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プロローグ

宜しくお願いします。

過去作を改編しております。

「ローレンツ・ラストール、貴方はリディス・サルタンを妻とし、生涯愛する事を誓いますか?」

「……はい」

「リディス・サルタン、貴方はローレンツ・ラストールを夫とし、生涯愛する事を誓いますか?」

「はい」


 彼は誓いの言葉を言った後、ちらりと彼女に視線を向けた。

 その姿を見て私の心はまだ痛みを感じる。

 彼の心は私に向きはしない。


 今日は人生で一番私が輝く日。


 ウエディングドレスを着ているのは私。

 今日だけは主役でいたかった。

 私だけを見ていて欲しかった。


 なのにどうして?


 右の最前列には養父母の姿があり、養父は眉間に皺をよせ、養母は通路を挟んだ斜め後ろの席の人物を気にしながらも口元を扇子で隠している。左の最前列は私の義父母となる公爵夫妻が居心地悪そうに座っていた。


 私の夫となる彼、ローレンツ様の視線の先にはこの場に相応しいとは言い難い白と淡いピンクのレースをあしらったドレスを着たアイラ嬢の姿があった。


 どんなに私が努力しても、頑張っても誰も私をみない。


 私に向くことのない彼の視線に心が沈んでいく。


 ……もう、いいわよ、ね。


 笑顔の出席者の中に歪んだ強い視線が私を射貫いたが、私はそれを無視する形で一歩前に出た。


 彼は私の行動を不思議そうに見ている。

 これから私の起こす行動など考えもしないのだろう。


「ローレンツ様、ご出席の皆様方、本日私達の婚姻の儀にお集まり頂き有り難う御座いました。私、リディスは先ほど、夫となったローレンツ様を、ずっと、ずっとお慕いしておりました。


 ローレンツ様は私に嘘でも妻として誓ってくれた事、嬉しくて、私はっ、本当にっ、幸せな気持ちになり、ましたっ。けれどっ」


 涙が頬を伝い、声が震えて上手く声が出せない。


 会場に居る人達は何事かと一斉に静まり返り、私に視線を向けていた。


「式のひと月前にっ、突然。ローレンツ様は、真実の愛の相手、アイラ嬢にお子が出来たと。私はっ、ただっ、ローレンツ様と温かな家庭を作りたかった。慈しみ合える仲に、なりたかった。


 私の父さんと母さん、みたいなっ、仲良し、夫婦になりたかった。けれど、私は二人にとって邪魔者でしか、なかった。


 ローレンツ様から御子の話を聞いた時、辛くて、苦しくて、嫉妬に身を焦がしっ、どうすれば良いのか分かり、ませんでしたがっ、でも、今もこうして、見つめ合う二人をっ、想い合う二人をっ、見て覚悟は決まりました。


 私は、愛する二人を引き裂く悪者になりたくありません。


 どうか、どうか私の代わりに、そこに居るアイラ嬢を、女神シュエル様の元、ふ、夫婦として迎えてあげて下さい」


 私は嗚咽を上げ、涙ながらに言った。


「リ、リディス嬢っ」


 ローレンツは突然のことに驚き動けないでいる。静まり返った会場がざわりとどよめき始めた。


 私は周りのことを気にする余裕などなく、カタカタと震える手で隠し持っていた小さなナイフを取り出し、自分の胸に向け振り下ろす。


 胸の痛みに耐えきれず身体は崩れ落ち、絨毯がじわりと濃い赤に染まり始める。


 血が口からも零れだして息が出来ない。


 苦しい。

 誰かが何かを叫んでいるけれど、徐々に視界も霞み、音も聞き取れなくなってきた。


 もういいの、痛み、苦しみや嫉妬、憎しみの感情に身を焦すのは辛すぎる。

 もうあの二人を見ていたくないの。

 辛いの。

 生きていたくない。

 さよなら、愛しい人。


「ローレンツ様、さよな、ら」

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