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養護施設でのこと2

6本足の生き物(子ども時代含む)がダメな方は、どうぞスルーしてくださいませ。

後半に出てきます。

「あの子……キビーの亡くなった父親は、ズンダーの部下だったのよ。で、仲の良い友人でもあったの」


 亡き友人の忘れ形見。

 奥様は静かな口調だが、切なさがこもる。あるいは、花乃子の心に湧いた切なさが、そう感じさせるのか。

 花乃子が、ズンダーにまとわりついて離れない男の子と、笑いながら相手をしているズンダーを見つめていると、ふとズンダーが花乃子の方を見た。笑みを含んだ瞳が、更に優しく細められる。一瞬、胸の辺りで不整脈が起こったような気がしたが、無視してズンダーに笑顔を返した。

 気づけば男の子も花乃子の方を向いているが、その顔はどこか不満気である。ズンダーの関心が、自分から花乃子に移ったと思ったのだろう。花乃子が笑顔のまま手を振ると、ぷいっと横を向くのがわかりやすく、かわいい……と思ったら、ズンダーから離れ、とたたたっと食堂から走り出ていった。

 嫌われちゃったかなー……と花乃子が苦笑していると、ズンダーが「お待たせした」と声をかけてきた。


「いえいえ、全然。奥様から、いろいろお話を伺えたので勉強になりました」

 感謝を込めて頭を下げる花乃子に、とんでもないというように手を振る奥様。

「今度は、あなたの世界の話を聞かせてちょうだいな。きっと参考になることが、たくさんあるでしょう」

「ついでに、ズンダーと二人、ここを引き継いでくれると助かるがな」

 ズンダーの後から戻ってきた施設長が、げんこつでズンダーの肩を軽く小突く。

「気が早過ぎますよ」

「おう、おまえ、俺たちをいつまでこき使う気だ」

「あと10年や15年は大丈夫に見えますが」


 内心、ズンダーに同感だと思いつつ、花乃子が口には出さずに施設長とズンダーのじゃれ合いを見ていると、おやつを食べ終わった女の子たちがそろそろと近づいてきた。話しかけたそうな様子に笑顔を向けると、その中の5歳ぐらいの子が意を決したように目の前にやってきて、花乃子のスカートをちょんっと引っ張った。

「せいじょさま、なの?」

「そうねぇ、そう呼ぶ人もいるわね」

 女の子の顔の高さに合わせて腰を落とし、真面目な顔で答える。

「でも、私は自分ではそう思ってないの」

「おもってないの?」

「そ、別の世界から呼ばれたけれど、魔法も使えない、ただのおばちゃんです」


 存在するだけで瘴気を浄化できると言われたものの、その実感は無く、召喚されただけで聖女呼ばわりされることに全く納得していない花乃子の言葉に、回りの女の子たちは不思議そうな顔をしている。

 と、そこへキビー少年が戻ってきた。


「おい!」


 そう言いながら、手に持った枝を花乃子の目の前に突き付ける。その瞬間、花乃子の周りに居た女の子たちが悲鳴を上げ、後ずさりをしたり、向きを変えて逃げたりし始めた。

 花乃子は、「あらま」と目をぱちくりさせると、少年の方に向き直る。

「もらっていいのかな?」

 全く平然としている花乃子に、キビーは拍子抜けしたような顔をしている。

「このコ、何の幼虫かしらねぇ。私の世界だと似てるのはアゲハチョウだけど」

 うふふ、と笑いながら枝に止まっている芋虫を指でつつき、「こっちの世界のコも、ぷにぷにしてるわー♪」と喜んでいる様子に、当のキビーはもちろん、子どもたちや施設長、奥様、それに職員たちも呆気にとられている……というよりは、ドン引きしている。そして、ズンダーはといえば、声を押し殺して笑っている。


「カノコ殿、ソレを連れて帰ると侍女たちに泣かれると思うが」

 笑い過ぎて腹を抑えながらズンダーが告げると、花乃子は「そうよねぇ」と肩を落とした。

「ごめんね、キビーくん。というわけで、元のところに戻してあげたいんだけど」

「え、あ……うん」

 すっかり毒気を抜かれたような顔をしているキビーに、「後で案内してね」と頼む花乃子であった。


「こちらは虫が苦手な人が多いわねぇ。食べるとか、問題外なんでしょうね」

 花乃子の言葉に、先程のドン引きどころではない激震が走った。

「た…………たべ……食べる? 虫を?」

「いつでもどこでもってわけじゃないですけど、食べる地域があるんですよー」

 にこやかに軽く言っても、衝撃は和らがない。まあ、花乃子としては、露悪的に言っているところもある。自分ではなく、回りの女の子たちを怖がらせたキビーへの牽制という意味も込めて。


 そもそも、花乃子自身は毒があるなど危害を被る場合のある虫以外は全く平気だし(いちいち怖がっていては生きていけない田舎……もとい、自然の多い環境で育った)、いかなる昆虫も食べる機会が無いまま、こちらの世界に来てしまったが、昆虫食自体にもさほど忌避感は持っていない。

「食糧難になった場合の食材として、研究もされてましたしね」

 そこまで言って、涙目になっている女の子がいるのに気づいたため、それ以上は控えた。ちょっとやり過ぎたようだ。


「おい、ズンダー、野営の時とかどうだろうな。試してみるっていうのは」

 施設長が、なぜか喰いついてきた。さすが元騎士団長というか、何というか。だが、女の子たちの雰囲気を読んでほしい。

「そのお話は、子どもたちのいない時にでも!」

 花乃子の言葉を補足するように奥様から冷たいオーラが漂ってきたのに気づき、「そうだな、ははは」と顔を引きつらせる施設長であった。

主人公と同じく、食べる方は未だ未体験なのです。

が、わざわざ捕まえて試してみようという意欲もございません。

庭には、いろいろ居るんですけどねぇ。

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