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我が親友へ捧げる。ホロライブの愛  作者: リベンジャー
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第六話 意味のない悲しき戦

「お、おばあちゃん...。」


フレアは汗を頬に滴し、捨てられた猫の様な顔でおばあちゃんを見る。


「落ち着きなさい。分かっておる。数は?」


「パッと見た感じやと八人。もしかしたらもっとおるかもしれん。」


ビルズはフレアの答えに苦虫を噛み潰したように顔を歪めて唸る。


「八人...。前よりも増えておるな。」


「うん。そんなに離れてへんから早く対応せな皆が危ない。私は先に行っとるから!」


「フ、フレア!」


「それと『あれ』も、ね。」


フレアはおばあちゃんの言葉を振り払ってその透明な羽を羽ばたかし、そう残して金の髪を揺らしながら猛スピードで飛んでいった。

何が起きているのか分からなかったが、今のおばあちゃんの顔と周りの皆の顔を見ているとただ事でないことは分かった。


「おばあちゃん。」


「皆、分かっておるじゃろうが奴らが攻めてきた。一刻も無駄には出来ん。まず、女、子供、病人を連れて避難場所に行くんじゃ。」


おばあちゃんはその場にいるエルフ達に呼び掛けて、命令に近い言葉で動かし、最後に力ない声でこう言った。


「すまぬが。男達は武器を持ってフレアを手伝ってもらいたい。」


その場にいるエルフ達は一瞬顔が強張るが、覚悟を決めていた様な顔でクワや鈍器の数々を手に取り、フレアが飛んでいった方向へ飛んだ。


おばあちゃんは『すまない。』と頭を下ろし涙を落とす。


「ヒュームちゃん、頭の方は?」


「うん。収まったけど、何が起きてるの?


「説明は後じゃ。フレア達が足止めをしてくれいるうちにワシらは避難を最優先で動こう。」


おばあちゃんの言う通りに私は教えられた避難場所に行くように大人達に呼び掛けて、保護者といなかった子供達を連れて避難場所へと歩みを進めた。


避難場所に向かっている時の皆の顔は険しく、悲しそうで、中には泣いている者までいた。

一緒に避難場所に向かっていた子供達のほとんどは両親を見つける事が出来たが、唯一残ってしまった小さな女の子までもその様子を見て不安にかられ泣き出しそうになっていた。


