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我が親友へ捧げる。ホロライブの愛  作者: リベンジャー
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第四和 運命の子

「ヒュームちゃん、こっちは終わったから後は任せてもいいかな?」

「分かりました!お疲れ様です!」


あれから更に一ヶ月。

傷の痛みも疲労感もすっかり治った私は、私を看病してくれるにあたって世話になった人々の仕事の手伝いをしていた。


今は収穫し終わった田んぼや畑の耕しとして毎日桑を降っている。

土仕事とは以外にも重労働で、少し耕すだけでもかなりの体力を消耗する。


だが、それは逆に言えば、体力を取り戻すにはもってこいの作業だった。

改めて自分の体を見て分かった事は、自分には意外と筋肉が付いていることと、落ちているであろう体力も意外とあると言うこと。


未だに記憶をなくす前の自分が何をしていたかは分からないけど、仕事のほとんどが土仕事のエルフへの恩返しにこの体は便利だった。


ちなみに『ヒュームちゃん』と言うのは私の仮の名前だ。

『人間』と言う意味で付けてくれたのだろうけど、そう思うとなんだかおかしな感覚を覚える。


「よし、こんなものかな。」


耕し終わった六列にやりきった感を出しながら頷いていると。


「おーい、ヒュームー。」


空から飛んできたのは褐色の肌と金髪の髪を持つエルフの少女フレアだった。


「今終わったん?」


「今日の所は、だけどね。」


「じゃあ、一緒に帰ろー。」


私は桑の先端に付いていた土を払って担ぎ、フレアの横に立って歩いた。


「仕事にはもう慣れたん?」


「うん。1ヶ月近くやってるからね。今では、重要な仕事もやらせてもらってる。」


「まぁ、皆からよくやってくれてるって聞いとるから心配はしてなかったけどなぁ。それなら良かった。」


「フレアは毎日何をしてるの?」


私はフレアがいつも家を出ていく時に背負っている弓を見て何気なく聞いた。


「んー。ま、森の護衛ってとこかな?森を一周して、安全を確認してるんや。」


「それって猛獣とかから?」


「猛獣▪▪▪。うーん。ま、そんなところかな。」


フレアの口から深くは聞けなかったが、何かを隠しているのは一目瞭然だった。

だけど、フレアが言わないのなら私も深くは聞くつもりはない。

もし、それがきっかけで息が詰まる空気になるのも嫌だったからだ。


フレアが守っていると言うこの森はかなりの大きさを誇っており、1日で一周するのは常に木々を素早く渡りる事が要求される。

それを毎日やっていると言うのだから対したものだ。

見た感じフレアは身軽そうではあるが、体が丈夫そうには見えない。

この場合、私の体と見比べての話ではあるが。


そうこうやっている内に家に着いた私達は引き戸を引いて家に入る。

すると、中から匂うのは濃厚なミルクを煮ているようないい匂い。

1日中動かして疲労している体がその匂いを求めてヨダレが垂れる。

今夜はシチューのようだ。


「あら、二人ともお帰り。」


「ただいまおばあちゃん。」


「今戻りました。」


ビルズは二人の顔を見て満足そうに頷いた。

私達は台所で手を洗い、先にフレア、後に私がお風呂に入って、食卓に座った。


「ヒュームちゃん、今日はどうじゃった?」


ビルズおばあちゃんに聞かれた私は口回りに付いたシチューを拭き取った。


「今日は野菜の収穫をした後、畑を耕しました。」


「そうか、そうか。お主の働きぶりは皆が喜んでおっての、ワシも鼻が高いよ。」


フレアから聞いていた事ではあったが、おばあちゃんの嬉しそうな顔を見ていると頬が緩む。


「明日はその出来た野菜を配達して欲しいようじゃから、ちょっと力仕事になるかもしれんがよろしく頼むよ。」


