第一話 白昼の夢へと少女は散る
そこを場所で例えろと言うのであれば『地獄』と言うのが最も合っているのではないかと私は思う。
燃え続ける大地に植物の焦げた匂い、体全身が燃える様に熱いのに、不安な心が冷たい感情を呼び起こす。
それが『死』なのかと聞かれれば、きっとはいと答えるだろう。
私は負けたのだ。
世界を賭けた、人々の命と未来を賭けた戦いに。
惨めに、虫を払う様に、今までの努力を否定された。
武器が目の前に落ちていて、手を伸ばせば届く距離にあるのに体がいう事を聞いてくれない。
(悔しいなぁ・・・。)
熱さで朦朧とする意識の中でやっと頭に浮かべられた言葉はそれだけだった。
流れる涙が地面に着いて煙になっていとも簡単に蒸発する。
まるで今の私の様に。
「つまらん。実につまらん。」
空気が振動し灼熱の熱風が燃える炎を躍らす。
「下級の生物である『人間』であれど聖騎士王と聞いて期待はしていたのだが。まったくもって期待外れで残念だよ。残念過ぎて腹が立つ位にな。」
私が倒すべき相手の邪悪な声が空を脅し、大地を奮えさせ、湖を殺す。
「退屈な時間が一万年続けば世界を滅ぼす私のお遊びを本気で止めようとした短き命よ。お前が大人しくしていれば後一年は生きていけたものを。愚かな。」
残りの時間。
あとたった一年で世界はこの場所の様に燃えあがる。これだけじゃ済まない。
人々の悲鳴、建物が崩れ落ちる音、幸せが、平和が壊れる音。
この世は本当の地獄と化す。
それを私は死んでも止めなければいけない。
少なくともここまで付いてきてくれて、散っていったみんなの為にも。
『負けられない。』
私は焼け付く地面から体を押し上げて突き刺さった大剣の柄を握る。
『絶対に!』
「何度も壁にぶつかりながら立ち上がる。人間の美学だな。だが。」
走り出そうとしたその時には既に、私の体は世界に轟く炸裂音の大地を抉る火球に包まれて、考えていた誇り、怒り、英雄が背負う責任感の全てが真っ白になった頭と共に飛んでいった。
「それもまた実に愚かな事。勇敢だけでは俺の退屈しのぎにもならん。永久に眠れ。英雄にも勇者にもなれなかった哀れな人間よ。」
黒煙の中から出てきた大きな黄緑色の目玉はゆっくりと閉じて、大きな影は黒く同色し姿を消した。
その場に出来たクレーター内の炎だけがずっとメラメラと燃えていた。