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飲み会参加のこと

お読みいただき、ありがとうございます。

「あ、これも美味いな」

「あー! それは私が食べようと思ってたのに!」

「ううむ、甘いのと辛いのを交互に食べると止まらぬ」

「……ちっ、こんなに食うんなら、引き留めるんじゃなかったな」


 育ちざかりの男の子じゃあるまいし、何がっついてんだか……という言葉を飲み込み、花乃子は自分が持ってきたつまみを奪い合う男たちを生温かい視線で見守っている。

 普段、腕の良い料理人の作った食事を食べているはずなのに、花乃子が作った庶民的なつまみに、ここまで反応するとは思わなかった。が、争奪戦が終わらない限り、話をするどころではなさそうだ。


   ◇◇◇


 ズンダーに連れられ、花乃子が飲み会の会場である宰相の休憩室に行くと、そこには既に宰相と筆頭魔術師が待っていたが、なぜか国王も座っていた。

 その国王はというと、花乃子の顔を見た途端、「用事を思い出した」と立ち上がったが、その襟首を宰相がつかんで引き戻したのは見なかったことにする。うん、見ていない。

 初めから歓迎してくれたのは筆頭魔術師だけだったが、持参したつまみを口にすると、国王も宰相も態度が一変……というか、食べることに意識を持っていかれてしまった。


 甘いつまみは、数種類のナッツのキャラメリゼと、カッテージチーズにハチミツと刻んだドライフルーツを混ぜ込んで固めたもの。辛いのは、鶏の胸肉を塩水に浸けた後にさっと蒸し、直火でこんがりと焼き目をつけたものと、その胸肉の皮をサクサクに焼いてハーブソルトをまぶしたものだ。 

 さほど凝ったものではないのに、こちらの世界では珍しかったらしい。


「あれ、カノコ殿は飲まないんですか?」

「飲めないんで、お茶で」

「いくらでもイケそうな顔なのにな」

「顔で決めんなコラ」

「!」


 さっきまでゴキゲンでつまみをパクパク食べていたくせに、宰相にツッコミ返したぐらいで一国の王がビクッとするんじゃない。と、花乃子は心の中で思っただけだが、表情には出ていたらしく、国王はしゅんとした。

 いや、ホント、いい年してしゅんとしてもかわいくないから。優男系のイケメンではあるが、ちょっと残念な感じである。花乃子限定の反応かも知れないが。


「えーと、今日は宰相殿と漫才をしにきたわけじゃなくて」

「おー、そうだった。教育制度の話だったか?」

「特に平民のね」


 話を聞いてみれば、自然科学の分野を学校で教えないのは、必須の知識ではないかららしい。確かに、知らないままでも生きてはいける。自然は、ヒトの思惑など気にしないし。


「でも、そういうのって知らないことを知る楽しさが無い感じで、私としてはつまんないのよねえ……」


 もちろん、読み書きと計算は必須だ。ただ、プラスアルファがあった方がより楽しい。そのプラスアルファが、将来の仕事に結び付く可能性だってある。が、実際問題として、自然科学系は教える教師がいないのも確かで。養成しようにも、そういう土台が無い。

 一から始めるとなると、結構、ハードルが高いのだ。

 

「あとは……子どもの職業選択の自由とか、女性の経済的自立とかだけどー」

「職業選択の自由?」


 継ぐ家の無い子どもは、平民の場合は伝手を使って奉公に出ることが多いが、そこに本人の希望があるかといえば、無いに等しい。実家がそこそこ裕福だとか貴族ならば、比較的、本人の希望が叶うことが多いし、才能が認められれば尚更だが。

 ちなみに、ズンダーは次男で武芸の実力と人格を買われての騎士団入り、宰相ボーと筆頭魔術師ヨウは長男である。


「協力してくれるところがあるっていう前提が必要だけど、ある程度の期間、実務体験をさせてあげるの。そういう体験をいろいろな仕事でやってみて、『やってみたい』と思えることがあったら、そっちに進めるように手助けするわけ」


 いわゆるインターンシップのようなものである。例え興味のない職業でも、体験してみれば、何かしら学べることがあるはず。

「なるほど。他人に押し付けられるのではなく、自分で選べるということに意味があるのか」

 納得したようなズンダーに、花乃子がうなずく。

「そう。自分がやりたいと思ったことなら、例え嫌なことがあっても続けられると思うの」

 体験が難しければ、見学でも良い。花乃子は自分も含め、元の世界の子どもたちが学校行事として社会見学なるものをしていたことを話すと、国王も興味深そうに聞いていた。

「生まれた時から、家どころか国を継ぐことが決まっているのも自由が無いと思っていたが、家を継がない者も自由というわけではないのだな」

「裕福といえない平民の場合は、特にそうだと思いますよ」


 ズンダーに連れられ、王都の様子を見たり、お店の人と話したりしていれば見えてくるものもある。雇い人を大切にしない奉公先なども無いわけではない。それに、孤児院で奥様の話では、女の子が自活できるほど稼げる仕事というのは少ないらしい。

 花乃子とて、国を背負う者の重責を忖度できないわけではないが、自分が庶民である以上、どうしても庶民の側に比重がいく。少なくとも、王侯貴族は衣食住に困ることはないし。


「どうだ、ボー?」

「おー、社会見学だったか? その辺りからできないか諮ってみるか」


 国王と宰相の言質が取れた。

医療関係や配送業者、営業中の店舗で働く皆様に感謝を抱きつつ、ご自愛を祈る日々です。

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