【番外編】男たちのこと
なかなか進まないのに番外編を入れてしまうという……。
深更、男たちが酒を酌み交わしている。居るのは宰相と筆頭魔術師、それに騎士団長。場所は、王宮の中に設けられた、宰相の執務室に付随する休憩用の部屋。広すぎず狭すぎず、話をするのにちょうど良い。
国王とも年が近く、少年の頃から側近として互いに切磋琢磨してきた彼らは、時折、こういうちょっとした飲み会を催していた。息抜きでもあり、情報交換の場でもある。
「今回の聖女召喚が、こういう状況になったのは何故なんだろうな」
部屋の主でもある宰相が、琥珀色の蒸留酒を一口、こくりと飲んでつぶやいた。
「こういう、とは?」
「過去の聖女は、そろって少女とも言える年の若い者ばかりだったというじゃないか。それが、今回に限り……だろう? 王太子が、何であの人なんですかーと俺に泣きついてきたぞ」
くつくつと笑う宰相に、騎士団長は不満げに息を吐く。
「何を夢見てたんだ」
「そりゃ、先々代のことがあるからでしょう。わたしは、カノコ殿が招かれたのは、何か意味があると思ってますが」
「あの説教を喰らって、それを言えるおまえはすごいよ。……で、召喚の儀式の時に、おまえが特別に手を加えたってことはないのか?」
「まさか! 召喚は特別な術式で、筆頭たるわたしが全力でようやく扱えるものですよ。手を加えるなんて余裕はありません」
「ふーん……そうなのか」
「ボーも、カノコ殿と話をしてみれば良いんですよ。知性も教養も胆力もある女性です」
「俺から近づく気は無い。だが、贅沢とは無縁らしいな。侍女たちが、先だっての妃殿下との茶会で着飾らせようとしたら『居候に金を使うな』と拒否されたと不満を漏らしていた。宝飾品も欲しがらないようだし、俺としては評価できる」
「ドレスは、よく似合ってたが……」
思わずといった調子で漏れた騎士団長の独り言に、宰相が噴き出した。
「そういや、わざわざエスコートを買って出たんだってな」
「うるさい」
「おまえ、わかりやす過ぎ」
「いや、そうでもないですよ。肝心の本人には、全く伝わってませんから。カノコ殿付きの侍女たちも、応援してるんですけどねぇ」
それを聞いて笑い転げる宰相を無視して、騎士団長はむっつりと黙ってグラスを傾ける。
「どこが良いんだ?」
ようやく笑いを収めて尋ねてくる宰相を、ちらっと見やると騎士団長はグラスを置いて指を組んだ。
「……召喚された時、気絶した彼女を俺が運んだ」
その言葉に、宰相と筆頭魔術師はうなずく。
「運ぶ途中で意識が戻りかけたんだが、朦朧としているのに『迷惑を掛けてごめんなさい』と言ったんだ。あの状況で普通、その言葉が出せるか?」
「……」
「それだけじゃない。見ていれば……ただ気が強いだけじゃなく、それ以上に細やかな心遣いのできる優しい女性なのがわかる」
「……何か、スゴイ惚気を聞かされてる気分だ」
「そうですねぇ。片思いなのに」
「ヨウ、おまえ何気にひどいよなぁ。ま、ズンダー、せいぜい頑張れよ」
騎士団長は「おまえらが結婚した時は、そっちがさんざん聞かせたじゃないか」という言葉を、酒とともに飲み込んだ。
意外と愛妻家が多いようです。