「パパ▪▪▪。」


何と戦っているのかは知らないが、この女の子の父親もまた戦へと向かった男性の一人なのだろう。

私は勇気を振り絞って女の子を抱く。


「大丈夫。大丈夫だから。」


部外者でなにも知らない人間から言われてもきっと説得力の欠片も無いことは自覚出来る。

それでも、少しでもこの子の安念に繋がるのなら。


その後女の子は段々と落ち着いていき、初めて私の目と合わせてくれた。


「お姉ちゃん誰?」


「私の名前は▪▪▪ヒューム。」


仮の名前であり本当の名前でないのに、そう答えることしか出来ない私は罪悪感を感じつつも自分ごと笑って誤魔化した。

女の子はその名前を聞くとパァーと顔を光らせる。


「皆がいい子って言ってたお姉ちゃん!」


「あはは。多分そうかも。」


自分よりも遥かに小さな女の子に『いい子』と言われると何だか少し恥ずかしい。


「お姉ちゃんは何処の人なの?」


「何処の▪▪▪。」


それは私自身が知りたい一つだけど、聞かれた相手に『何処ですか?』なんて間抜けな事は聞けなかった。


「ここから少し離れた人の村かな。」


『かな』と言う時点で言葉としておかしかったが幸い相手は小さな女の子、『そっかぁ』とだけいってこの話は終わった。

だけど、いつまでも逃げる訳にもいかない。

いつかは記憶を取り戻さなければいけない。ここがどれほど私を擁護しようとそれは私が進まない理由にはならない。

だからいつかは。


それから教えられた避難場所へ向かって歩いて二十分後。

ようやくそれらしき場所にたどり着いた。


多くのエルフ達がご年配の方達に案内されており、中は軽いパニック状態であった。


「お姉ちゃん。パパ大丈夫かなぁ?」


この様子を見てまた不安になってしまうのは仕方のない事だと思う。

何が起きているかは分からない私でさえ抱いてしまうぐらいだ。


「大丈夫だよ。皆がいるから。」


「うん!」


女の子はまた、花を咲かせる。更に私は女の子を安心させるためにフレアが飛んでいった方向に目線を送って。


「それにフレアお姉ちゃんがきっとどうにかしてくれるばずだよ。」


『ね』っと顔で表現し、女の子に向けると。女の子は眉を八の字に変えて、首を傾げた。


「フレアお姉ちゃんって誰?」


時が止まった。

女の子が嘘をついているようには見えない。だが、おばあちゃんの話によればフレアは今も前線で私たちの為に戦っている。

犠牲者は出しつつも、まだ知らぬ驚異から幾度もエルフの森を救ってきた。


その彼女を知らない子供がいる?まだ幼い子供だからと理由になるだろうか?

それに、私の事を皆の口から聞いているのなら少しくらいはフレアの話だって聞いているはずだ。なのになぜ?


『ドォォォーーン▪▪▪』


突然遠くから響いてきた何が崩れ落ちる音に私たち二人の意識は持っていかれる。


(何が崩れた?それに煙の様なものも見える。何かがあったんだ。)


「ヒュームちゃん!」


私が音の方向を睨んでいると後ろから聞きなれた声色で呼ばれた。

相手はおばあちゃんだった。


「よかった。遅かったから何かあったのかと。おや、その子は。」


おばあちゃんは女の子に気が付いて、そっと頭に手を添えて撫でる。


「さっき、お母さんが心配で探してたよ。ほらお母さんの元に行っておいで。」


流石は長。この森の家族構成を全て頭に入れているようだ。女の子は名残惜しそうに私の手を放し、『ありがとう』とだけ残して母親の元へ走っていった。



「おばあちゃん、さっきの音は。」


「分かっている。それも含めて見せてあげよう。」


そう言われて連れてもらったのは、避難場所にある高台の上。

エルフの森が見渡せる。

そして、やはりあそこから煙が立っているのは間違いではなかったようだ。


「これを覗いてごらん。」


その高台にある双眼鏡を覗くと。あそこで起きている全ての事を確認できた。


煙が出ているのは、エルフ森を防いでいた木で出来た壁が崩れているのが原因だった。

その近くで倒れている男性のエルフ達とまだ武器を持って何かに立ち向かっているエルフ達。

そして。


「何▪▪▪あれ。」


私は言葉を失った。

絶句した。

それは正にトラウマレベルのものだった。


「見つけたかの?それがワシらの狂ってしまった同胞達じゃよ。」


肌は火傷のようにただれてしまっており、全身から血が噴き出て、体には無数の矢が突き刺さっていた。

なのに体を何かに乗っ取られているかのようにその存在は暴れまわっている。


「ワシらは昔からいつ襲ってくるかも知れぬ同胞達に怯えながら生きていた。」


「あれが世に言う『ダークエルフ』と言うもののなの?」


「ヒュームちゃん。」


呼ばれて目線を向けた私をおばあちゃんは強く睨み付けていた。

だけどそれは私に向けての憎悪ではないことをすぐに察する事が出来た。


「それは断じて違う。」


その目がいままで見てきたおばあちゃんの目の中で一番ひたすらに真っ直ぐだったからだ。


「ダークエルフはおのが自ら悪に心を染めた者。あのもの達はワシらを襲いたくて襲っているのではない。ああ、なってしまったとしてもあのもの達はワシらの『同胞』じゃ!だからこれ以上屍を晒すようなことはさせない為にワシらの手で送ってあげるんじゃよ。」


森の風が軽く私の髪を撫で、この森で起きている悲しい運命に緊張感を感じさせた。

その数十分後、多くの犠牲者を出したが我々の勝利で幕を閉じた。

だが、誰もこの戦いに意味など見いだせなかった。

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