第二話 戦姫とエルフ
ここは何処だろうか。
フワフワと体が飛んでいる感覚に包まれて私は真っ暗な世界で目を開ける。
見渡す限りそこには何もなくただ、虚無が全てを現していた。
飛んでいるからだろうか、思うように体が動かない。
(私はここで何をしているのだろう▪▪▪。)
何も理解できない世界で意味もなくそう、頭に浮かべた瞬間、一つの光が私の前に現れる。
白い髪の毛に自慢の紋章を掲げた服から飛び出しそうな程の豊満な胸。
纏っている甲冑が鈍く光を反射する。
私だった。
だけど私ではない。そう思うのは、私自身が私であるからだ。
じゃあ、あれは誰なのだろうか。
その存在は何度かその場でクルクルと回ってから私に向かって手を振った。
そして、後ろの光に向かって歩き出す。
その光景に胸騒ぎがした私はその存在に大きく手を伸ばす。
『待って!ちょっと!ま、待ってよ!!』
追いかけようと持ち上げた足の地面が崩れ落ちて私は真っ暗な奈落に落ちていき。
「ハッ!!」
襲われた浮遊感に体を飛び起こした。
はぁ、はぁ、と肩で息をしている私を窓からさし照らす太陽の光が顎の下に溜まる汗を反射して私の上にかかっていた布団の上に落ちた。
開いた窓から吹くそよ風が髪をなびかせ、かいた汗を少しずつ冷やしていく。
訳も分からず体を動かそうとすると『ピキッ』と甲高い音がなり、脇腹に激痛が走る。
反射的に脇腹に手を当てると、腰に巻かれている布の存在に気がついた。
(草の...包帯?)
それだけではなく、腕にも頭にも同じ様な包帯がグルグルに巻かれていた。
部屋の中に広がる植物的な香りが心を落ち着かせて、ゆっくりと周りを見渡せた。
私が横になっているベッドの側には小さなテーブルの上に水分が多い粥と磨り潰された緑の物体が小鉢に入っていた。
何も分からない私でもその少しの情報だけで自分がどのような立場なのか理解出来てきた。
だけど、どうして自分がその立場なのか思い出せなかった。
部屋の中を照らすのは太陽だけでなく、その光を吸収し光るヒマワリの花。
床から生える大きな葉っぱは、茎の真ん中部分から折れ曲がり椅子の形になっている。
その側にあった木のテーブルの上に炊かれているお香がこの落ち着くような香りを出している正体なのだと気が付く。
今落ち着いているからこそ、分かったが、この部屋にある全てが植物で出来ていた。
そうなれば次に感じることは。
「ここは、どこなんだろう?」
と言うことであったのだが、その思考は同時に『ガッシャーン!』と横から殴られた様な落下音にかき消された。
体を大きく上下させ、向けた目線の先には。
後ろで1本にくくっている金の髪に少しつり上がった赤色の瞳。褐色の肌に纏っているのは和服仕様の着物。
そして、何より目を惹かれたのは、横にスーっと伸びたその種族の象徴である耳。
あまりにの美しさに私の頬は赤く火照り、目を奪われ、無意識に彼女の種族を口に出していた。
「エ、エルフ...?」
こうして運命は戦姫とエルフを繋ぎ合わせる。