付喪神 【月夜譚No.8】
あの蔵には、人間に忘れられたモノ達が仕舞われている。
幼い頃は蔵にはあまり近寄らなかった。蔵の中に積み上がった木箱の隙間から小さな話し声やクスクスと笑い合う声がして、怖かったのだ。おまけにそれは他の家族には聞こえないとくれば、近づきたくもなくなるだろう。
しかし、今はその声達を聞くのが楽しみになっていた。こうして蔵の外壁に背を預けて座っているだけで、明り取りから小さな声が流れ出てくる。自分が生まれるずっと前の話を、声は聞かせてくれる。まあ、声の主は聞かせるつもりなど毛頭ないのだろうが。
その姿を見たわけではないが、声の主はきっと付喪神であろうと睨んでいる。何せこの蔵は江戸時代に建てられたもので、中には相当古い物ばかりが押し込められているのだ。
小さな声に耳を傾けながら、そっと目を閉じる。いつか彼等の姿をこの目にすることを願いながら、今はただ漏れ聞こえる声を楽しむつもりだった。