「はい。おばあちゃん。」


私はお椀に入れられたシチューと添えられていたパンを全て食べてしまい。手を合わせた。

起きたばかりの時は食事もまともにとれない程食欲が湧かなかったが今では誰よりも食べられるようになった。


最近はあまり食べないようにと、気を遣っているとおばあちゃんにバレてしまい、逆に怒られてしまった。

それからは遠慮なく食べているが、おばあちゃん曰くその姿を見ていると元気をもらえるのだとか。


そんな思い出を脳裏に映しているとフレアがニヤニヤしている事に気が付いた。


「どうしたの?」


「いや、もう私の手助けはいらないなぁって。」


そう言われた時、私の顔は真っ赤にボッと燃え上がる。

私が意識を失っていた時、一人では食事を取れずにいた。

食事を取れないとは即ち死に近づくと言うこと。

回復するのにもまずは栄養が無いと話にならない。だけど、口に入れようとしても受け付けなかった私の口は匙では粥をこぼしていた。


つまりはそう言うことだ。


「もう、いいでしょ!その話は!明日も早いからもう寝るね!お休み!」


「照れんでもええやん。」


「照れてないもん!」


ニヤニヤしているフレアの顔に少し腹を立てつつ私は真っ赤な顔で廊下に出て、唇に指を当てて、部屋に入っていった。


居間に流れる静かな空気の中、食後のコーヒーを飲む二人のエルフは静かに口を開く。


「さてと、今日はどうじゃった?」


「森の周辺に怪しい影は無かったんやけど、また行方不明者がでたらしい。」


「黒龍の瘴気か。全く厄介な物を残しておきおってからに。」


ビルズはその単語を憎らしそうに顔を歪めて言う。


「黒龍。やっぱりあの子と関係があるんかな?」


あの子、これを指す人物は一人しかおらずビルズは深くは頷く。


「フレアも知っておるじゃろ?この近くを通る人間達は間違いなく黒龍を討伐しようとしている。あの子が流れてきた川はこれまでも敗北者の残骸が流れてきた。」


フレアは何かを思い出すように眉を中心によせて頷き、ビルズはそれに、と付け加え立ち上がる。


「あの子の肉体は、今では分からん程に衰退してしまったが、女性の体を超越したものじゃった。きっと何かの関係者で間違いはない。」


ビルズが取り出してきたのは、刃の無い剣の柄。


「もし、記憶が戻ったらそれ何て説明する?多分ショック受けると思うけど。」


その質問にビルズは、少し広角を上げて笑う。


「フレアはおかしいと思わんか?」


フレアはビルズの唐突の質問に眉と首を曲げる。


「この剣。本当に柄しかないんじゃぞ?まるで、これが本来の姿だと言わんばかりにな。」


ビルズは剣の柄をマジマジと覗き込み、睨む。


「もしかすると、あの子がこの森に来たのは運命なのかも知れぬ。」


「運命って、おばあちゃんが一番信じてなさそうな事やん。」


「そうじゃ。だからこそ、胸騒ぎがする。フレア。お主は明日も明後日もこれからの未来も、この森と皆を守るのじゃ。良いな?」


「そ、それは、任せてもらってええけど。おばあちゃんどないしたん?」


ビルズはその答えに満足そうに笑うと『いや。』と言って、立ち上がり、自室へ向かい、振り返る。


「明日から、あの子の記憶を少しずつ刺激する。」


フレアは目を見開くが、平常心を保つ。


「ええん?」


「そうしないとダメだと言われておる気がするんじゃ。」


それだけを残し、ビルズは居間に繋がっている自室の戸を開く。

一人残ったフレアは、ビルズの言う胸騒ぎと言う単語こそに嫌な胸騒ぎを感じていた。

今まではあのような事を言う人では無かったからこその話である。


そんな不安を払拭するようにコップに入ったお茶を一気にあおいだフレアは、居間の電気を消して、その場を後にするのであった。

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