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聖女召喚のこと

ポッと浮かんだタイトルが始まりなのは、前作(そのヒールと違いますがな。)と同じです。

着地点はハッピーエンドのつもりですが、見切り発車なところが。


 聖女召喚の間には、沈黙が広がっていた。

 中心にある魔法陣にうつ伏せに倒れている女性(推定)と、それを無言のまま呆然と見つめる国王をはじめ、王太子、宰相、それに筆頭魔術師。更に、後ろには騎士団長も立っている。


 ここ聖カリント王国では、瘴気が溜まると異世界から浄化の聖女が招かれる。大きな国ではないが、豊かな自然に恵まれ、尚且つ世界で唯一、聖女の召喚が可能な国として他国からは尊重されていた。

 浄化の聖女は代々、文字通り清らかな乙女で、心優しい美少女であることが大半だという。そして、現国王の祖父は王太子時代に当時の聖女と結ばれ、聖女は王妃となった後、王とともに国の繁栄に尽力した。

 ここ数年、瘴気が増加しているという報告を受け、聖女の子孫でもある国王の命で、新たな聖女の召喚をした……のだが。


「あだだだだ……」


 うつ伏せだった女性(推定)が、呻きながら体を起こそうと動き始めた。長袖のブルゾンにGパンというラフな格好だが、あちこちに擦ったような跡がある。聖カリント王国の民から見れば、女性かどうか疑わしい異様な格好としか思えない。

 何とか体を起こして座った女性(確定)の顔は、卵型の輪郭にくっきりとした大きめの二重の目、小ぶりだがスッと通った鼻筋、固く結んだ唇は血の気が引いているものの形は良く、美人の範疇と言えるだろう。肩甲骨にかかるほどの長さのダークブラウンの髪は後ろで一つに編み込まれていて、こちらの世界の基準では短すぎる。そして、年齢はどう見ても20代よりも上に見えた。


 女性は青ざめた顔で警戒心も露わに、自分の目の前に突っ立っている面々を順繰りに見つめながら、

「どういうこと…………って、言葉は通じるのかね」

と、のたまった。後半はつぶやきである。

「あ、あの……聖女様、お手を……」

 声を聞いて、ようやく我に返った王太子が慌てて近づき、手を差し伸べる。

「はっ!? セイジョサマ?」

 女性は近づいてきた王太子を避けようとしたのか、動こうとした途端、右の足首を抑えて呻くと、そのまま気絶した。


  ◇◇◇


「つまり、自分とこの都合だけで強制的に拉致した上に、“セイジョサマ”と持ち上げて浄化作業に従事させるということを、何の疑問も持たずに何度も繰り返してきたと」

「いや、あの、それは……」

 この度、異世界からやってきた聖女は、容赦なくビシバシと国の重鎮たちに言葉のムチを振るっている。会話は自動翻訳されるようで、日本語とカリント語を話していても互いに理解できていた。


 彼女の名は久利花乃子、年齢42歳。恐らくは聖カリント王国史上最高齢(注:召喚時)、且つ最強と思われる(精神面が)聖女だ。何しろ、元の世界・地球の日本では仕事のできる独身キャリアウーマンなのだ。女性とはか弱く、守られるべき存在とされている聖カリント王国では存在し得ないと思われるタイプ(少なくとも、貴族社会ではおおっぴらには出現しない)。


 彼女は召喚される前、愛車の250ccバイクで久々の一人ツーリングを楽しんでいたのだが、山間部を走っている際に対向車線から突っ込んできたトラックを避けきれず跳ね飛ばされた。召喚されたのは跳ね飛ばされた瞬間だったが、右足首を骨折したほか、あちこちに擦り傷を作っていた。

 気絶したのはケガを含めたショックのせいで、大慌てで召喚の間から騎士団長にお姫様抱っこで運ばれ、手厚い治療を受けた。現在は、身だしなみも貴族レベルに整えられ、聖女のために用意されている豪華な部屋の天蓋付きベッドに起き上がった状態で説教をかましている。


「セイジョサマ自身、慣れ親しんだ世界から引き離されてどう思うかとか、セイジョサマの親兄弟が突然、家族を失って、どれほど悲しむかとか傷つくかとか、これっぽっちも考えなかったと」

「そ、そんなことは……」

「あ゛あ゛? 考えた上でやってたわけ?」

「いえ、えっと、聖女様は心優しい方で……」

「あいにく、私はそういう優しさは持ち合わせてないんでー(棒読み)」


 皮肉な調子に、聖女との出会いにお花畑的な期待を持っていたらしい王太子などは涙目である。


「だいたいね、瘴気が溜まったから異世界から聖女召喚って何なのよ。安易すぎない? まずは、瘴気が生じないように、溜まらないようにできないか、でしょ。しかも、元の世界に戻れる方法が無いのもおかしいし。呼びっぱなしなんて無責任極まりないわ。そんな状況を何百年?だか、疑問も持たずに続けてきた精神構造が理解できん」

「はひ……そう仰られると、返す言葉もございません……」

 花乃子の言葉にひたすら頭を下げる国王と王太子、宰相、筆頭魔術師。聖女の召喚には関係ないはずの騎士団長まで後ろで頭を下げている。良い意味で紳士的な彼らは、実態はどうあれ、聖女として召喚された女性に対し、とてもじゃないが反論などできない。

 花乃子は、ひたすら低姿勢な国の重鎮連中をしばらく睨んでいたが、最後に大きなため息をついた。


「……で? 聖女って何すりゃいいの」

3回ぐらいで終わると……いいなあ。

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