大丈夫?


 キョロキョロと視線を泳がせた先に受付の魔導師の人と目が合った。彼は何も言わず小さく頷くだけ。皆まで言うなということなの!?


 それにしても学院で友達になったララ様とイリス様に会えなくなるのは少し残念だ。後で手紙を書く事にするわ。そういえば父の執務室へ行った事があるけれど、部屋は整理整頓されていた。


 そんな事を考えていると、カルサル師団長は自分の椅子から扉の前にストンと飛び移る。


「そうだ、これは貴方に支給されるローブとバッジです。外へ出る時は必ず着用するように。


 後日、制服は自宅へと送られます。本日は以上です。後は、少し書類整理を手伝ってから帰ってください」


 ええー。内心かなりビックリしているけれど、そこは貴族令嬢。顔には出さず、『分かりました』と書類を片付けていく。


 この書類の山どこから手を付けて良いのか分からないが、とりあえずは目につくもので通常の書類や少し猶予のある書類、緊急性の高い書類と分けていく。


 今日は挨拶をした後、すぐに帰宅すると思っていたのに。


 三時間ほど経った頃、師団長の部屋をノックする音がした。『入れ』の合図で扉が開くとそこに居たのは兄とアラン殿下だった。


 私はアラン殿下に向いて礼をする。


「続けてくれ」


 そう言われ、手を止めていた書類整理をまた行い始める。


「ニール、シウェル地方の開発はどうなっている?」


 アラン殿下はカルサル師団長と話し始めた。

 山になっている書類はたかだか三時間ほどの整理では焼け石に水といった感じだろう。


 ましてや私は書類整理の初心者。兄の視線を横目に黙々と書類を仕分けていく。


「ニール、リア嬢を借りるぞ。今日は彼女をそのまま帰宅させる。ああ、リア嬢の代わりにディルクを置いていくから書類整理はすぐ終わるだろう。


 知っていると思うが、ライアンからもぎ取ってきた文官でリア嬢の兄、王宮魔導師にもなれる程の優秀な者だ。感謝してくれ」



 兄がここに来た経緯はよく分からないけれど、アラン殿下に凄く褒められている。

 妹の私も鼻が高いわ。カルサル師団長は了解しました、とあっさり兄と交換を了承した。


「リア君、ではまた明日」

「カルサル師団長様、明日から宜しくお願いします」


 私は一礼してからアラン殿下と共に魔術師棟を後にする。

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