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我が親友へ捧げる。ホロライブの愛  作者: リベンジャー
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第七話 悩める魂への鎮魂

この森を照らしていた日の光は沈み、静寂の夜と無表情な月を顔を出す。

もう約2ヶ月ここの夜を見てきたが、やはりなれそうにない。

前の私がどこでどのような夜を過ごし、どのように月を見ていたかは知らないがここは、村をドームの様に覆っている木々のせいでハッキリと月の全貌を見ることは出来ない。


月明かりが入りにくいとも言えるエルフの森は夜がくると、これが本物の夜なのかもしれないと感じさせられる程に暗く、静かになる。

だが、今日だけはいつもの静寂さを燃やす炎の光がエルフの森の一部を明るく、そして何処か寂しさを現しながら照らしていた。


「凄い...。」


私は目の前で轟々と力強く燃える炎に顔を焼かれながらも、その神々しさに目を奪われていた。


「この光は命の光。」


「おばあちゃん。」


「この炎は散った命を導き、神様の元へ届けてくれる聖なる火。我々エルフは同胞が亡くなると毎回皆でこの行事を行う。」


私の後ろから現れたおばあちゃんは炎を遠い眼差しで見つめて、この炎について教えてくれた。

エルフ達にとって『炎』とは希望や奇跡、新たな生命の誕生と命の灯を表しているらしい。

そして、散りゆく命もまた炎によって天に還される。


全員が順番に森の木の枝を炎に入れる。そして、その炎からローソクに火をつけて、名前を書いたランタンを空に飛ばす。

そして最後に被害者の親族達は炎を囲うように手を繋ぐ。

これがエルフ式の『鎮魂』の儀式なのだ。


ここでのルール。

それは絶対に泣いてはいけないと言うこと。

大切な人が亡くなって、それに対して泣いてしまうと魂が天に還りにくくなると信じられている。


だからこの場にいる誰もが目から涙を出してはいなかった。

下唇を噛み締めて必死に自分を抑え、ただ燃える炎を見る。そして飛んでゆくランタンがどうか神様の元へ無事に届くようにと祈る。

たとえそれが自分の家族であったとしても。


この場にいるさっきの女の子の横には母親と思える人物と片腕が無くなっている父親らしき人が立っていた。

あの腕は恐らく古傷であろうが頭に巻かれている包帯は今日の戦いで負った傷だろう。


周りを見渡せば末尾杖をついて足に包帯を巻いている者や何の外傷もない無事な者もいる。

だが、ここにいるのは全員ではない。

戦いで重症を負ってしまった者達は集中治療ということで避難場の建物内で医療班に治療を受けている。


私が聞いた数だと敵の数は全部で八人。

たったそれだけの人数に若い男エルフ達は一方的に蹂躙され、軽傷者、重症者、そして死者を出されてしまったのだ。


『ダークエルフではなく、狂ってしまった同胞達。』


この考えは恐らく正しいのだろう。

黒龍の瘴気によって精神を犯された被害者とその被害者によって殺されてしまった被害者。


被害者と被害者の殺しあい。

全員がこの考えは前向き的であるのは、意味のない殺し合いに少しでも意味のあるものに変えたかったからなのかもしれない。


では、だからこそ、その行き場のない怒りを何処に向ければいいんだ。

燃える玉座に鎮座する一匹の災厄に向けたところで何も変わらない現実に誰も文句が言えなかった。

涙を堪える皆の目に映っているのは絶望という名の怒りの不完全燃焼。

お互いに握り締めた手から、噛み締めた下唇から血を流していたが、心の傷はその外傷の痛みをかすめるには十分すぎる程に深かった。


ランタンはユラリユラリと浮上し、その数は散りゆく命と同じ数。

なのに、比例しない涙の数に私は悔しささえ覚えてしまった。


「こんなのっておかしいよ。」


「ああ、おかしいさ。...おかしいんじゃ。...おかしんじゃよ...!」


「おばあちゃん...。」


おばあちゃんはその場で杖を地面に突き刺そうとせん程に力強く握り締め鎮魂の炎を恨めしそうに睨んだ。


「何が鎮魂じゃ...。こんなのただの犬死じゃないか!」


歯を食い縛り憎悪に歪ませても涙を流す事はしない。それはきっと昔からの風習に体が覚えているからだろう。


「何よりもフレアが報われんのが辛いんじゃあ...。」


「フレアが?」


おばあちゃんの口から出てきたのはこの避難場所で見当たらない金の髪を持つエルフの少女の名前であり、私はハッとある事を思い出した。


「おばあちゃん、一つ聞いていい?」


「どうしてエルフの子供達はフレアの事を知らないの?」


私はあの後、不思議に思い、あの子以外の子供達にフレアの事を知っているかを聞いていた。

だけど、フレアの事どころか誰として名前すら知らなかった。


「容姿と特徴を言って、やっとあの子がフレアなのだと分かるレベルで皆は知らなかった。どうしてなの?」


「...フレアは幼い頃、可愛いぬいぐるみやお花が大好きな普通の女の子じゃった。」


私の問いにおばあちゃんは昔の記憶を掘り返すように目をつぶり空に広がる木々に顔を上げた。


「最初にも言ったがワシとフレアは血の繋がっていない。関係で言えば義理の孫と祖母じゃな。」


おばあちゃんは昔の回想を始め、その場を歩き、とうとう避難場所をあとにする。

私もそれにならって付いていくが何処を目指しているのかは分からない。


「あの子の母親はあの子と同様、立派にこの森を守る戦士一人で、父親もまたたくましい男であった。その間から産まれたフレアもその素質を受け継ぎ二人に負けない位の戦士になった。」


「じゃがフレアの両親はフレアを産んですぐに村長であるワシにあの子を預けて、たった二人で黒龍に立ち向かっていき、そして帰ってこなかった。」


淡々と語るおばあちゃんは見覚えのある道に差し掛かり突き当たりを右にそして、左に行くと、そこは私達の家であった。


おばあちゃんは迷うことなくドアノブを捻り家の中に入る。

しかし、おばあちゃんはリビングでもなく、二階でもない、何の変哲もない壁の前に立った。


そして、手を軽く壁に触れさせるとなんと壁がへこみ、下へ続く階段に繋がった。


「ついておいで』


「う、うん。」


そう振り返ったおばあちゃんは階段の下の闇へと姿を消し、私もまた動揺しつつもその背中を追いかけて階段を下りていった。

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