表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

異世界と召喚魔術のこと

筆頭魔術師、ちゃんと優秀です。筆頭ですから。

「カーン様、聖女様が近いうちにお時間が取れますかとのことですが……」

 花乃子が聖女について調べ始めて、3週間近くが経過した。そんなある日、仕事中の筆頭魔術師の元に、花乃子の手伝いを務めているウィーロがやってきた。


「カノコ殿が? 何かありましたか」

「筆頭に確認したいことがおありだそうです。僕では、聖女様のお役に立てなくて」

「ふむ。では、明日の午後……そうだな、昼食後に伺うと伝えてください」

「かしこまりました」

 頭を下げて去ろうとしたウィーロに、筆頭魔術師が声をかける。

「カノコ殿は、聖女と呼ばれるのを嫌がるでしょう」

「ご本人には言いませんよ。でも、僕にとってはやっぱり聖女様なので」

 ほんのり頬を赤らめ、ニコリと笑って去っていく弟子の後姿を眺めて、(カノコ殿は、意外と人たらしらしい)と思いながら仕事に戻った。


  ◇◇◇


 そして翌日。花乃子が調べ物のために使っている図書室の中にある小部屋に、筆頭魔術師がやってきた。


「あー、ヨウさん。私の方から出向くつもりだったのに、申し訳ない」

「いいえ、お気になさらず……おや、ウィーロが居ないようですが」

「ああ、ウィーロくんはさっき、休憩に入ってもらったの。ちょうど、私のところの侍女のカリンさんが昼食を持ってきてくれたし」

「カリン……というと、トーウ男爵のお嬢さんですね」

「そ。良いお嬢さんなの」

 花乃子が浮かべたやわらかい笑みに、筆頭魔術師はなるほど、と思う。

「最近、ウィーロの顔色が良いのは、ちゃんと食事を摂っているからだったんですね」

「…………ヨウさん、それボケ?」

「え?」

「……ま、いいか」


 近いうちに報告するだろうしとつぶやきながら、花乃子は1枚の紙を筆頭魔術師に見せる。そこに書かれているのは、代々の聖女の名前と容姿の特徴。

「これは……」

「付け加えて言うと、名前の横にチェックが入っているのは、恐らくだけど私の世界の人と思われる聖女」

「え……三分の一ぐらいじゃありませんか!」

「私もびっくりした。でも、名前もそうだけど、髪の色が生まれつきヨウさんみたいな濃い紫とか、緑や青の人間って、私の世界では考えられないの。そうなると、聖女って複数の世界からやってきてる可能性が高い。他の世界が、いくつあるかはわからないけど」

「それは……思いもよりませんでした。どうして、そんなことが……」

「私の世界にある物語の中に、いくつもの世界が並んでいるっていう設定のものがあったわよ。その物語では、隣りあった世界はよく似ていて、主人公とほんの少し違うだけのそっくりな人間が存在しているって設定だったけど。でも、ここと私の世界では、その発想は全く当てはまらないわね」

「カノコ殿の世界には、すごい物語があるのですね……」


 驚く筆頭魔術師に、花乃子はさらに続ける。


「でね、確認したいのは、召喚の方法って1種類だけなのかってこと」

「どういうことでしょう?」

「つまり、人によってやり方が違うとか……」

「それはないですね。召喚の魔術は、完成された術式……召喚の間に書かれた術式と、厳密に定められた詠唱によって行われます。方法を確立した魔術師が詳細に書き残したものに従っていますので、私の場合も、過去の召喚も全て同じです」

「そう……。じゃあ、世界って動いていて、お互いにくっついたり離れたりしているのかしら。で、召喚する時に、たまたま近くにある世界から呼ばれるとか」

「ちょ、ちょっと待ってください。頭がくらくらしてきました」

「あー、混乱させてごめんね。そういえば、召喚の方法を完成させた魔術師って、ヨウさんのご先祖なんだってね」

「あ、はい、そうです。クーリヨといいました。もともと、我が家は魔術師を輩出することが多い家系ですが、後にも先にも、彼が最高の実力者でしょう」

「ヨウさんだって、筆頭じゃない」

「いやいや、私など足元にも及びませんよ。彼ならば、カノコ殿を元の世界に戻して差し上げられたかもしれませんが……」

「それは、どうかな……と思うわ」

「え?」

「仮に戻す方法があったとしても、確実に私の居た世界に戻れる保証はないんじゃない? 召喚する方法は統一されているのに、異世界は一つじゃないんだもの。更に別の世界に飛ばされる可能性があるし、その場合、どういう扱いを受けるかわからない。リスクが高過ぎる」

「あ……」


 言葉を失ったらしい筆頭魔術師に向かって、花乃子は苦い笑いを浮かべる。


「つまり、戻れる可能性は限りなく低いってこと。」

「……申し訳ありません」

「謝らないでよ。ヨウさんは自分の仕事をしただけでしょ」

「それでも、」

「止めよう? 私も覚悟を決めなきゃってわかったから」


  ◇◇◇


 その日を最後に、花乃子の聖女関連の調査は終了した。図書室の小部屋は片付けられ、ウィーロもお役御免となり、本来の仕事に戻った。

 だが、筆頭魔術師は異世界からの聖女の召喚は花乃子で最後にしようと、瘴気の浄化を今後の研究課題とすることを国王に進言し、了承された。

異世界設定って、深く考えると自分の首を絞めるな……と思う、今日この頃です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