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我が親友へ捧げる。ホロライブの愛  作者: リベンジャー
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第五話 黒龍

「さて、荷物は括りつけたかい?」


「はい。これで全部です。」


昨日収穫した野菜と果実を乗せて、上にシートをしき私は引き車を引き、おばあちゃんが後ろから押す。


『何かを忘れてはいないか?』


と誰かから唐突に聞かれることがある。

今、これを話そうと思ったきっかけは、配達に必要な物を忘れていないだろうかと思ったからだ。

その声の主も分からず、自分が何処に立っているのかも分からない暗闇の世界で尋ねられる。

悪夢ではないはずなのに、その夢から覚めると悔しさと不甲斐ない気持ちが溢れる。


記憶が無くなっている事はなんとなくだけど、分かっている。

皆が気を遣ってくれている事も。

だけど、ここで皆と過ごしていく内に、別に無理して思い出さなくてもいいのではないかと思ってしまうほどにここの生活は快適だった。


その夢はそんな私を否定するように訪れる。

幸せを与えないようとするかのように。


(私は、何か大切な事を忘れているのではないだろうか。)


既に何軒か配達を終え残りの配達箇所に向かっていた私はボーッと見上げた木の葉の隙間からこぼれる日の光に目を細める。

何気なく見上げた木々に私はある黒い靄のような物を見つける。

靄はその部分の木を覆い隠し、その部分だけが異世界のように感じた。


「あれは何ですか?」


「ん?ああ、あれは黒龍の瘴気じゃよ。」


「黒龍の瘴気?」


荷車を押すおばあちゃんの声が低くなって、その生態を説明する。


「今から数千年も前の事、まだワシも産まれていない大昔。伝承によれば『世界の災厄』と呼ばれている黒龍はこのエルフの森に瘴気を放ち飛びさったと言われている。」


何処かで聞いたことのある『黒龍』と言う単語に私は首を傾げつつも霧散する。


「その黒龍と言うのはどういった災厄なんですか?」


ビルズは少し期待していた分、彼女に見えないように、聞こえないように笑って自分自身を誤魔化す。


「黒龍はエルフの森から少し離れた『煉獄の森』に住んでいる一匹の龍じゃ。伝承にはその存在が世界を滅ぼす災厄と書かれている。」


話しよればその黒龍と言う存在が残した瘴気は人の神経に干渉し、その者の心を殺し、狂気に変貌させるらしい。


「ワシとフレアはその狂気に陥った同胞達から同胞を守らなくてはいけないのじゃ。」


昨日の帰り道でフレアが言いにくそうに隠していたのはきっとこの話しなのだろう。

いや、おばあちゃんが話してくれたと言うことは『隠していた』と言うよりも言えなかった方が近いのかも知れない。

誰だって自分の同族を殺めている事を口に出したくはないだろう。


『皆を守る為に。』


その志しの中にある苦しみはきっと簡単に立ち入ってはいけないものであり、その大義の重圧は計り知れなく、あの年の女の子が背負える物ではないのに。

それに、それだけで頑張れる程その責任は軽いものではない。


(あれ?何で私、そんなこと分かるんだろう?)


「うっ!」


そう思った私は突然襲われた頭痛に荷車から手を離し、頭を押さえて座り込む。


「ヒュームちゃん!大丈夫かい!?」


異変を感じ取ったおばあちゃんが後ろから走ってきて、私の背中に手を置いてさする。


頭が燃えるように熱くなり、鈍器で殴られたような激痛が響き、視界が揺らぐ。

激痛に細める目を何とか片方だけ開けて、辺りを見渡せば、座り込む私に、おばあちゃん同様に走ってくるエルフ達が見えた。


だが、閉じた片方の目には違う世界が映っていた。


「に...げて...。」


「...?」


ビルズは少女の声を聞き取れなかった。

苦しむ少女は激痛に耐えきれず両目を閉じてしまう。


『キャーーー!』

『逃げろ!!』

『早く避難するんだ!!』


その世界には燃えるエルフの森と倒れ込む者に逃げ回る者達とそれを呆然と立ち尽くす自分自身

と燃える炎の中で弓を放つ一人のエルフの影。

必死に伸ばす手が届かず、その影もまた炎に包まれる。


「は!はぁ、はぁはぁ。」


映像がコンセントを抜かれたように遮断され私の意識は現実へと戻された。


「もしかしてヒュームちゃん、何かを思い出したのかい?」


肩で息をする私はおばあちゃんの問いに首を横に振る。

それよりも自分が見たあの景色が何だったのかが脳内をかき乱す。

皆の悲鳴と建物が燃える景色、何かを思い出した訳ではないが彼女は確かにその光景を何処かで見ているはずだった。


だけど思い出せない。

なのに溢れる後悔と不甲斐なさが更に私を惑わす。

全身に残った傷跡がズキズキと痛み、嫌な予感に胸騒ぎする。


「おばあちゃーーーーん!!!」


そして、それは的中だと言わんばかりに一人のエルフが金の髪を乱しながら飛んできた。

慌ただしい彼女は私に目もくれず、おばあちゃんの前に降り立つ。


その様子を息を整えながら見ていた私であったが今の胸騒ぎと相まってただ事ではない事は大体予想がついた。


「お、おばあちゃん...!」


困り顔のフレアにおばあちゃんは何かを察したかのように緊張感のある神妙な顔立ちで口を開いた。


「...分かった。」

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